タコの国

森 光

第1話

ここはタコの国です。タコたちがご主人の優しい国です。タコの国ですから、タコ焼きはありません。


タコの国の小学校は今日も授業です。

授業は吸い付きのテスト。

タコ坊くんはこのテストが得意です。

ずーっと吸い付いていられます。45分間のテスト時間中、ずーっとです。本人はタコス世界記録を狙うつもりです。


でもお友達のタコ丸くんは吸い付きが得意ではありません。3分もするとプルプル震えて、腕がシナっとへたれて、落っこちてしまいます。

落っこちていく姿はなかなかに見事で枯れ葉が舞うようなのですが、タコ丸くんはこのテストが大嫌いです。


タコ坊くんはいつもタコ丸くんをからかっていました。


「おい、タコ丸。3分も持たないやつはタコ失格だ。フワフワ流されて食われちゃうんだよ」


タコ坊くんはいつも泣きそうになります。

言い返そうにもお腹がキュッと痛くなって、身体全体が縮んでしまうのです。


テストが始まりました。タコ坊くんがいつも通りに吸い付いていると先生が言いました。「タコ坊くんは今日はもうオッケイだ。吸い付きはそれまで」


次はタコ丸くんの番です。いつもお父さんに相談していました。「吸い付きはどうやるの」


お父さんは手足をゆらゆらさせながら、「お父さんも吸い付きは苦手だけと、少しだけ腕にチカラを入れて、流れに逆らわないことが大事だよ」と教えてくれました。


タコ丸くんは今日、試してみることにしました。吸盤をガラスの板に吸い付けて、体のチカラを抜いて、流れに身を任せます。


タコ丸くんはうまくできませんでした。ガラスの板から体が剥がれて、水の流れに乗ってビューンと飛んでいき、見えなくなってしまいました。


ガラス板が水の流れを受けてブルブル震えていました。タコ坊くんは少しだけ寂しい気持ちになりました。


タコ丸くんは流されていきます。

ずーっとずーっとです。でも寂しくも悲しくもありません。

流れに乗ってみる景色は綺麗で、狭いガラス板にへばりついていたらみることができない世界だったからです。


タコ丸くんの目の中に、フワフワただようクラゲの姿が入りました。

「あんなふうに流れながら生きたら気持ち良いだろうな」

タコ丸くんはクスッと笑いました。

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タコの国 森 光 @morihikaru

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