第47話 松山②
零式から降りると、中から出て来たのが人間の俺だった事に安心したのか、集団の中心にいた男性が近寄って来た。
「あなた達は、どこから来られたんですか? そのロボットは一体……」
「あ、俺達の出身地はバラバラですけど、一応今は防府の自衛隊基地を拠点にしています。みんなモンスターを倒して進化は遂げています。ロボットもそんな感じで手に入りました。皆さん方はどういう経緯でここに集まられてるんですか?」
取り敢えず勢いで、そこまでは言葉が出たけど……
この空間の臭いが酷い……
里香たちもちょっと顔色が悪くなる程に悪臭がこもっていた。
「里香、ちょっと浄化を掛けてくれ、排泄物なんかも綺麗に出来るだろ?」
「う、うん」
俺達のメンバーには全員にタオルを出してあげて、取り敢えず口と鼻をふさいでいた。
ここの人達も女性が多いのでちょっと失礼ではあるが、耐えられないほどに臭かったからしょうがない。
そして、みんな下着の替えなども無かっただろうし、服装もドロドロでボロボロだった。
まだ魔物のゴブリンの方が清潔感があるかも知れないほどだよ……
代表の男の人も含めて、みんな凄く痩せていた。
食料も満足になかっただろうから、しょうがないのかな。
背は低くなったりはしてないけど、くすんだ緑の肌はやっぱり人間離れして見えちゃうな。
「皆さん、正気は保ててるんですよね?」
「あ、ああ。殆ど限界だが、最後まで人としての尊厳は失いたくないと思って、ここに残ってるメンバーは力を合わせている。ここにいるメンバーの殆どは、松山の警察署の警官と、この近辺にあった女子大の学生さん達です。最初は松山署で行動してたんですが、食料などの備蓄も無くなり、メンバーも段々と少なくなり、最低限生きて行く為に変異を受け入れても良いと言うメンバーでこのダンジョンに訪れました」
「そうなんですね。ちょっと男性の方と女性の方で別れて頂けますか? 着替え程度は提供できますので」
俺がそう提案すると、女性陣から歓声が沸いた。
香奈さんと美里さんを中心にして、全員をまず里香に浄化を掛けて貰って、着替えを渡して行った。
俺の下着コレクションが大量に消費されちゃったな。
また、ショップや物流センターを見つけて色々補充しておこう。
女性陣が終わると、男性陣も順に浄化を掛けてから、新品の下着と服に着替えて貰った。
俺は、この時にゴブリンの特性である性欲をちゃんと理性で押さえれているのかどうかを、ひそかにチェックさせて貰ってたけど、どうやら大丈夫みたいだ。
この状況の女性陣の着替えの様子とかをガン見してしまうようじゃ、信用するのは難しい。
きっと、聞いたらいけないような気がするけど、理性を抑えきれなかった人たちは、外に追い出されて行ったのかもしれないけどね……
「皆さんは食事とかどうされてたんですか?」
「オークを倒せば、肉がドロップする事もあるので、それを食べて何とかしのいでいました。水は交代で警察官組がこの部屋からダンジョンの外に出て汲んできていましたが、一度ここから出ると必ず何名かは減ってしまう状況でしたので、実際もう限界でした……」
「取り敢えず、食事も提供しますから、腹ごしらえをして下さい。おなか一杯になって落ち着いたら、松山や四国の状況を解る範囲で聞かせて欲しいんですけど」
「何から何まですいません。話は解る範囲でしたら構いません」
取り敢えず、この部屋の中の清潔感を取り戻して、空腹を満たしてもらった。
状況を聞くと、松山のみならず愛媛県内では、殆ど人がいる場所は残ってないと思うって事だった。
ゴブリンやオークは人型なので、ドアなどを普通に開けて入って来るし、オークは鼻もよく隠れていても、入り口を破壊して平気で入って来るそうだ。
ただし、この隠し部屋に関しては、意図的なのかモンスターは近寄らないってのが不思議だよね。
一部の核シェルターがあるようなところでは、生存者がいるかもしれないけど、連絡も取れないし、その人たちも様子を見に外に出る事も出来ない。
インフラも途絶えた中で、精々家族単位の避難であれば、備蓄の水や食料もまだあるだろうけど、電気の途絶えている地下シェルターで夏場を乗り切るのは大変だろうね。
何よりもうかなりの凄い数が溢れ出しているから、四国全域がゴブリンとオークに蹂躙されていると考えたほうが良さそうだな。
でもなぁ…… ドロップで肉を落とすのはダンジョン内限定だし、外のオークたちを相手するのも大変だな。
進化系統的には、ゴブリンとオークはそれぞれ別系統みたいだ。
☆2のゴブリンソードマン達までは肌が緑色。
☆3のゴブリンメイジとゴブリンヒーラーは肌が青い。
☆4のゴブリンジェネラルは肌が赤い。
☆5のゴブリンキングになるとちょっと浅黒いけど人の肌と大差ないかな?
