8話
アドラシオン様は建国の神様だ。
人間の少女と恋に落ちたアドラシオン様は、人間たちの住む場所を作るため、この国を築き上げたのだと言われている。
それに協力したのが、アドラシオン様の兄神――最高神グランヴェリテ様だ。
弟神であるアドラシオン様は兄神を深く尊敬していて、例の恋人の少女と兄神以外には、絶対に膝をつかないことで知られている。
性格は冷徹で、厳格。容赦のない性格から、他の神々からさえ恐れられているそうだ。
戦神としての顔も持つアドラシオン様は暴れ出すと手を付けられないが――それを止められるのも、兄神グランヴェリテ様のみだと伝えられている。
――そんなお方が……なんで神様の部屋にいるの!?
仲良くお話し? 全く想像ができない。
思わず神様に目を向ければ、黒い体をかすかにぷるぷる――だったら可愛いけど、残念ながらねちょねちょ震わせている。
まるで、怯えているように……見えなくもないような……。
――まさか……!
はっとして私は顔を上げる。
その私を、アドラシオン様は一瞬だけ、不愉快そうに眉をひそめて見下ろした。
「……ろくな魔力も持たない、こんな凡庸な娘を寄越すとは。神殿の連中め、愚かなことを。自らの首を絞めているとも知らず……!」
吐き捨てるような言葉には、深い怒りが込められている。
だけど、それがどういう意図なのか確認する間もなく――彼は煙のように、その場でふっと消えてしまった。
――消え……!? い、いえ、神様ならよくあることだわ!
驚くには値しない。いや驚いたけど。
ちょっと立ちすくんでしまったけど、それよりももっと気にするべきことがある。
「――神様!!」
アドラシオン様の消えた部屋の中。
私は掃除用具を投げ出すと、慌てて残された神様の元へ駆け寄った。
と言っても、さすがに悪臭放つねちょねちょに触れるほど近付く勇気はない。
微妙に粘つく神様に、適切に距離を取りつつ傍に寄る。
「神様! 大丈夫ですか!!」
「は、はい……? 大丈夫、とは?」
神様は戸惑っている様子だった。
姿からはわからないけれど、声が明らかに動揺している。
――やっぱり!!!
「他の神様たちに、いじめられていませんか!!??」
「はい?????」
神様は今日一番、最高に混乱したようにそう言うと、泥のような体を大きく震わせた。
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