第25話 破魔の矢

 どんよりと雲の立ち込める空模様は、その朝の私の気分を表しているようだった。

 まるで目途の立たない禍者の捜索や、恋愛関係を追及されるなんて慣れない状況が重なり、感情的にテンパっていたとはいえ色々と言いすぎた。


 大事なパートナーとか、二人で成し遂げるとか、父の勝手な誤解も付け加えると、かなり恥ずかしい発言をしているような気がする。

 いったいどんな顔をして真輝と向き合えば良いのか、考えるほどにどんよりとした気分になってくる。


「ほら、姫華、ぼーっとしないで早く食べちゃいなさい。遅刻するわよ」

「んー……分かってる」


 ちゃんとテレビに表示されている時間は見ているし、天気予報も確認している。


「なぁに、鬼塚君のことを考えてて良く眠れなかったの?」

「ち、違うわよ。そんな訳ないでしょ……」


 母には違うと言ったものの、実は図星だった。

 昨夜の夕食後に行ったネット検索でも、禍者の手掛かりになるような書き込みや動画は見つけられなかった。


 無力感を抱えて布団に入って目を閉じると、真輝に抱き寄せられたことが頭に浮かんで来てしまった。

 真輝は着やせするタイプのようで、肩や腕は思っていたよりもガッシリとして、たくましかった……とか。


 鬼の形相で迫って来る父にも全く動じた様子を見せず、本物の王子様みたいだった……とか。

 もう少し普段から愛想良くしてくれれば……いや、そうすると他の女子にも人気が出ちゃうから……って、別に取られる心配とかしてる訳じゃないから……とか。


 自分と真輝はどんな関係なんだろう、この先どうなっていくのだろう、真輝は私をどう思っているんだろう……とか考えてしまい、なかなか寝付けなかったのだ。


 朝食の後でしっかり歯も磨いた。

 髪も梳かして整えた。


 姿見の前で制服の着こなしもチェックした。

 豆大福と今日は草餅もオマケしてパックに詰めた。


「いってきま~す!」


 母と妹がニヤニヤしてたけど、気にしない。

 あぁ、でもどんな顔をして真輝に会えばいいのだろう。


 悩みながら家の横の路地に出ると、表通りを童子を肩に乗せた真輝が通り過ぎて行く……って、ちょっと、私を置いていくつもり?

