エピローグ
「私、決めました」
食後のオレンジジュースを飲み終わると、テンシは切り出した。
「健太さんにお付き合いします」
「え、あ、はい?」
まさかの告白に、健太は理解が追い付かない。
奇跡でも起こったのだろうかと、その言葉を頭の中で
と、何となく違和感があることに気づいた。
健太さん「に」?
テンシは混乱する健太を真っすぐ見つめると、思いの丈を打ち明ける。
「健太さんが、クロトさんの事を調べてるっていう話を聞いて、思ったんです。私って、待ち続けるようなタイプの女じゃないって」
「あ、調べてるの知ってたんだ……」
冷や汗を流し、複雑な表情を浮かべる健太を気にせず、空になったグラスに少し残った氷をストローでつんつんとつつきながら、テンシは続ける。
「ええ、テンシちゃんネットワークは凄いのです。……よくよく考えたら、私、あの人のことをほとんど何も知らないんです。二年もほぼ毎日一緒に居たのに、どういう転生したかったのか、この世界で何を為したかったのか。何一つ、知らないままだったんです」
そこで一呼吸置き、改めてそれを口にする。
「だからその、色々と健太さんのご負担にならないのであれば……、私も、ご一緒させて下さい」
「あ、うん。ああ、うん、そういうことね……」
健太はわずか数秒のぬか喜びに苦笑しつつ、気を取り直してテンシに笑いかける。
「勿論。こちらこそよろしくね、テンシさん」
「はい!」
少年が差し出す右手に、少女は自らの小さなそれを重ねる。
その瞬間、頭の中で、幾つかの情景が過ぎ、去る。
けれど、二人がそれを認識することはなく。
「では、まずはクロトさんがよく立ち寄っていた大図書館へ行ってみましょう、色々面白いデータもありますし、善は急げです!」
テンシは勢いよく立ち上がり、店主のスズコにごちそうさま、と軽く一礼をして店を出る。
健太も慌てて後を追うように一礼して、店を後にする。
そんな二人の、遠ざかる背中を見送るスズコは、何かとても眩しそうなものを見るかのように目を細め、優しく微笑んでいる。
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