第二十四話 白の想い、黒の思い
空が緩やかに白んでいくさなか、健太は一度自室へ帰るため、ヨリコと共にアパートの前まで戻ってきていた。
と、そこには。
唸りながら悩んだ表情で入り口の前を行き来する、白髪の少女の姿があった。
彼女は二人が揃って現れたのを視界に捉えると、完全に停止する。
そして、数秒の間があった後、にこやかに声をかける。
「健太さん完全復活ですね、こんなに早くからお出かけとはさすがの私も想定外でした!」
「あ、ええと」
時刻を表示させると、まだ七時半。
テンシは、視線を揺らしながら、健太とヨリコの顔を交互に見つめる。
健太はようやく状況を認識し、嫌な汗が一気に噴き出す。
「あ。じゃあ元気そうですし。私、帰りますね」
テンシは
健太は何と声をかけていいかもわからず茫然とした表情でそれを見送り、そして、その姿が完全に見えなくなると、
「ああああ、絶対やばい……」
頭を抱え、うずくまった。
ヨリコは笑いながら、彼の失意に満ちた肩をぽんぽんと軽く叩く。
「はっはっは、勘違いされたかな少年!!」
「だと思います。いきなり絶体絶命ですよ、これ」
「んー……うむう」
女探偵は目線を上げ、左手の人差し指の腹を唇に押し付け、そこからあごへ撫で下ろすいつものポーズをし、しばらく思索の表情を浮かべると。
「少年は、少年のすべきことをするんだ。テンシ君の件はボクが何とかするよ」
今、君から連絡したら事態が悪化するような気がするからな、と少年の肩を今度は少し強めに叩く。
ようやく身体を起こした健太は、ヨリコに深々と頭を下げる。
「はい……、ありがとうございます」
「なあに、ボクも少しだけ心配だからと同行した責はあるからね。うまくやっておくよ」
そう言ってヨリコは、自信に満ちた表情を健太に見せた。
*
一方のテンシはそのまま屋敷に戻ると、自室に入り、ベッドに仰向けで倒れる。
と、そこへ。カニカニカニカニ……と、独創的な着信音が室内に鳴り響く。
テンシは画面を出すと、通話の主を確認し繋ぐ。
「はい、テンシです」
「ああ、ボクだ、ヨリコだ」
「あ。さっきはすいませんでした……」
普段見せる雰囲気とは全く違う、気持ちの落ちたテンシの声に、通話先の女探偵は少々驚く。
「ああ、いやいや、こちらこそ。君の事だからおそらく気づいていると思うが、少しばかり励ましていただけだよ」
「うん、そうですよね。それに私がこうなる資格ないのに……」
「まあ、少年少女は色々あるものだからな。ちなみに昨日、無理やり話は聞かせてもらったよ。そうだ、せっかくだから大事なことを一つ伝えておこうかな」
「は、はい」
テンシは思わず強張り、その緊張が声に出る。
「そう、かしこまらなくてもいい。彼は『諦めていない』」
「え、それって……」
「そういうこと、だ。なので、とりあえずの心配はしなくていいはずだ。未来は誰にもわからないけれど、そういうものだろう?」
「そう、ですね……」
「とはいえ病み上がりだろうからな。もし、少年に何か良くない変化があった場合は君にも情報共有するよ」
「ありがとうございます。嬉しいです」
通話先の少女の、心底ほっとしたような声に、ヨリコはほんの少し苦笑する。
「何というか、大変だな、君も」
「……ミオリちゃんによく言われます」
「だろうね。そうだ、これも何かの縁だ。今度ボクの行きつけの店で女子会でもしようか。……うん、あはは、店は狭いが味は保証するよ。うん、うん。じゃあ……」
ヨリコは中央広場のベンチに座り、通話先の少女の笑顔を思い浮かべながら、楽しそうにご飯の約束をするのだった。
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