 急ぎ足で追いかけて、後ろから声を掛けた。


「おはよう、真輝」

「おはよう……」


 足を止めて振り向いた真輝は、じっと私の顔を見詰めた。


「えっ……な、なに? 何か顔についてる?」

「俺に無理をするなとか言っておいて、ちゃんと寝てないだろう」


 真輝が目の下をなぞってみせる。

 顔を洗って、髪を整えても、目の下の隈は隠せなかったようだ。


「ごめんなさい。でも、気になっちゃって……」

「しょうがない奴だ……」


 真輝は呆れながらも、ふっと笑みを浮かべてみせる。

 気になっていたのは、禍者じゃなくて真輝のことなんて言えないよね。


「で、でも、どうするの?」

「そうだな……今回は、インターネットを探しても見つからないような気がしている」


 歩き出しながら、真輝は自分の考えを口にしはじめた。


「言い方は悪いが、土地神様に仕組まれていると話したよな?」

「うん、事件を起こしているのは妖かしだけど、解決までの道筋は土地神様が仕組んでいるって話だよね?」

「そうだ。これだけインターネットを調べて、大学の周りを嗅ぎまわって、それでも何も掴めないとすれば、鍵は別の場所に落ちているはずだ」

「別の場所か……」

「それさえ分かれば、一気に片が付きそうな気がするんだが……」


 腕組みをして歩く真輝の真剣な横顔に、思わず視線を引き寄せられてしまう。

 うわっ、睫毛長っ……肌、白っ……。


 ふと視線を感じて目線を上げると、童子がニヤニヤしながら私を観察していた。

 くぅ、真輝の横顔に見惚れていたのをバッチリ見られた。


「どうした、顔が赤いけど熱でもあるんじゃないだろうな?」

「う、ううん。何でもない、大丈夫、平気よ。それで、鍵よ鍵!」

「あぁ、その鍵だが……」


 不意に真輝は足を止めて、私の方へと向き直った。


「姫華……」

「はひぃ……」


 ハズい! ちょっと声が裏返った。


「鍵は姫華が握っていると思う」

「えっ、私っ?」

「姫華自身という訳じゃなくて、何らかの繋がりで鍵を見つける……って感じじゃないか?」

「何らかの繋がり……」


 真輝と並んで歩きながら、繋がりついて考えてみたけど、漠然としすぎてイメージが湧いてこなかった。

 また視線を感じて横を見ると、真輝が真剣な表情で私を見詰めていた。


「えっと、なに……?」

「いや、繋がりと言ってはみたが、俺とは違って多すぎると思ってな」

「うん、ちょっと漠然としていると思って……あっ!」

「どうした、何か思いついたか?」

「うん、たぶん。その繋がりは私だけでなくて、真輝にも関係してるんじゃない?」

「そうか、姫華に関係する繋がりの中で、俺とも関係する……」


 言葉を切った真輝の視線の先には、気まずそうな表情を浮かべた丸山君と長倉君が立っていた。

 その時、童子が鋭い声を掛けてきた。


「真輝、臭うぞ。奴の臭いだ」

「どっちだ?」

「もう少し近づかないと分からん」

「違う。丸山君じゃなくて、お姉さんだ」

「どういうことだ、おい、姫華!」


 問い掛ける真輝を置き去りにして、丸山君のところへと駆け寄る。


「き、清宮さん、昨日は……」

「教えて、丸山君! お姉さんの通っている大学って、白山にある大学だよね?」

「そ、そうだけど……」

「こいつから臭うが、こいつじゃねぇ」


 追いついて来た童子がキッパリと言った。


「お姉さんは、まだ家にいた?」

「うん、たぶん……」

「姫華、案内して……おい、何のつもりだ、手を離せ!」


 走り出そうとした真輝の肩を、長倉君が掴んでいる。


「どういうことだか説明しろ。今の様子だと優二の姉さんが関係してそうだよな」

「説明してる暇は無い。離さないなら力づくでも離させるぞ」

