コント 偉くなりすぎた芸人

ジャンボ尾崎手配犯

第1話

舞台の中央後方に、飲み物が置かれた小さなテーブルと椅子が二つ。

司会者がその前に立っている。


司会者「はい、今日も始まりました、トークバラエティ『深夜の奇声』。今日のゲストは小説家、映画監督、ミュージシャン、お笑い芸人で、最近は絵画まで手掛けていらっしゃる、ラークの山崎さんです! どうぞ、こちらに!」

山崎、頭を下げつつ、下手から早足で出てくる。かなり奇抜な服装。

中央で並ぶ、司会者と山崎

山崎「いや、どうも。どうも」

司会者「いやー、まさか山崎先生が出てくれるとは思いませんでした! こんな深夜番組に。だって、最近お忙しいんでしょう? (指で数えながら)小説に、映画に、絵画に、音楽に、えーと、あとお笑いにって」

山崎「いや、僕の方こそ出たかったんですよ。僕、この番組のファンでよく見てるんで」

司会者「いやいやいやいや、こんな低俗、低視聴率、ド深夜にやってる非文化的な番組に、本当にもったいないお言葉で。もう、先生がそう仰ってくれると、うちのスタッフも大喜びですよ。あ、今、ちょっと涙出てきた。あー、この番組やっててよかったなぁ」

山崎「そんなに喜んでくれると、照れちゃいますね」

司会者「また、今日のファッションもすごい似合っていらっしゃって」

山崎「そうですか? これ、派手じゃないですかね?」

司会者「いやいや、もう先生の存在感が洋服を圧倒してる感じで。他の人なら服に着られてるところを、先生の場合は服を着てるって感じですよ」

山崎「ん? あ、まあ、そうですね、服は着てますけど……」

司会者「じゃあ、そちらに」


席につく司会者。

椅子に座ろうとして派手に転ぶ山崎。


司会者「先生! 先生、大丈夫ですか! おい、AD、救急車呼べ! 早く! 折れてるかもしんねぇぞ!」

山崎「(手で制して)大丈夫です、大丈夫です。いや、これギャグのつもりだったんですけどね……」

司会者「あ! ギャグだったんですね。ワッハハハ。(手を叩きながら)面白い! 先生、面白い! センスやばい! (下手を指差して)おい、そこのAD笑えよ! 先生が体張ってギャグやってんだぞ!」

山崎「(椅子に座りつつ)そんなに面白くはないですけど。昔、椅子から滑り落ちるっていう芸をよくやってて、それをまたやってみようかなと思っただけなんで」

司会者「まあ、気を取り直して、さっそくなんですが、今度また賞をとられたとかで」

山崎「いやー、ありがたいことですよ。僕なんか大したことないのに」

司会者「またまたご謙遜を。賞は最初から狙っていたんですか?」

山崎「まあ、実は選考委員に賄賂を渡して」

司会者「え、本当ですか? (小声で)これ、オンエアして大丈夫ですか? あとでこちらでカットしておきますね」

山崎「いや、いや、あの、冗談ですから。本気にしないでください」

司会者「いやー、よかったぁ。まさか、先生がそんなことするはずないですもんねぇ。ちょっとでも疑った自分が馬鹿でした。あー、俺って本当にダメなやつだなぁ。まだまだ勉強が足りないなぁ」

山崎「あのー、そんなに色々マジに受け止められると、ちょっとこっちもやりにくいんですけどねぇ」

司会者「え! そうだったんですか? ごめんなさい、ごめんなさい」

山崎「あと、『先生』ってのも止めてもらっていいですか? なんか恥ずかしくて」

いきなり土下座する司会者

山崎「え? どうしたんですか?」

司会者「さきほどから先生を不快にしていたことに気づかず、本当に申し訳ありませんでした。どうか、どうかひらにお許しを……」

山崎「いや、困りますよ……」

司会者「踏んでください」

山崎「え?」

司会者「私の頭を踏んでください! 気の済むまで何度でも踏んでください」

山崎「できないですよ! そんなこと」

司会者「いや、踏んでもらわないと、私が納得できないので。何も罰を受けずに許してもらうなんてそんな理不尽なことないですから。これが当然の報いですから」

山崎「いや、いいですよ別に。全然許しますよ」

司会者「(顔をあげて)先生はなんて優しいんだ。優しすぎて苦しいぐらいです。わたくしこのご恩を一生忘れず、罪を背負って生きていく所存です」

山崎「先生じゃなくて、『山崎』でいいですよ」

司会者「(また土下座して)大変失礼いたしました! しかし、先生のことを先生以外の名称で呼ぶことは、私のような下民には恐れ多くてとてもとても。先生が良くても私が耐えられません」

山崎「まあまあ、とにかく続けましょう。もう、先生でいいですから」

司会者「(椅子に座り直して)ありがとうございます。ご厚意に甘えて、司会を続けさせていただきます。では、今後の活動についてお聞きしたいんですが」

山崎「そうですね。また、ちょっとお笑いに戻ろうかなと。最近、絵の仕事が結構はいってたんですけど区切りがついたんで」

司会者「そんな、お笑いなんてもったいないですよ。先生ほどの人が。先生はれっきとした文化人でいらっしゃるんですから、もう、そんな馬鹿なことはしなくてもいいんじゃないんですか?」

山崎「まあ、いや、でも元々お笑い出身なんでね。そこはやっぱり譲れないというか、自分のアイデンティティというか。いつまでも馬鹿やっていたいなと。たけしさんみたいに」

司会者「深い! 深いなぁ。確かにそうですね。僕が浅はかでした。先生は文化人でもあり馬鹿でもいらっしゃると」

山崎「うーん、まあ、あまり文化人としては見てほしくないですね」

司会者「じゃあ、文化人よりの馬鹿ということですね」

山崎「まあ、言い方がちょっと……」

司会者「実はですね、今日、そんな山崎さんがお笑いに復帰するということを記念して、番組の方で熱湯風呂を用意させていただきました」

山崎「あ、本当ですか。熱湯風呂は、若手の頃何度かやりましたね。特番とかで。懐かしいな」


お湯の入った透明な浴槽を舞台に運ぶAD。


司会者「では、準備のほうお願いします」


洋服を脱ぎ、パンツ一丁になる山崎。


司会者「はあー、身体もほうもお鍛えになって。すごいシックスパックだな」

山崎「いや、痩せ過ぎて骨が浮き出てるだけです」


浴槽のふちにしがみつく山崎。


山崎「結構、熱くないですか?」

司会者「今日は先生のために、特別に高温にしています」

山崎「いや、結構熱いですよ。湯気に当たるだけでヤバイですもん。僕の胸、真っ赤ですよ」

司会者「またまたご謙遜を」

山崎「いや、嘘じゃなくて、これ大丈夫ですか? チェックしてます?」

司会者「一番風呂は先生のためにとっておいたので」

山崎「いや、そういうことじゃなく……」

司会者「では、そろそろ押させていただきます」

山崎「ちょ、ちょっ待って……」

司会者「失礼します」


山崎の背中を押す司会者

熱湯風呂に落ちる山崎


山崎「あっち! あっつ!」


風呂から飛び出る山崎


司会者「先生! ナイスリアクション!」

山崎「(転げ回りながら)死ぬ! 救急車!」

司会者「面白いなぁ。あー、面白い。おい、みんな拍手しろよ! 先生がここまでやってくれてんだぞ。芥川賞作家が転げ回ってんだぞ!」

山崎「誰か!」

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