『幸子さん対処典』 その3

 『シベリウス先生の第2番』は、どんどんと、大きく、空いっぱいに広がって、不思議が池の森に響き渡りました。


 たまたま、その場にいた人たちは、またまた、信じがたい光景に、ただ見とれるしかありません。


 空からは、なんと、オーケストラが、降りてきたのです。


 『第4楽章、フィナーレ、アレグロ・モデラート❕』


 幸子さんが叫びました。


 『はふははははははは❗ 化け物のくせに、よく見抜いた。では、この音のパワーを体感しながら、消え去るがよい。』


 シベリウスさんの、交響曲第2番が持つエネルギーは、莫大です。


 長年、大国に虐げられ、積もりあがった精神力が、たっぷりと、詰まっているのですから。


 オーケストラが繰り出す、音たちが、

沸騰し、燃え上がり、地獄の業火のごとく、不思議が池に、降り注ぎました。


 そうして、お池の中を対流し、表面では、音符たちが、渦巻く湯気のなかで、踊りまくり、走り回ったのです。



 お池は、見るまに熱くなり、ついには、等活地獄の『瓮熟処』のごとく、ぐらぐらと、煮えたぎりました。


 『あちち。もう。少し熱すぎですわ。氷をくべましょう。』


 幸子さんは、かつて、冬のこの山で、凍りついたこの池のほとりで、命を落としました。


 上役の、無理な命令の為に。


 生き物を殺して食べたものは、ここに、落とされるという地獄ですが、幸子さんの正体は、女王さまが経営する、私立の地獄の鬼なのです。


 しかし、鬼の姿は、『怖いし、お肌にシワができるから嫌❗』と言って、めったに、本性は見せません。


 だから、幸子さんは、『お饅頭あらし〰️〰️〰️‼️』だけではなく、真夏でも、お池を氷で固めてしまう、というような凄いことも、できるわけです。


 しかも、シベリウス先生の音楽は、冷たい凍った池などとは、相性が、抜群に良いのです。


 幸子さんは、それしか能のない、やましんさんから、シベリウス先生の曲を、沢山聞かせてもらっておりました。


 処典とも、あろうものが、そこは、ぬかっていたのです。


 相手が知っている音楽の場合は、化け物殺害効果が下がります。


 大体、鬼の幸子さんには、熱湯攻撃が効くとも思いにくいのですが。


 幸子さんは、氷返しの術で、煮えたぎるお池を、逆に冷やしてゆきました。


 『くそ! ちょこざいな。化け物め。』


 『あなたこそ、化け物でしょう。どこから、来たのですか?』


 『私は、化け物ハンターだ。化け物といっしょに、するな、さあ、さらに燃え上がります。』


 『シベ2番』は、終結に向けた、壮大なクレッシェンドになっています。


 終わりに近づくほど、大量のエネルギーが放出されるのです。


 フィナーレは、それはもう、凄まじい力を見せつけます。


 固まりかけた部分も、また、融けて煮え始めました。


 何をやりたいのか、処典さん?


 そして、どうする? 幸子さん?



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『小さなお話し』 その113 やましん(テンパー) @yamashin-2

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