Day15-21:新たな集団

 いくら感染者に成りすませているとはいえ、人間の動きのままで行動するとさすがに感染者も怪しむようだ。

 出来る限り、歩行や動作も感染者に似せる必要がある。

 

 なので物資と食料集めは中々進まなかった。

 集めるだけならともかく、駐車場に置いてある車に持っていくまでが大変なのだ。

 警備室から駐車場までは結構な距離があるし、その間には感染者がそこそこうろついている。

 結局一週間くらいかけて食料と燃料、物資をかき集めて車に運び込んだ。

 後は脱出するだけだ。


 ラジオやTV、ネットから流れてくる情報はどれも悪化の一途をたどっているものばかりだ。ホワイトハウスのお偉いさんたちとも連絡が取れなくなったらしい。

 それでも、人がそもそも居ない為に感染者が存在しない田舎もあって、そこに住む人々はパンデミックで都市が大混乱という話も嘘扱いしている。

 

 軍は何をしているのか。こんな状況にあっては戒厳令を下して制圧、鎮圧する以外方法はないと思われるのだが、以前のウィルスのパンデミック騒ぎの時にも軍の出動は無かった。

 あの時よりも更に状況は悪いだろうに、何をやっているんだか。


 いよいよ脱出する準備が整い、逃げようとした朝。

 監視カメラで外の状況を確認すると、なにやら騒ぎが起きている。


 銃撃の音が聞こえる。それも散発的にではなく、連続して。

 

 新たな生存者だろうか。

 俺がモール内を行動していた時も生存者を少しだけ見かけたが、彼らはニンジャのように息を潜めていた。

 擬態をした俺を見ても遠巻きに見て近づいては来ない。もし本物だとしたら噛まれて大変な事になるからな。


 もう少し状況を確認してから出ようと思ったが、今すぐにでも逃げ出した方が良いな。

 

 擬態を解いた方が良いだろうか。

 だが、感染者の数は日を追って増えていった。

 従業員通路やバックヤードももはや安全な場所ではない。

 擬態を解くのは危険なように思えた。


 俺はこっそりと、感染者に紛れて逃げようと従業員出入り口に向かった時だった。

 出入り口は駐車場と繋がっているのだが、そこで新たな生存者の集団を目撃した。

 

 早い話、彼らは武装集団だった。


 銃撃音で感染者が集まろうが構わずに銃をぶっ放しまくっている。

 しかも機関銃や手榴弾と言った、どこから持って来たのかわからないほど火力の高い銃器が揃っている。

 狙いも正確で、もしかしたら元軍隊か軍を抜けてきた連中かもしれない。

 それくらい銃の扱いに慣れていた。

 

 ヤバいな。


 銃撃音で次々と周囲から感染者が集まってきている。

 俺の車は駐車場の端っこにあるとはいえ、あまり目立って行動はしたくない。

 目立たないように、大人しく奴らが何処かに行くまで隠れているべきか。

 それとも一旦警備室に戻って奴らの行動を探るか。


 とにかく出入り口から逃げた方がよさそうだ。

 踵を返した瞬間、俺の横っ腹に何か熱いものが通り抜けた。

 手を当てる。

 赤い、熱のある血が手にべっとりと着いた。

 乾いた豚の血ではない、人間の、俺の血。


 奴らの打った流れ弾を喰らってしまった。


 不運ここに極まる。

 怪我をした状態では車までたどり着けない。

 かといってここでぶっ倒れて死ぬのは嫌だ。

 なんとかしなければ。


 俺は感染者のふりを止めて、走って逃げる。

 怪我をして満足に走れるわけでもないが、とにかく急いだ。

 何とかその場を後にし、俺は感染者の間をすり抜けながら従業員通路を通ってドラッグストアに向かう。

 

 出血が酷くなり、視界がかすむ。


 何とか辿り着き、ぽつぽつ居る感染者をショッピングカートを使ってせき止めながら、止血剤と痛み止めの薬を探し出す。

 気休めだろうがなんだろうが、とにかく効きそうな奴はなんでも試す。

 止血剤を傷口にぶち込み、痛み止めの錠剤を胃に流し込む。

 とにかく痛みが俺の動きを妨げる。

 気休めが効いたのか、血の勢いも少しは弱まって来た。

 

 売り場からバックヤードに移動し、感染者がうろついていない場所を探す。

 

 結局、従業員が休憩する部屋の隅っこで俺は息を潜めている。

 時々銃撃音と人の叫び声と、走る音と引きずる音が聞こえてくる。

 やがて人の声と走る音が近づいてきている。


 終わったかもしれない。


 唐突に俺が潜む部屋の扉が開いた。

  

「待て、撃つな――」


 それが最期に発した声だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る