「ふざけるな、僕のお姉ちゃんをどうするつもりだ! 納得のいく説明が出来なきゃ、ここは通さないぞ!」


 丸山君まで真輝の前に両手を広げて立ち塞がって説明を求めてきた。


「ちっ、面倒な……」

「待って、真輝」


 瞳に剣呑な色を浮かべた真輝だが、私の言葉で思い留まってくれたようだ。


「信じてもらえるか分からないけど、丸山君のお姉さんには危険な妖かしが憑いているの。私には祓えないけど、真輝なら……」

「そんな話、信用できないよ。清宮さんは信用できるけど、こいつは駄目だ!」


 丸山君は、真輝と口論になった時のことをまだ根に持っているのようだ。

 真輝は小さく舌打ちすると、長倉君に視線を向けた。


「お前はどうするんだ?」

「俺は……優二が駄目だと言うなら通す訳にはいかない」


 妖かしと聞いて逡巡した長倉君だが、キッパリと言い切ると真輝を掴んだ手に力を加えたようだ。


「じゃあ、仕方ないな……」

「うわっ……ぐはっ!」


 真輝がどう動いたのかも分からないが、気付いた時には長倉君の巨体が宙に舞い、背中から地面に叩きつけられた。


「ぐぅ……」

「行くぞ、姫華!」


 長倉君に視線を奪われている間に、真輝は丸山君を当て落としていた。

 手荒な方法だけど、今は一刻でも早く丸山君の家に行く方が先決だ。


「こっちよ!」


 丸山君の家までは、五百メートルも無いはずだ。

 階段を駆け上がり、観音寺の築地塀の横を走り抜け、住宅街を息の続く限り、懸命に走り続けた。


「はぁ、はぁ、この先の……」


 住宅地の路地に走り込んだところで、丸山君の家から出て来た女性と目が合った。

 初対面なのに、背中に冷や水を浴びせられたような寒気を感じる。


「下がってろ。管狐、ちゃんと守っていろよ」

「きゅう!」


 ふらふらした足取りで近づいて来る女性は、髪がボサボサで洋服も着崩れている。

 路地の入口に立ち塞がった真輝から十メートルほど離れたところで足を止めると、威嚇するような笑みを浮かべながら口を開いた。


「お前ら……邪魔するのか……」


 女性の声は老婆のように皺枯れていた。


「邪魔するんじゃない。終わらせるんだ」


 真輝が話し終えた瞬間、激しい爆発音と共に女性の体が内側から弾け飛び、炎の壁が押し寄せて来た。


「きゅう!」


 くーちゃんが甲高く鳴くと、私の周囲をキラキラと輝く球体が包み、炎を寄せ付けなかった。

 厚さ五メートル程の炎の壁が通りすぎると、周囲の家が燃え始め、丸山君のお姉さんが居た場所には、青白い炎に包まれた巨大な蛞蝓が鎌首を上げるように蠢いていた。

 頭は家の二階ぐらいの高さにある。


「真輝ぃ!」


 真輝は童子と共に炎に包まれていたが、童子が腕を一振りすると、黒い鬼気と共に炎は吹き飛ばされた。

 次の瞬間、消えたかのように見えた童子は、巨大な蛞蝓に爪と牙を突き立てて押さえ込んでいた。


 パーン、パーン、パーン、パーン!


 四度柏手を打った真輝は、曇天の空を見上げて、朗々と祝詞を奏上し始める。


「高天原に坐し坐して天と地に御働きを現し給う龍王は、大宇宙根元の御祖の御使いにして一切を産み一切を育て、萬物を御支配あらせ給う王神なれば、一二三四五六七八九十の十種の御寶を己がすがたと変じ給いて、自在自由に天界地界人界を治め給う……」


 真輝の体を包んでいた神気が収束し、天へと立ち昇っていくと、雲は黒々とした渦を巻き始めた。

 雷鳴が轟き、雲間に稲妻が生き物のように走り抜ける。


「……萬の病災をも立所に祓い清め給い、萬世界も御祖のもとに治めせしめ給へと祈願奉ることの由を聞し食し、六根の内に念じ申す大願を成就成さしめ給へと、恐み恐みも白す」


