商人の妻・カレーラSide
私は商会の経営者の妻でした。夫の両親から商会を引き継いでから、頑張って働いていたお陰で、徐々に業績も上がってきて商会も徐々に大きくなっていたと思います。支店を出す話も出てきたためさらに忙しくなりましたが、それでも頑張って仕事をしました。
私たちだけでなく息子達にも小さな頃から店の手伝いをさせていました。厳しくはしていましたが、愛情は注いでいたと思うので、ひねくれることもなく立派に育ってくれたと思います。
町の商会連合の婦人会では「そんなに自分で色々しなくても、もっとゆっくりと落ち着いて全体を見るだけにすればいいのに。」と大きな商会の婦人達に言われていました。今の私たちの商会ではそれほど利益も出ていないのにゆっくりなんかできない状態でした。きっと嫌みで言っていたのでしょう。いつか見返してあげるわという気持ちだけで頑張っていました。
息子のマルドリーが帳簿におかしなところがあると相談に来たのだけど、長年頑張ってくれているクラスターに任せているから問題は無いとあまり気にしていませんでした。婦人会の人からも「従業員を信用することはいいけど、あまり信頼しすぎるのは良くないわよ。」と言われたことがありましたが、「きっとそんなに信頼できる従業員がいないのね。」と聞き流していました。
そう思っていたところ、いきなり生活が変わってしまいました。まさか従業員全員がグルだったなんて・・・。
たしかに他の商会よりは働く時間は長かったとは思うけど、その分手当をちゃんと出していたはずでした。しかし従業員から話を聞くと、そんな手当はもらっていないということでした。さらによく聞いてみると、クラスターがなんとか調整して上乗せの給金を支払ってもらっていたと言われました。
もっと従業員と色々と話をしていたら気がついていたことなのに、それを怠ったのが失敗の原因だと思います。人材面の管理は私の仕事だったのに、それができていませんでした・・・。後でそのことを話しましたが、誰も信用してくれませんでした。夫には後で謝るしかありませんでした。
奴隷として新しい町に連れて行かれたところで、夫が私たちをまとめて購入する人がいるという話を持ってきました。私たちにはかなり良い条件の話なので大丈夫かと思いましたが、私たちはその話に乗ることにしました。もう私たちには何もなかったのだから・・・。
宿も資金も準備してくれたこともあり、1ヶ月という短い期間でしたが、できるだけの情報を集めて計画を立てることができました。そしてその内容を聞いて私たちの購入を決めてくれたようです。これで家族離ればなれにならなくですんだと単純に喜んでいました。
詳細な話をしたときに驚きました。赤字さえ出さなければ良いこと、泊まるところまで準備してくれており、目的は従業員も含めて皆で幸せになることと言われました。どういうことか正直わかりませんでした。
働く条件がいいこともあり、従業員は生き生きとして働いてくれました。もちろん私たちも懸命に働きましたが、時間に制約を設けられたので実務の大半は従業員に任せるしかありませんでした。でもその分従業員といろいろな話を聞いたり、業務の改善など情報収集に力を入れたりすることができました。
今まで自分たちですべてやろうとしていたのがそもそもの間違いだったのだと改めてわかりました。従業員との信頼関係を築き、管理をすることが大事なのだと改めて気付かされました。
もちろん忙しいときは少し残業をしなければなりませんでしたが、できるだけ家族でそろって食事をとり、休日には買い物に行ったり、家でゆっくりしたり、旅行に行ったりすることができるようになりました。
そして2年経つ頃には自分たちを買い戻して奴隷からも解放されることとなりましたが、そのまま働かせてもらうことになりました。息子達も結婚して幸せそうです。
最近は心に余裕が出てきたのか、夫と二人で行く旅行がとても楽しみです。夫も以前よりも若返ったように元気になっています。そのせいか旅行に行くと夜の生活がちょっと激しいというのが少しの悩みの種となっています。
夫も「前より若返って綺麗になった。」とうれしいことを言ってくれるので、結婚した当時を思い出してしまうのは内緒です。
旅行先で偶然にも前の町の婦人会にいた女性と遭遇しました。大きな店舗で嫌みを言っていた人です。しかし話をしてみてそれが誤解だったことがわかりました。やはり私たちの店舗の良くない噂があったようです。それを心配しての言葉だったようです。
ちなみにそこで元の店舗が潰れて無くなってしまったことを聞きました。かなりあくどい商売に走ってしまったらしく、最後はかなり悲惨な状態だったようです。
私たちも他の町でなんとか商会をやってうまくいっていると話すと、ほっとしたように喜んでくれました。「またライバルになるかもしれないけどよろしくね。」と言われましたが、それは嫌みではなく、祝福した言葉だと思いました。
夜の生活が増えたこともあってか、なんとこの年で妊娠してしまいました。確かに最近は30歳過ぎでも子供ができたという話は聞いてしましたが、私がそうなるとは思いませんでした。まさか孫と同い年の子供を作ることになるとは・・・。
生まれたのは女の子でした。息子しか恵まれなかったのでとてもかわいくて子供の成長がとても楽しみです。二人目の孫の1ヶ月後に生まれたので同い年です。息子達は少しあきれながらも祝福してくれました。「まあ、最近の二人のことを見ているともしかしてと思っていたけどね」と言われたときはちょっと恥ずかしかったですが・・・。
今は義理の娘と一緒に子育てに奮闘していますが、これはこれで楽しいものです。義理の娘も私たちをよく慕ってくれます。
クルト様が雇ってくれた子守メイドもいるので息抜きもできてとても助かっています。私の人生をもう一度やり直させてくれたクルト様には感謝しかありません。
冒険者としての名声は得られなかったけど、幸せになったよ ばいむ @bymu
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