のじゃロリ狐のせいで「合コンのかきくけこ」しか話せなくなった件について

酒井カサ

第「狐」話:出会って五秒で狐が嫁入りっ!

「ワシは狐神じゃ。お主の願いをなんでも叶えてやろうなのじゃ」

「うわぁ~、こんなエロ同人誌でしか見ないような『のじゃ狐』って実在したんだぁ~!」


 夕暮れ時の寂れた神社にて。なんとなくでお賽銭を投じた俺は見事、のじゃ狐の召喚に成功したのだった。衝撃の展開に腰を抜かしつつも、俺はせっかくなので願い事をしてみることにした。


 その願い事とは――


「なんじゃ、ギャルのパンチィが欲しいのか」

「……そんなニッチにして後で虚しくなる願い事じゃないですよ」

「それじゃあ、なんじゃ。もしやおなごにモテたいとかじゃろうか?」


 図星だった。

 俺の願いはただ一つ。モテモテハーレムの形成だった。

 大学もはや二年生になったというのに、成人したというのに。俺は未だに彼女が出来ず、童貞のままだったのだ。

 これほど惨めなことがあろうか、いやない(反語)。

 しかし、カノジョをつくるためにとるべき具体的な行動など分からなかった。

 ゆえにまずは神頼みから始めてみようと思ったわけだが……。


「ほほ~う、今も昔も殿方が願うことは同じなのじゃな」

「……という事は俺をモテ男にすることができるのか!?」

「無論じゃ。ワシが何千年もの間、縁結びをしてきたと思っているのじゃ」


 ふふんと大きな胸を張るのじゃさま。

 これほど神妙不可思議な彼女なら願い事を叶えてくれそうだ。

 ぐふふ、俺が性行(誤用)する日も近そうだな。


「といってもここ百年ほど仮眠を取っていた為、術式は古いかもしれん」

「それじゃ、出来ないってことか?」

「案ずるな若造。今、インターネッツとやらでナウでヤングな若者に大人気な恋愛法を確認しておる。すぐにお主をモテ太郎にしてやるからな」


 そう言って、丸い老眼鏡を取り出してスマートフォンを操作するのじゃ様。

 外見に似合ず、ハイテクマシーンも扱えるらしい。

 ……百年以上も眠っていたくせに。

 しかも、言葉遣いは明らかに平成初期だし。

 元号も変わって、今は令和なんだよ。のじゃバア様。


「ほうほう、昨今の若造どもはどうやら『合コンのかきくけこ』なる方法で寝床に誘っているらしいのじゃ」

「はあ、合コンの『かきくけこ』ですか」


 聞くにどうやらどこかのまとめサイトで取り上げられていた方法らしく。

 ・か――「かわいいね」

 ・き――「きれいだ」

 ・く――「口説いてもいいかな」

 ・け――「結婚っていいよね」

 ・こ――「こっちこいよ」

 という唱えるだけで女の子をお持ち帰りできる魔法の呪文らしい。

 ……こんなのでカノジョが出来れば日本は少子化などしないというのに。

 ちなみに女性バージョンは「合コンのさしすせそ」というらしい。


「なのじゃ。という訳でコレを元に魔法を掛けてやるのじゃ」

「え?」


 間抜け面をしていると、のじゃ様はまじない言葉を唱え始めた。

 その瞬間、俺の周囲はピンク色の煙に包まれて、あっという間に視界いっぱいに広がっていく。思わず目をつぶっていると、眩い光に襲われた。

 そうして、気がつくと――


「どうじゃ、気分は」

「――かわいいね」


 なんということだろうか。

「合コンのかきくけこ」しか話せなくなっているではないか。

 これにはのじゃ様もキョトンとしている。

 どうやら術式が暴走しおかしなことになっているようだ。

 ――どうするんですか。のじゃ様。

 言葉に出来ないため、目で語りかけていると、のじゃ様は頬を真っ赤に染めながら、こう答える。


「な、なんじゃ……、いきなりワシに可愛いなんて……、て、照れるのぉ~」


 俺にデレデレだった。

 ちげーよ、バカ。お前のせいでおかしな言葉しか出ないんだよ。そう、口にしようとするが、実際に発せられたのは――


「綺麗だ……まるでお稲荷さんのように」


 なんでだよ。しかも、なんか原文と違うし。

 それに対し、のじゃ様はというと――


「あわっ、あわわわわぁ~~~~~」


 滅茶苦茶デレていた。

 チョロインかよ。千年生きた女狐だろ。

 童貞の戯言を真に受けるなよっ!

 発しようとしても――


「口説いてもいいかな。のじゃ様に相応しい人間になるからさ」


 またまた原文と違うし。

 完全にのじゃ様を口説き落とそうしているじゃん。これ。

 とーぜん、のじゃ様は。


「そ、そんな、人間と妖狐だなんて……種族が違い過ぎるのじゃ~~~」


 完全に堕ちていた。ビックリするほどチョロいぞ。

 ……でもそんなところがいいな。

 なんだか守ってあげたくなってきた。


「結婚しようぜ。そして人と妖魔を繋ぎとめよう」


 もう原文を保っていないし、これは確実にプロポーズじゃん。

 ……俺が幸せにしてやろう。

 なんて気持ちになっているけど、のじゃ様はどう思っているのだろうか?


「はい。ふつつかものじゃが、よろしくなのじゃ、旦那様」


 成功しちゃったよ。プロポーズ。

 まさかまさかの急展開。

 【速報】俺氏、妖狐の婿になる。

 でも、こいつ、偉そうにしているけど、ホントはすっごく寂しがりやだし、俺がついてなきゃなって思ったし、これってハッピーエンドじゃない?


 と発しようとした時、俺は思い出した。

 合コンのかきくけこがあと一つ残っていたという事に。


「――子供は何人欲しい?」


 爆弾発言じゃあああああああああああああああああ。

 こ、これにいたっては原文とは一切合切関係ないし、流石に酷いセクハラじゃん。

 これは完全に幻滅されたな。もう立ち直れないな。

 しょぼくれていると、のじゃ様は手を差し伸べてこう言った。


「――さん、三人は欲しいのじゃ」と。


 相思相愛ハッピーエンドである。


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