もしかして浅黒いのは汚れてるだけかもしれないけど……
オークは☆2のオークからスタートして
☆3オークソルジャー
☆4オークジェネラル
☆5オークキング
が今の所このダンジョン内では確認できている。
問題は、こいつらは上位種が居ると、結構統率の取れた動きで襲ってくるところみたいだ。
オークジェネラルがゴブリンヒーラーや、メイジを従えていると、普通の人ではまず対処できないよな。
取り敢えずは、俺達がこのダンジョンのマスターになりスタンピードを止めれば、防府基地へと案内する事も出来るから、後の事はそれから考えよう。
「勇気君たちのお陰で、やっと人間らしさを取り戻せた気がするよ。ありがとう」
「俺達で、なんとかここのダンジョンのスタンピードは止めて来ますから、もう少しここで待っていてくださいね」
「解った、期待してるよ」
ある程度の食糧や、飲み物などを提供すると、再び零式に搭乗して先に進む事にした。
敵の強さ的には、ギャリオンではほとんど問題無く階層を降りる事が出来る。
4層に降りると、再び隠し部屋を見つける事が出来た。
「あれ? 勇気君。2層の人達は隠し部屋で何か能力は手に入れたのかな?」
「あー、ちょっと匂いとか見た目とかが色々衝撃的過ぎたから、聞き忘れちゃったよ」
「そうだよね。女子大生の人達があの見た目になって、不衛生な環境で過すなんてよく耐えれたよね……」
「うん、凄いと思う。一生懸命生きようとしている人たちを見ると応援してあげたいとも思ったよ」
「ねぇ勇気。オークにだって王様が居るくらいなんだから、このままもう勇気が王様になって新しい世界を作り上げるのなんてどうなの?」
「里香。それは無理。自分の事だって満足に出来ないのに人の上に立つなんて出来ないししたくも無いよ」
「でもね、人って結構弱いから勇気みたいな圧倒的な存在が現れたら、私達だってそうだけど、勇気に頼りたくなっちゃうよ。きっとこの先勇気の周りに、勝手に人が集まって来るんじゃないかな?」
「どうだろうね? 日本って言う国がまだ存在してるんだったら、俺みたいな高校生が上に立つ事には絶対ならないだろうし、日本が無くなってしまったら考えるかもしれないけどね」
まぁ難しい事を俺が考えてもしょうがない。
手の届く範囲で出来る事を、こつこつとやっていくしか無いよな。
「ミコ。この隠し部屋は入っても大丈夫そうか?」
「ここには敵が一体居るのじゃ。そこまで強い気配はしておらぬ」
「了解。じゃぁ行くよ」
中に入ると、羽の生えたいわゆる妖精? みたいな感じの女の子が居た。
いじめられっ子だった俺はダンジョンの現れた世界で最強能力【トランスフォーム】を駆使して無双する TB @blackcattb
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