新しいチーム羽生の景色
本日、竜王戦で中村太地八段と佐藤紳哉七段が対戦している。この二人は、アベマトーナメントの団体戦で、二年連続チームメイトだった。
羽生が自ら指名した二人は、対称的な二人である。中村はかつて羽生とタイトル戦を争っており、「誰かは指名するだろう」存在だった。それに対し佐藤は、目立った実績はなく、使命を予想する人はほぼいなかったと思う。
そんな二人を、羽生は二年連続で指名した。
中村は、順位戦でA級に昇級した。次回があれば、指名する側である。今回はチーム山崎で出場することになった。山崎は「リーダーを指名します」と言っていたが、納得の人選である。
佐藤は、昨年度C級2組で昇級争いをできなかった。目立った実績も残せていない。
おそらく二人はチーム羽生を卒業である、とドラフト前に多くの人々が感じていたのではないか。
今年の羽生は、伊藤匠五段と梶浦宏孝七段を指名した。若手二人である。羽生が本気になって勝ちに来た、と見る向きもあるだろうが、それだけではないと私は感じた。それこそ、勝ちにこだわるならば中村を指名するのもありだったのではないか。
羽生は、何らかのコンセプトを持っていると思う。以前私は「羽生さんは可能性を開花させたい人を指名するのではないか」(本稿「トワイライトゾーンとは何か」)と考えた。自らからタイトルを獲りながら、その先に進めていない中村。「いつか自らを脅かすかもしれない「少し下の世代」の1人として」(本稿「in the zoneの可能性」)、チャンスを逃してきた佐藤。二人が自らと共に戦うことによりどう変わっていくか、それを見たかったのではないか。
二人の答えは、ある程度出たように見える。
そんな羽生が今回選んだのは、とても若い伊藤と、好成績を残している若手の梶浦である。伊藤は、藤井と羽生に選ばれるという経験をすることにもなった。
藤井と同世代の伊藤は、若手のホープである。まだタイトル挑戦はないが、いずれ経験するだろう。だが、「いずれ」はいつだろうか。かつて羽生は、先輩棋士たちを倒して全冠を獲得した。「いずれ」がやってきて、同世代のライバルたちは「羽生世代」と呼ばれるようになった。もしその世代の台頭がなければ、羽生はずっと孤独な戦いを続けなければならなかったかもしれない。もちろん羽生は世代などにこだわらず、良い将棋を指すことに喜びを見出すだろう。しかし同世代と切磋琢磨できることは、やはりうれしかっただろうと思う。
経験した羽生だからこそ、全冠制覇に近づく藤井聡太の「その後」をも考えることがあるのではないかと思う。上の世代は次第にタイトル戦に出なくなる。新しい世代が台頭してくるとは限らない。同世代が追いついてくることが、自らも奮い立たせてくれる、のではないか。
伊藤がどれほど藤井を脅かすか。それは藤井がどれほど奮い立つかにもかかわっている。藤井自身が伊藤を指名したように、「とても期待されている」のだと思う。
梶浦に関しては、私は師弟トーナメントでの一局が忘れられない。畠山鎮八段が梶浦の一瞬のスキをついて逆転、畠山師弟チームが優勝したのである。
梶浦も突き抜けられない点がある。C級2組所属で七段。勝っている証拠だが、佐藤と同じく「気が付けばずっとC2」ということもあり得る。師弟トーナメント優勝という勲章も逃した。
佐藤に関しては、電王戦でのリベンジを果たせていない点がかかわっているかもしれない、と私は推測した。羽生がそういう点も気にするのならば、師弟トーナメントの結果は十分気になるところであろう。ちなみに第2回の師弟トーナメントでは、鈴木・梶浦の師弟は予選を抜けることができなかった。
梶浦が順位戦で昇級し、何かの実績を残す。羽生はそういうことを期待して、梶浦を日の当たる場所に導いたのではないか。
などと毎年深読みしているが、実は全然そんなことはないような気もする。いろいろと想像するのもファンの楽しみ方だと思うので、今年もチーム羽生に注目しつつ、楽しく観戦しようと思う。
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