第8話 これからの私
転移をしてナヴァル公爵家の玄関に帰って来ました。ここに立つとやっと戻ってきたという気持ちになってきます。やはり、ここが私の戻って来るところなのですね。
「それではわたしはここで失礼します。」
少女がここを去ろうとするので
「もう、遅いのでここで泊まってはどおですか?」
「いいえ。ルーちゃんが目覚めて家の方が安心すると思うので帰ります。」
少女は蛇人の人から弟を受け取り、転移をして帰っていきました。
「団長。自分も師団の詰所に戻ります。」
「ああ、わかった。」
クストの返事を聞いた蛇人の人もここを去って行きました。
「クスト。お帰りなさい。今日はありがとうございました。」
「ただいま。ユーフィアもお帰り。」
「ただいま。さあ、中に入りましょう。子供達はもう寝てしまったかしら?」
玄関扉を開き屋敷の中に入ります。今日は本当に濃い1日でした。
帰って来てから一向にクストが側を離れません。師団の方には行かなくていいのですか?大丈夫?
ルジオーネさんに迷惑を掛けているのでは?問題ない?本当ですか?
今現在、クストの膝の上に座り昼食中です。クストに食事を食べさせられています。毎回思うのですが自分で食べた方がいいような気がします。ダメですか。
この一週間、クストがベッタリ張り付き、少し離れようものなら俺のこと嫌いになったのかと、グズグズ言い出すのです。そのため、クストの治療費としてあの少女に渡す時計が作れそうにありません。
しかし、逆に言えばクストがいることで、あの魔導師の言葉に囚われることがないのです。きっと一人になればもう死にゆくしかない魔導師の言葉が耳に甦って来ることでしょう。『私で、最後になりそうですね。』と・・・。
「何度も連絡をしているのに、返事が来ないと思えば、何ですかこれは。」
声のする方向を見れば、金髪の無表情の少女が部屋の入り口に立っていました。
「おい、勝手に入って来るな。」
クスト、10歳の少女に威嚇してはいけませんよ。
「今回はきちんと訪問の許可をもらいました。」
「問題児からの手紙は知っていたが 、俺は許可を出していない。」
え?知っていたのですか?
「私が出しましたよ。」
そう言って部屋に入って来たのは、ルジオーネさんと美少女でした。いえ、服装から少年なのでしょう。
「ルジオーネ。なぜだ。俺はユーフィアとイチャイチャするのに忙しい。」
「いい加減、師団の方で仕事をしてください。色々溜まって来ていますので、処理をしてほしいですね。」
問題が出ているではありませんか。
「いや。でもな。」
「本当にツガイを持つと人は狂っていきますね。」
少女の言葉にクストが低い声が響く。
「ああん?テメーの親も番だろ!」
え?そうなのですか?
「ええ、そうですよ。第6師団長さん。あなたは自分の子供がきちんと目に映っていますか?話を聞いて誉めてあげていますか?」
「あ・・・いや。」
確かに少女の言うとおり、子供と話すのは私を介してのみですね。
「そうでないのなら、あなたの子供は私の様にひねくれた子供になるか、もしくは団長さんの事を一緒に住んでいる、おじさんとしか認識していないのではないですかね。」
「おじさん・・・。」
ありうるのですか?しかし、子供たちもクストに声を掛けている姿をみたことがありません。クストが思考の海に沈んでいるなか少女が近づいて来ました。
「これは、今回のお礼です。ルーちゃんのことがあり冷静ではなかったとはいえ、随分と非礼を働いてしまいました。」
少女の手には箱型の入れ物を持っており、テーブルの上に置き、蓋を開けました。その中には
「何だ?これは?まるで馬のフ・・ぐぉ。」
中身を見たクストが失礼な言葉を発言する前に少女が横腹を殴ることで止めたようです。知らない人が見れば馬のフ・・・いえ、なんでもありません。
箱の中に入っていたのは、あんこに包まれたおはぎでした。小豆がこの世界にあったのですか?そして、お米も?
「食べていいですか?」
「どうぞ。」
「いただきます。」
手で直接取り出し、口に運びパクリと食べます。甘い懐かしいあんこの味に仄かな甘味がある餅米の香り。
「おいしい。」
「それはよかったです。」
「これはどうしたのですか?小豆があるのですか?お米も。」
「普通に炎国で食べられていますよ。ギラン共和国経由で材料は手にはいります。これはわたしが作りました。」
炎国!また、炎国ですか。
「一度、炎国を訪ねるといいかと思います。初代炎王はかなり手広くやったみたいですよ。多分、無から有を生み出すことができたのでしょう。」
「初代炎王?無から有をだなんて、すごい。」
「何か悩まれているのでしょ?そこの団長さんに頼めば喜んで連れていってくれるでしょう。その前にわたしが頼んだ時計を作ってくださいね。」
少女はそう言って部屋を出ていきました。
「クスト。炎国に連れて行ってくれますか?」
「ユーフィアのためなら、どこへでも連れて行ってやるから、だから泣くな。」
泣いていましたか?頬に手を添えると濡れていました。
「団長。行くのはいいですが、やることをやって、統括師団長閣下から許可を貰ってからにしてくださいね。」
「おう・・・。」
私が進んで行くために一旦休息をとっても良いですかね。炎国、初代炎王が作った国とはどういうところなのでしょう。あの少女が勧めるぐらいですから、きっと心の故郷になりえる所なのでしょうね。
その前に、少女に頼まれた物を作りましょう。
炎王が無から有を生み出したというなら、私は世界から与えられたという力で私の望む魔道具を作り続けましょう。
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ここまで読んでいただきまして、ありがとうございました。
投稿はしておりませんが、本作品の番外編『炎国への旅路編』もあります。読者様のご希望があればそちらも投稿させていただきます。
『6年後に戦地から帰ってきた夫が連れてきたのは妻という女だった』を読んでいただきましてありがとうございました。
6年後に戦地から帰ってきた夫が連れてきたのは妻という女だった 白雲八鈴 @hakumo-hatirin
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