13話

「優しい、優しい、ねえ」


 ルフレ様は笑いをこらえるようにそう言うと、再び私のベッドの上に戻って行った。

 そのまま、まったく遠慮することなく胡坐をかき、手遊びのように枕を弄びながら、にやにやと私の顔を見やる。


「人間ってほんと、見えるものしか見ねーの」


 笑いを含む声だけれど、その響きはどこか冷徹だ。

 乙女のベッドに居座られた恨みも込め、むっとルフレ様を見やれば、彼は悪びれた様子もなく肩を竦める。


「あの方は慈悲深くはあるけど、優しさとは無縁だよ。……ああ、でも、今は記憶を失くしているんだっけ?」

「慈悲深さと優しさ……って、同じじゃないですか」


 ルフレ様はベッドから動く気配がない。

 仕方なく近くの椅子を引いて座ると、私はそう言って息を吐く。


「優しいから慈悲深いんじゃないです? なにが違うんですか」

「お前って、ほんと単純なやつだな」


 ――はぁあああ!?


 と口に出さなかった私は偉い。

 ぐっと怒りを噛みころす横で、ルフレ様は我が物顔で、ころんとベッドに横になる。

 そこは私のベッドだ。


「ま、そのへんは元のお姿を見ればいい。俺の口からは伝えられないし、気になるならあのお方の穢れを払うことだな。聖女ならできるだろ」

「穢れを払えって、それができるなら苦労はしないわけで――」


 ん?

 待って、今なんて言った? 


「聖女なら払うことができるんですか!?」


 思わずがばりと立ち上がり、私はルフレ様に詰め寄った。

 無意識に両手も握りしめている。


 ここ数日、悩みに悩んだ神様の穢れ。

 アドラシオン様の口ぶりから、なにかしら対処方法があるんだろうなあとは思っていたけれど、どれほど調べても見つからなかった。


 なにせ、神々に守られたこの国には、『穢れなど存在しない』というのが神殿の言い分なのだ。

 神殿の図書館には穢れについての記載はほぼなく、神官に聞いても馬鹿にされるだけ。

 神様が穢れを引き受けているのだ――という話は、鼻で笑われるとともに、『役目を放棄したいからと、見え透いた嘘を吐くものではない』と説教をされてしまったくらいだ。


 神に一番詳しいはずの神殿でもこの始末。

 もう手詰まりかと思っていたところで、このルフレ様の言葉だ。


「どうやるんですか!!!!」


 私はガッと身を乗り出し、ルフレ様に詰め寄った。

 思いがけない勢いに、彼は一瞬だけ驚いたように身を引く。

 が。すぐにその顔に――どこか意地の悪い、にやりとした笑みを浮かべる。


「方法なんて簡単だ。『本当』の聖女になればいい」

「本当の――?」


 というと、やっぱり代理聖女では駄目なのだろうか。

 ちゃんと選ばれたアマルダが必要なのか――と考える私の腕を、ふとルフレ様が掴む。


 ――なに……!?


 なんて思う間もない。

 そのままぐいっと引っ張られ、ベッドに横になるルフレ様の隣に転がされる。


 ――えっ? ……えっ??


 瞬く私に、ルフレ様は顔を寄せた。

 からかうような笑みを浮かべたまま、私の耳に顔を寄せ――。


「わからないか? 聖女は、神の伴侶なんだぞ」


 妙に色気のある声で、囁いた。


「寝るんだよ。――互いの肌を合わせるんだ」


 寝る。

 寝る…………?


 ………………。


「寝る――――――!!!!???」

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