第2話 深く芳し花の香よ、千の紫(ゆかり)に咲く恋は

序 約束

 一つ鬼と二つ鬼、二人の博学子に同じ年頃の姫がいた。


 一人は名を深芳みよし、もう一人は千紫せんしと言った。

 頭の角の数は違えど、親同士が仲が良かったことから、二人の姫も仲が良く、彼女たちは幼い頃からいつも一緒に過ごしていた。


 深芳も千紫も、どちらとも母親に似て美しく、そして父親に似て聡明であった。しかし深芳は、他の誰よりも抜きん出て美しく、一方千紫は、他の誰よりも抜きん出て秀でていた。


 皮肉にもそれが二人の不幸であったのかもしれない。


 千紫は美しい姫にも関わらず、さらに美しい深芳の隣では野花のようにしか見えず、一方深芳は秀でた姫にも関わらず、さらに秀でた千紫の隣では凡庸な娘にしか見えなかった。


 それでも二人は互いのことを誰よりも大切に思い、そして尊敬していた。

 ただ、ほんのごくまれに、互いの美しさと聡明さを妬ましく、そしてうらやましく思うことはあったが。


 やがて、深芳の父親が死に、彼女の母親は鬼伯である影親かげちかに見初められて結婚する。


 母親と共に深芳が奥院へ上がることが決定した時、深芳と千紫は約束をした。


「将来、互いの子をめあわせよう」


 それは、決して手に入らないものを手に入れようとする、二人の深い思いが言葉となって現れたものだった。




【注意とお願い】

 第2話は、設定している時代背景・慣習などにより、本人の意思に反した婚姻関係をはじめ、現在の倫理に反した男女間の表現等があります。これらの行為について、賛同・容認・推奨する意図はありません。不快に感じる場合があるかもしれませんので、ご注意願います。

 シリーズものではありますが、それぞれ話としては独立しており、この話を読まなかったからといって、他の作品が読めないわけではありません。

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