 真輝が祝詞の奏上を終えた途端、バケツを引っくり返したような猛烈な雨が叩き付けて来た。

 荒れ狂う雲間を縫う雷光は、まるで龍の群れのようだ。


 土砂降りの雨に打たれ、周囲の家々に広がった火災は、急速に勢いを弱めている。

 青白い炎に包まれた大蛞蝓も、明らかに最初よりも小さくなっているが、それでもまだ軽自動車ぐらいの大きさがあった。


「くそっ、ジリ貧か……」


 合掌し一心不乱に祈りを捧げていた真輝が、呻くように呟いた。


「あの天海すらも退けた我を……汝ごとき若造が祓えるとでも思うたか……」


 皺枯れた老婆のような声は、音として聞えるのではなく、直接頭の中に響いてくるようで、精神を汚染されるような不快感を覚える。


「きゅきゅーっ!」


 突然くーちゃんが甲高く鳴いたかと思うと、私を覆っていたキラキラした球体が消え、目の前に一張りの和弓が現れた。


「えっ、これって……」

「姫華、弓を引け!」

「えぇぇ! 私、弓道なんてやったこと無いわよ!」

「いいから、見様見真似で構わないから、弓を構えて引け!」

「分かった」


 黒漆塗りの弓には、艶やかに躑躅つつじの模様が描かれている。

 白く柔らかな革の巻かれた所を握るのだろう。

 左手で弓を握ると、生まれて初めて手にしたとは思えない程しっくりと馴染んだ。

 右手を弦に掛けようとして、肝心な物が足りないことに気付いた。


「真輝、矢が無い!」

「矢は必要ない。弓を引いて弦を鳴らせ!」


 真輝の声に、震えが混じっているように聞える。

 立ち上る神気が細くなっているようだし、雨の勢いも弱まっている。

 迷っている時間は無さそうだ。


「えっ……嘘っ」


 見様見真似で引こうとしても、弓はびくともしない。

 まるで何かで固められているかのように、一ミリたりとも弦が動かないのだ。


「真輝、びくともしないよ!」

「何だと!」


 振り向いた真輝の顔には、今まで見たことの無い焦りの色が浮かんでいた。

 童子は、のたうつ蛞蝓を押さえ込んでいるものの、大きさは先程から変わっていないように見える。


「貸してみろ……うっ!」


 合掌を解いた真輝が駆け寄って来て、弓を手にしようとするが、バチっという音がして火花が散った。


「くそっ……どこまで俺達をオモチャにすれば気がすむんだ!」


 真輝は感情を剥き出しにして、天に向かって叫んだ。

 雨は完全に止んで、雲間からは光が差し始めている。


「真輝! 押しきれんぞ!」


 童子の声にも、焦りの色が滲んでいる。


「真輝、どうするの?」

「いいか姫華、この弓は、たぶん姫華にしか引けない……いや手に取ることすら叶わないだろう」

「でも私では、びくともしないんだよ」

「それは、神気が足りないからだ」

「えっ、それって……んっ」


 真輝は私の頬に両手を添えると、強引に唇を重ねてきた。

 固く閉じた私の唇を真輝が舌で抉じ開けると、鮮烈な気が流れ込んできた。


「んふぅ……んんっ……」


 真輝の神気に触れたところから、細胞の一つ一つが生まれ変わり、バージョンアップされていくようだった。

 生まれたままの姿を全て曝け出し、身体の隅々まで真輝の色に染められ、自分が消えてしまうような恐ろしさと、蕩けるような悦楽の波に全身が打ち震える。


「んぁ……姫華、弓に従え」


 唇を離した真輝は、力尽きたように膝から崩れ落ちた。

 真輝の言葉を頭ではなく、身体が理解している。

 私が何をすべきか、弓が全て教えてくれた。


「童子、合図したら離れて!」


 大蛞蝓に食らい付いたまま、童子は目で笑ってみせる。

 弓を胸の前に掲げ、弦に右手を添える。

 そこから先は、私が弓を引くのではなく、弓が私に引かせているようだった。


 さっきはビクともしなかった弦が、今度は軽々と引ける。

 弓が大きく撓ると、両手の間に光り輝く矢が現れた。

 真輝から受け取った、神気が凝縮された矢だ。


「童子!」

「おうよ!」


 大蛞蝓を蹴り付けるようにして童子が飛び退った瞬間、ピーンと琴のような弓弦の音を残して、一筋の光跡が走った。


「ぎぃあぁぁぁぁぁ……」


 大蛞蝓の体の中で、直径十センチほどの球体が直視できない程の眩い光を放ち、みるみるうちに蛞蝓は縮み続けて、最後は球体に飲み込まれるようにして姿を消した。

 眩い光も消えたのを確認すると、全身から力が抜けていき、へたり込んでしまった。


「ぐふふふ、見事な共同作業だったぜ、嬢ちゃん」


 童子の軽口に返事をする元気も残っていない。


「きゅ! きゅーきゅー!」


 弓から元の姿に戻ったくーちゃんが、肩に駆け上って摺り寄って来たけど、何だか素直に喜べない。


