8話

 ははーん、ほーん、ふーん。

 アドラシオン様、こういう子が好みなのか。

 意外……なような、そうでもないような。

 この二人、普段どんな会話しているんだろう。


「なによ、なにか言いなさいよ!」


 いや別に、特に言うこともないしなあ。

 腹が立っていたのも、今の子供たちを見ていたら飛んで行ってしまった。


「どうして黙るのよ! どこか怪我でもしたの!? 見せなさい!」


 キッと射殺すような目で睨むと、彼女は私の腕を掴んだ。

 そのままぐいと引っ張られ、私は彼女に真正面から見据えられる。


「あの……怪我はしていないのですけど」


 と呼びかける私を無視し、彼女はきつい表情で私の体を改める。

 見かけに反して、私の体に触れる彼女の手は優しい。


「……汚れているわ。だから余計なことをしないでって言ったじゃない」


 私の腰のリボンを睨み、彼女は眉をひそめた。

 言われて私も見てみれば、たしかに。ちょっとねとっとしたゴミがくっついてしまっている。


 ――ありゃあ……。


 やってしまった。

 ひらひらしている部分だから、上手く庇えなかったのだろう。

 部屋に戻ったらすぐに洗わないと――。


「外しなさい」

「は」

「外しなさい。わたくしが代わりのものを用意するわ」


 は!?


 と思う私のリボンを、リディアーヌ様は強引に引っ張る。

 いやいやいや、たしかに取り外しできる部分ではあるけど! ここで!?

 しかも代わりのものって!


「いいです、いいです! どうせ洗えば落ちますし!」

「それではわたくしの気が済まなくってよ! 見苦しいから、早く外しなさい!」

「ま、待って! やめ――――」


「――――やめなさい!!」


 私がリディアーヌ様を制止するより先。

 鋭い声が、食堂の裏手に割って入った。


 驚いて顔を上げれば、こちらに向かってくる神官たちの集団と――見覚えのある少女の姿が目に入る。

 神官たちを率いながら、険しい顔でこちらを見据る彼女は――。


 ――アマルダ!


 見たくもない顔に、私は身を強張らせた。

 だというのに、アマルダは私の姿を見つけると、安心させるかのようににこりと微笑んでみせる。


「安心して、ノアちゃん! 私が来たからにはもう安心よ!」


 ――はい?


 といぶかしむ私の表情には気づきもせず、アマルダは私たちの前で立ち止まり――キッと私の隣にいるリディアーヌ様を睨みつけた。


 普段は可憐な表情が、今は凛と引き締まる。

 きつい顔立ちのリディアーヌ様を見上げる彼女は、まるで正義の使者のようだ。


「リディアーヌさん、そこまでよ。これ以上、あなたの好きにはさせないわ」


 震える手を握りしめ、恐怖に立ち向かうように、強く彼女はそう言った。


「ロザリーちゃんに話は聞いたわ。あなた、そうやって自分より格下の聖女たちをいじめていたんですってね。最高神に次ぐ神――アドラシオン様の聖女でありながらそんなことをするなんて……!」


 ぐっと唇を噛み、アマルダは一度目を伏せた。

 怒りと悔しさを飲み込むように、そのまま大きく息を吸うと――。


「なにより――」


 覚悟を決めたように顔を上げ、まっすぐにリディアーヌ様を見据えた。


「私の親友を傷つけようなんて、許せない! あなたの罪はすべて償ってもらうわ!」

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