甲斐女流五段が引退することについての感情
将棋界では、去る人は少ない。
元々プロになること自体が狭き門ということもあるが、システム的に長く続けられる世界である。
(「拝啓 山口絵美菜様」https://kakuyomu.jp/works/1177354054917496276/episodes/16817139554686671547 より)
昨年書いた記事である。若手の女流棋士が退会するというのは、とてもびっくりした。
まさか、今年もびっくりすることになるとは、思っていなかった。
甲斐女流五段が、今期で引退するというのである。元タイトルホルダーであり、現在マイナビ女子オープンの挑戦も決まっている。将棋に対する情熱がまったくなくなったわけではないだろうし、今のところ次に何を目指すのかもわかっていない。
昔、阪神の新庄が引退宣言をした時もびっくりした。覚悟ができていなかったからである。今回の甲斐先生の引退は、その時に匹敵する「びっくり」であった。そして新庄と違って、引退は撤回されないだろう。
ただ、トップ女流棋士が突然いなくなるのは、これが初めてではない。石橋幸緒さんは、33歳の時に引退することになった。一応その前にトラブルはあったものの、引退にまで至るとは思わなかった。もしプロを続けていれば、もう一度タイトル獲得もしていたのではないか。男性棋士との対戦はどうなったんだろう。そんなことを、たまに想像する。私が将棋ファンになる前だが、林葉直子さんも連盟を退会している。将棋を続けていれば、林葉さんもきっと何か大きなことを成し遂げただろう、と思う。
おそらく来年度から、甲斐先生に関しても多くのことを想像することになるだろう。
ここ数年の出来事は、偶然ではないのかもしれない。将棋のプロも、突然やめることがあるのだ。どうしようもない理由もあるのだろうが、「次の目標に向かう」という前向きな理由で、次の世界へと羽ばたいていく。
竹俣さんのような多才な人が、一度でも将棋界を選んでくれたっていうのはすごくラッキーだったと思う。そして、子供の頃の選択にずっと縛られる必要なんてない。いつか芸能界から棋士っていう逆があったって面白いじゃない。 (https://twitter.com/rakuha/status/1225254004759810048)
かつて私はそうツイートしていた。気持ち的にはそうなのだが、やはり甲斐先生に関してはもっと複雑な感情があるのだ。これからタイトルを獲るもしれない人が選ぶ世界とは何なのだろうか。そして、引退を決意したうえで成績が良くなる甲斐先生とは何者なのだろうか。
ぜひ甲斐先生には、引退しても将棋について語ってほしい。内実は知る由もないのだが、突然引退する人の中では最も円満な形に思える。
その一方で、きっぱり次の世界に進むのならばそればそれで応援しなければ、とも思う。
ああ、感情が難しい。
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