七つの色に願いを込めて 今日の終わりに

 その後。

 シバ南西――、ダウンタウン。

 校舎でシャワーを浴び、普段着に着替え、紹介所で報告を終えた三人は、そのままのノリで夕食と共にすることになった。


「ここの刺身はうまいんだ。日本酒もな! と、君達は飲んだら駄目だぞ。私の時代では保護者が居てもNGだったからな」


 サエはそう言うと、徳利とっくりを傾け一滴までお猪口ちょこに注ぎ、さらに店主へ追加注文する。

 テーブルには既に空の徳利が5本、チェスのこまのように立ち並び、その奥に赤ら顔のサエがふんぞり返っている。私が女王だと言わんばかりだ。

 その勢いに押されつつも、サエお勧めの店、その魚介の味は前に漁村で食べた時と遜色そんしょくないレベルで、健太とテンシも思わず舌鼓したつづみを打つほどであった。

 二人の食べっぷりを見ながら、嬉しそうにうなずくと、サエは話を続ける。


「そういえば、とある固定職のポストが空いてな。審査が良いところまで行ってるんだ」

「おおー、そうなんですね! やるう!」

「固定職というと……、中央官庁の事務員さんみたいな?」

「ああ、そんな感じだ。教師とはちょっと違う役柄なんだが、せっかくこの世界に来たからな。色々とチャレンジというわけだよ、それに」


 そこで言葉を切ると、サエは急に真面目な顔になって二人を見る。

 そして、ふっと表情を和らげる。


「君たちのおかげで、胸のつかえも取れたからな」

「……それって、まさか」

本村愛美もとむらまなみ。君達が面倒を見てくれた子だ」


 その名前は、健太とテンシにとって忘れられないものだった。

 つい一週間ほど前、流れ着いた彼女は、この世界でも常人より居られる期間が遥かに短いという不遇ハンデを背負っていた。

 そんな彼女の「夢」を叶えるため、二人は惜しみなく手助けをし、結果として、彼女は満足のいく「最終転生」を迎えることが出来たのだった。


「あの子に良くしてくれてありがとう。今更だが、お礼を言っておきたくてね」

「……サエさんは、やっぱり先生、だったんですか?」


 健太は薄々気づいていた。

 最終転生の翌日、西広場で会ったのは、必然だったのだ。


「全くもって不甲斐ふがいない担任だよ」

「そんなことはないと思います。……声くらいかけてあげればよかったのに」

「紹介所で君達と居たあの子は、ともすれば生きていた頃より格段に輝いていたし、笑ってもいた。訳アリな私が混じるのは、それこそ野暮やぼってもんだろう」

「「……」」

辛気臭しんきくさい顔するなよ。私もることが出来たんだ、あの子がどんな次を迎えたか。本当にね、君達にはどれだけ感謝してもし切れないんだ。だから、特別にこの依頼をやらせてもらったんだ」


 テンシは全ての合点がいったように、そういうことですか、と呟いた。

 色護符のチュートリアルは一年以上の経験が求められる。

 本来、サエに務まる仕事ではなかったのだ。

 だが、テンシは紹介所のリサから直々に連絡があり、サポートという形でこの依頼を請けることとなった。受講対象者以外の詳細は聞かされていなかったので、何とも不思議ではあったのだが。


「ま、そういうわけだから、ここの払いは全部私に任せてくれ。好きなだけじゃんじゃん食べていいからな」

「うん。じゃあお言葉に甘えます。今日は私、遠慮なしでがっつり食べますね!」


 テンシの目がきらりと輝くと、遠慮なく店主に次々と注文していく。

 こう見えてテンシは、人より食べる量が多い。

 出会った頃は控えていたようだが、最近は気の置けない関係になったので、健太の前では本来の姿を見せている。大体、人の三倍は食べているような気がする。

 それでいて、全く太らないのだ。


「ダータフォルグで、むぐ、加燃焼プログラム購入しましたからね、はふ」


 口いっぱいにほおばる彼女を見て思う。

 生きていた頃はこんなに食べることも出来なかったのではないか、と。

 いつか、愛美の時と同じように、その人生を「知る」時が来るのかもしれない。

 その時も、自分がこうして隣で、もう少しだけ近くに居られたら、と。

 健太はそんなことを思いながら、焼き魚の身をほぐし、口に入れる。

 そのほくほくとした温かさと旨味は、一日の終わりとしてのご褒美には十分過ぎるものだった。

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