第三十三話 狩りゲーっぽい、そんな日々

 愛美の特別プログラム開始初日。

 朝七時に南門に集合というスケジュールであったが、連日の早起きで無理がたたったのか、健太は時間ギリギリの到着になってしまった。

 門の手前で、目をごしごしこすりながら眠そうな顔をした愛美と合流する。


「おはよう、愛美さん……」

「健にぃおふぁようぉざいます、ふぁあ」


 挨拶をしつつ重厚な造りの南門を通り抜けると、テンシが両腕を組んで待ち構えていた。


「おはようございます! もう、来ないかと思って心配しちゃいました!」

「おはようテンシさん、今日も元気だね……」


 そこまで言って、健太はあれ、と疑問を覚える。


「愛美さん、テンシさんと一緒じゃなかったの」

「ほら、私は墓守があって、朝早いので。愛美さんのことがあるから、後のお仕事はレオじいにお任せしちゃいましたけど」

「なるほど……で、一人で来たんだ」

「ううん、シーちゃんのメイドさんにすぐ近くまで連れてきてもらいました!」


 愛美からさらっと出た一言に、健太は衝撃を受ける。


「えっ、テンシさんってうちにメイドさんいるの、あの都市伝説みたいな?」

「あ、そっか。健太さん、まだ私のおうちにいらっしゃったことないですもんね。お屋敷が広いので、お手伝いなどして下さる方がどうしても必要で」

「屋敷って……」

「凄いんですよ、シーちゃんのおうち!」


 どーん、ばーん、ずばーんなんですよ、と擬音で解説するが、健太には全くイメージが湧かない。

 テンシは腕を組んだまま、やや身体を反らしながら「私は元気と美少女だけが取り柄の一般人ですよ」と不敵な笑みを浮かべると、


「では、行きましょうか」


 先導するように、普段のターミナルへの道を歩いていく。

 二人はついていき、途中で三手に分かれる道まで来ると、


「今日はこちらの、左の道を進みます」


 と、今まで通ったことのない道を歩く。

 整備された白い石畳の街道を歩くこと十分後。

 テンシは歩みを止め、右の一帯を指差す。


「はい、ここが一つ目の狩場になります!」


 そこは、少し小高い草原地帯で、街道のすぐ近くに瘴気しょうきの姿はないが、少し奥には大量の黒と紫のもやが、ゆらゆらとうごめいている。


「今日は王道も王道。草原に出現する瘴気を狩り、街が少しでも平和であるように保安管理しつつ、基礎護符と関連の護符を集めまくる日となります!」

「おー! ファンタジー感ある!」


 ぱちぱちと拍手する愛美。

 健太もファンタジーの王道、しかもパーティーを組んでの狩りということで、歩いて少し熱を帯びたのもあり、袖を少しまくり、やる気を見せる。


「なあに、私がいますし。健太さんは普段通り、瘴気をぺしぺしって突っついて下さい」


 そう言ってテンシは愛美に近づくと、その手に持っている杖の柄を右手でそっと掴み、左手をくるくると回す。

 すると、水色の護符が大量に出現し、瞬く間に杖へと吸い込まれていく。


「……うん、これでおっけー。愛美ちゃんはこの杖をもやもやに向けて、えいってやると光の帯が出ますので、それで戦いましょう」

「私はバックアップしながら、様子を見つつ適当に狩ります」


 普段とはまた違った雰囲気でテキパキと指示をするテンシの姿を見て、健太は改めて頼もしく感じるのだった。


 

 狩りが始まった。

 健太が紫の靄に近づくと、気配を察知して、紫は獣の形に凝固し近づいてくる。

 とはいえ、幼児の早歩き程度のスピードである。

 初期の頃はこのスピードでも焦り、剣を闇雲に振るうことで何とか倒せていた彼であったが、


「とうっ!」


 今回は近づくタイミングに合わせ、剣を振るう。

 ちょうど鼻先のあたりにヒットし、紫は弾き飛ばされる。

 しかし、一撃では倒せず、紫はむくりと起き上がり、頭を振り、全身をぶるぶると震わせると、また低い唸り声のようなものを上げ、突進の構えを取る。

 と、そこに、


「えいっ!」


 後方から愛美の声が響く。すると、少年の横を淡い水色に輝く平たい帯が通り過ぎていき、紫に巻き付き、締め上げる。

 耐え切れず紫は霧散し、後には護符が草原の上にひらひらと舞い降りる。


「おおー……」


 鮮やかな一撃に、健太は思わず拍手する。


「やりました! これ面白いですねっ!」


 愛美はそう言うや否や、健太に抱き着く。

 年頃の少女特有の柔らかさとテンシと同じ髪の匂いが飛び込み、健太はされるがままになる。

 と、それを見ていた白髪の少女が、ゆらり、と歩いてやってくる。


「はい。楽しいのは分かりますけど、サクサク行きましょうねー」


 笑顔で言うその声色は、やけに冷たいものを含んでいた。



 そんなこんなで二時間ほど狩りを行い、朝日は完全に昇り、同じような狩り目当ての人々が増え始めた頃。


「はい、じゃあもうそろそろ一旦終了です」


 テンシは二人に声をかける。

 健太は最後の一匹を横にぎ、霧散させる。

 そして、護符が自動回収されると、三人は街道へ集まる。


「お疲れ様でしたあ」

「お疲れ様」

「お疲れ様でした! 二人とも凄い集中力でした。この勢いだと、転生結果の上振れは確実ですね!」

「やったあ!」


 嬉しそうな表情を浮かべる愛美を見て、健太は今やっていることがこの子の役に立っているんだなあ、という充実感を感じ、心がほんのりと温かくなるのだった。


 その後、街道を進んだ先にある谷間の小さな町でテンシチョイスの昼食を摂り、午後は、先程のエリアより二つ隣の平原で狩りを再開する。

 必要な護符を取る為、それは夕暮れ時まで続くのだった。

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