ふたり

@haino_09

第1話

リン と鳴る目覚ましの音で目が覚めた。

目を開けるのが億劫で、体も起こさず手だけで目覚ましを探す。

「……んん、」

朝が苦手‥というか嫌いだ。

空が明るくなり1日の始まりを告げるように鳴く山鳩も、朝だけ何故か一段と五月蝿く感じる時計の針の音も、なんとなく嫌いなのだ。

「あー…」

なかなか目覚ましを見付けられず、苛々としながら乱雑に手を動かすと、運悪く置いていた本に当たり、二次災害を被った目覚ましは本と共にカラカラと転がってベッドの下に入ってしまった。

「…めんどくさいなぁ」

文句をいいながらベッドから起き上がる。ベッドの下からちらりと覗く本と目が合ったがしゃがむ気になれず、結局放置したままリビングへと向かった。


のろのろとした動きで、キッチンに予め用意していた新品のパンの袋を破り、取り出した二枚の食パンをトースト焼き機にセットする。その間に冷蔵庫からソーセージと卵を取り出す。フライパンに火をつけ目玉焼きをいくつ作ろうかと悩んでいると、チン‥と音がなりトーストが出来た事を知らされた。パックから二つ卵を取り出し、トースト焼き機から出来上がったトーストを取り出し皿の上に置いておく。


さて、ここからは時間との勝負だ。


トーストは時間が立てば立つほど固くなっていく。ゆっくりしていると「外はサクサク中はフワフワ」は愚か、ガリガリに固いパンになってしまうのだ。


温めて置いたフライパンの上に、さっき取り出した卵を二つ割りその横にソーセージを置く。蓋を被せ、火を弱めの中火にし、最近手に入れたエスプレッソマシンで二人分のコーヒーを淹れる。

焼くのもそこそこに、半熟になった目玉焼きをそれぞれのトーストにのせ、ソーセージを適当に皿に置く。

食卓に二人分、綺麗に置けば朝ご飯の完成だ。


「おはよ」

朝食の匂いに釣られたのか、ルームシェアの相方が起きてきた。

「おー、おはよ。…ってなんだよその格好!」

「どーもこーもないよ、早くご飯食べよ。」

「下着見えてるから。せめてそのずり落ちてる肩どうにかして」

「はーい」

こいつは毎朝こうだ。俺を男として認識していないのだろうかと思うほど無防備な格好で寝床から起きてくる。

まだ就職したばかりで大して稼げるわけでもなく、親を頼るのもなんだか恥ずかしくて、『早く奨学金を返すために二人で暮らさない?家賃とか諸々割り勘したら安いでしょ。』というこいつの提案に二つ返事で乗っかったのだが…もしかすると間違いだったかも知れない。

「何してんの?食べないの?」

「食べるよ。」

ご飯を目の前にして考え事をするのはご飯に失礼だ、と思い直し手を合わせていただきますを言った後、食パンを噛った。

「うん、外はサクサク中はフワフワ…セーフだ。」

「ふふ‥確かに。美味しい。」

「そうだろう、感謝しろよ俺に。」

「はいはい。有難う朱希あきくん。夕飯は楽しみにしていてね。」

「ん。そうだなぁ、久し振りに雛田ひなたの作ったパスタ食べたいな」

「リクエストか~!いいよいいよ。ミートソース?それともペペロンチーノ?んー、カルボナーラ?…さっぱり和風パスタにするっていう手もあるね」

「どうしようかな。雛田のパスタはどの味でも美味しいし。」

実際、こんなにだらしない女でも料理の腕だけは素晴らしく、作ってくれる料理はどれもこれも本当に美味しいのだ。特にパスタ。こいつの作るパスタは、麺の固さからソースの味、ソースと麺の絡み具合やなんなら温度まで含め抜群に美味しい。

「うぐ、‥選べない。」

「相変わらず優柔不断だねぇ朱希くんは。別に毎日の夕飯担当は私なんだからさ、そんなに迷うなら全部順番に作っていけばいいよ。」

「でも毎日パスタって雛田は嫌じゃないの?」

「嫌じゃないよ。なにより、美味しいって言って喜んで食べてくれる人と食べるご飯はなんでも美味しいから。だから、ね?今日は何にする?」

こういうところも嫌いなんだ。人懐こいというのか、人たらしというのか…、急に笑われるとドキッとする。まあ、俺も男だし‥?こいつは女だし?好きとかそういうんじゃなく、普通の感情だと思う。

「おーい、結局何にするの?」

「じゃあペペロンチーノで!」

「おっけーい!あ、朱希くんご馳走様。朱希の作る朝ごはんやっぱり美味しくて好きだよ。ルームシェアに誘って良かった!」

「え!?…あ、うん。どういたしまして」

いつものこいつなら絶対に言わないような事をストレートに言われ、身構えてなかった俺はあからさまにたじろいだ。




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