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 ヒノキの体臭が続く限りの幸せを、彼は手にして抱きしめることができない。血の通ったパーツには、生まれたときからの重さがある。海の中でちぎれたような、安心したときに頭を過る不安の答えを探すため、嘘をついていた初めての口。海を思い返す寂しい心は、実は幸せな星座と同じ。臍の緒を踏みしめる太い足が、波に浸されて落としてしまった夏の日に、彼の手足は自由な声で話している。もう少しでちゃんと産まれたヒノキの年輪に逃げ延びた。海は怖いと心に留めるための洞を、胸を大きくして産み落とした彼の今。腰がヒノキと同じことは、幸せな母親と同じ。


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