「真輝……終わったの?」

「たぶんな……」


 ふらつきながら立ち上がった真輝が、手を差し伸べて来る。

 遠慮なく引き起こしてもらうと、真輝はそのまま私の腰に手を回して引き寄せた。


「ちょっ……」

「このまま、ここから離れるぞ」


 気が付くと、童子の鬼気が私も一緒に覆っている。

 それと同時に、それまでミュートしていたかのように周囲の音が聞えてきた。


 けたたましいサイレンの音、消防士達が交わす声、現場を規制する警察官の声、

 野次馬達のざわめき。


「どうなってるの?」

「土地神様の結界みたいなものだろう」

「結界って、いつから?」

「深く考えるな。そういうものだと思っておけ」


 私達は、ごった返す消火活動の現場から、誰にも気付かれずに離れることができたのだが、土砂降りの雨と放水の余波を浴びて濡れ鼠だ。

 童子の鬼気に隠れたまま、自宅の玄関まで送ってもらった。


「ねぇ、丸山君のお姉さんって、どうなっちゃたの?」

「どこからが結界の中の出来事だったのか、俺にも分からない」

「じゃあ、またネットで結果を知るしかないのか」

「そういうことだ。まぁ、今日は疲れただろうから、ゆっくり休め」

「うん、真輝も……あっ、そうだ。今日の分」


 幸い、鞄の中にいれておいた、豆大福と草餅は無事だった。


「おぅ、ありがとう」

「さすがの真輝もダダ漏れさせる神気は残ってないか」

「あぁ、すっからかんだ」


 苦笑いした真輝と顔を見合わせたら、急に神気を注がれた時のことを思い出した。

 あれって、間違いなくキスだよね。それもディープな……。


「じゃ、じゃあ、また明日……」

「明日は、土曜日だぞ」

「そうだった。じゃあ、また月曜日に」

「あぁ、ゆっくり休めよ」

「うん、真輝もね……」


 童子を肩に乗せて去っていく真輝が、見えなくなるまで見送ってから家に入った。

 別に、別れ際のキスなんて、期待しなかったからね。

 ちょっと物足りないなんて、ぜんぜん思ってないからね。


 両親には急な雨に打たれて、具合が悪くなったので帰って来たと嘘をついたが、着替えて布団に潜ってスマホで検索しているうちに眠ってしまった。

 自分で思っていたよりも、色々と消耗していたようだ。


「真輝……?」


 頭を優しく撫でられて薄っすらと目を開いた、見えたのは母の笑顔だった。

 布団を頭まで被って、茹でダコみたいになっているであろう顔を隠した。


「姫華にも、ようやく春が来たみたいね」

「そんなんじゃないもん……」

「はいはい……具合はどう? 何か食べられる?」


 思ったよりも眠っていたようで、お昼どころか、もう三時になるところだった。

 母が作ってくれたおにぎりを食べながら、パソコンで火災のニュースを検索する。

 火災の原因は特定されていないが、ガス爆発の疑いが強いとされていた。


 負傷者七名、行方不明者一名。

 行方不明者の氏名は、丸山一恵、二十歳の大学生と報道されている。

 丸山君のお姉さんは、身体の中からバラバラにされながら、妖かしの炎に焼き尽くされていたように見えた。


 ショッキングな光景だったが、血飛沫や肉片は飛び散らず、可燃性ガスが詰まったビニールの人形に火が着いて、薄い皮が燃えながら舞い散ったような感じだった。

 真輝と一緒に駆けつけた時には、たぶん手遅れだったのだろう。


 昨日の午後、長倉君と家に行った時に気付いていたら、どうだっただろうか。

 くーちゃんが警戒心を露にした時に気付いていたら、助けられただろうか。


 でも、あの時は真輝が居なかったし……でも私に力があれば……。

 時間が経って、改めて考え直してみる程に罪悪感が大きくなっていく。


 明日は土曜日、明後日は日曜日、気分が優れないと家に篭っていれば顔を会わせずに済むだろうが、月曜日には丸山君に説明を求められるだろう。


 その時、私は何と言ったら良いのだろうか。

 何と言えば、丸山君は納得してくれるのだろうか。


「きゅぅ」


 すっかり管狐の姿に戻ったくーちゃんが、頬に擦り寄ってきた。

 たぶん慰めてくれているのだろう。


 今回の一連の出来事は、土地神様に仕組まれていると真輝は言っていた。

 確かに、振り回されている自覚はあるし、ただ『見える』だけの私だけでは、あの危険な妖かしを退治できたとも思えない。


 だからといって、丸山君のお姉さんの死について、何の責任も無いとは割り切れない。

 真輝に会いたい。会って自分のモヤモヤとした胸の内を曝け出し、進むべき道を示してもらいたかった。

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