第8話 監 禁
間もなく昼になろうというとき、薬捨て場特有の臭いがする手紙をセイナから見せられたヒュイの顔がみるみる変わっていった。
「こいつは……まさか」
この数字はおそらくカートらが決行しようとしている計画決行の日時のことだ。
上の連中、つまり政府の連中にこの手紙を届けようとしたが、木箱のロープが切れてしまい落下。
それをセイナに拾われた――――そしてセイナが見たというマスク姿の人物は間違いなくウィーであろう。
ということはウィーが政府の連中にこの手紙を渡そうとしてた?
やぶ医者だが大切なノアを幾度も助けてくれたあのウィーが?
いや待て、人間がいろんな顔を隠し持ってるのはここへ落ちて来る前、散々思い知らされたろう。
これはカートに知らせるべきか?
ヒュイは逡巡した。
そのとき外でノアの短い悲鳴が聞こえた。
「ノア!」
同時に叫んだヒュイとセイナが小屋から飛び出した。
ふたりの目線の先に、小さなノアの体を抱きかかえる太った大男がいた。
そして大男の両脇にはナイフを持ったひょろ長い男が立っていた。
「はっ、何のつもりだい? てめえら」
ヒュイが怒りもあらわに三人組を睨みつけた。
「わわわ、な、なんなんですかこの人達」
セイナがその隣でおろおろする。
「ふん、この西区画から物を奪ったり、盗んだりする東区画のゴロツキ兄弟だよ。おい、こんなことしたらカートにどうされるか知ってんだろうな」
ヒュイは眠そうな口調と眼差しで三人に近づこうとした。
「止まれ! カートなんざ知ったこっちゃねえんだよ! お前ら言うとおりについてこい、そうすりゃこのガキは放してやる」
片方のナイフ男がノアにナイフを向ける。
それにヒュイの眉間に皺が寄った。
カートの名を出せばそそくさ逃げ出すゴロツキ兄弟が?
予想外の言葉にヒュイは内心驚きながら立ち止まった。
「おおっと、お前はそのコートを脱いでこっちに投げろ」
もう片方のナイフ男が腰を引きながら用心深い声でセイナに言った。
連中の服装にどことなく見覚えがしたセイナだったが、言われるままにコートを脱いで足元に置いた。
それを見届けたナイフ男が油断ならない上目遣いでコートを手繰り寄せると黄色い歯をのぞかせて笑みを浮かべた。
「へへぇ、これであの得体の知れない攻撃は出来ないって寸法だぜ! れと……あ~……そう! 紙だ、その女が拾ってきた紙とやらをよこせ」
コートを手にしたナイフ男が叫んだのでヒュイは手紙を地面に投げつけた。
ゴロツキ兄弟は拾った手紙を懐に仕舞い込むと、ヒュイとセイナにうつ伏せになるよう命令した。
そして2人の両手を後ろに縛り、5分ほど歩いた先にある地下室への扉の横まで歩かせた。
ナイフ男の片割れが扉にかかってる鎖を外し、取っ手を掴んで持ち上げた。
「入れ」
言われるままヒュイとセイナは地下室への階段を下り始めた。
「ノアを放しておくれ」
地下室に着いたヒュイは扉から覗き込んでる三人にそう言うと、ナイフ男はニヤリと笑った。
「おい放してやれ」
ナイフ男の台詞に、太った大男がノアを両手で持ち上げると、2人がいる地下室めがけて放り投げた。
ヒュイが短い悲鳴をあげ、ノアを体で受け止めようと落下地点に駆けだしたが、空の工具箱に足をとられ倒れてしまった。
どすん、という鈍い衝突音が地下室に響き、ヒュイは瞼をきつく閉じた。
「う~ん」
セイナの唸り声で目を開ける。
ノアは仰向けになったセイナのお腹の辺りに丸まって倒れており、恐怖のあまり涙を浮かべた目を見開いていた。
セイナといえばノアを受けとめた衝撃で後ろに倒れ、後頭部を地面に打ったのか鼻から血を流して気を失っていた。
扉の方からいかにも品の無い笑い声の三重奏が起こる。
心底湧いてくる怒りにヒュイは上を睨みつけて何か怒鳴ろうとした。
そこへ隣の暗がりから聞き覚えのある声が響いてきた。
「ここを出しやがれ! この薄らトンチキカチども」
暗がりに慣れてきたヒュイが声の方に目を凝らすと、乾いた血があちこちついて顔が腫れているウィーがいた。
「ウィー?」
ヒュイの声に、両手を後ろに縛られあぐらをかいたウィーがしかめっ面でこちらを向いた。
「よお、ヒュイ。いったい何なんだ? いきなりあのゴロツキ連中に袋叩きされた挙句、こんなところに放り込まれちまった」
頭上からひょろ長いナイフ男の声が響く。
「そこのやぶ医者にでも診てもらいな、ひゃはははは!」
そう言ったナイフ男が扉を閉じようとする。
そこで太った大男と交わした会話をヒュイは聞き逃さなかった。
「これでジェイムズの奴ウォッカ寄こすんだろな?」
「おい、言うな! バカ」
本日午後6時の更新話につづく
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