Day7:黙示録
隕石が落ちてから一週間後、アリゾナ州で奇病が流行り始めたらしい。
その奇病とは一旦意識を失った後、体に肉腫が出来て腫れあがる。成長しすぎた肉腫は皮膚を裂いて下の肉が見える有様になるらしい。
奇病に掛かってから数日後に再び目覚めるのだが、その時にはもう人としての意識は残されていない。
目も白く濁り、虚ろに歩きながら手当たり次第に生物を見つけると喰らいつく。
餓えた獣のように。
とはいえ、この奇病もいずれ治療法が見つかるはずだと楽観視されていた。
すぐに愚かな考えだと気づかされるのだが。
奇病は隕石が落下したアリゾナだけでなく、すぐに周辺の州にも広がっていった。
俺が住むカリフォルニアにも。
パンデミックは唐突に訪れる。
感染者が突如大挙して都市に現れた。
その日は取材で街を出て、田舎にいたものだから戻って来て唖然としたものだ。
ゾンビ映画のような光景が、俺の目の前に広がっている。
信号は停止していた。
道路は逃げまどう車で大混乱だ。
バスはもちろん走れるわけもなく、至る所で事故が発生し、その隙間をぬってバイクや自転車で逃げたり、車から降りて走って逃げる人もいる。
公共交通機関も止まっていた。
感染者を輸送するわけにもいかないからだ。
感染者はのろのろと歩きながら、生存者が目についた時だけはやけに素早く動き出して襲い掛かる。
腹が減った獣が御馳走を見かけた時のように。
それでも普通の人間と比べれば動きは鈍いのだから、冷静に逃げればいいのだが、人間慌ててしまうと思考に体の動きが追いつかずに転んだり、突拍子もない行動をしてしまう。
そして感染者の仲間入りを果たし、数は増えていく。
以前は完全に変貌するまで数日掛かっていたものが変異したのか、噛まれて死ぬ、死なないにかかわらず数時間で変貌してしまうようだ。
感染者以外にも脅威はある。
生存者だ。
協力的な人物なら良いが、自らの事しか考えていない奴ほど厄介な者は居ない。
物資や食料を奪い合い、その間に感染者に群がられて死んでいく。
喰われた人は新たな感染者として立ち上がるのだ。
ここは地獄だ。現実世界に地獄が呼び出されたってわけだ。
街の様子を写真に収めながら編集長に報告しようと、編集部のあるビルに戻ったのだが、既に社内も地獄だった。
既に編集部は元同僚の感染者で埋め尽くされている。
感染者は集団を作り、何かに食らいついていた。その場所は編集長の机であり、机の影に隠れて誰が喰われているのかは言うまでもない。
喰われたくねえな、という思いとざまあみやがれ、という思いが同時に浮かぶ。
もうこんな所に用はない。
編集部から出ようとした時、俺は何かに足を取られて倒れてしまった。
「クソッ」
立ち上がり、何があったのかを確認すると編集部の一人の死体だ。
なんでこれが目に入らなかったのか、さっぱりわからない。
冷静を装っていながら俺はすっかり気が動転していた。
死体は血を流しており、服と手をすっかり汚してしまった。
トイレに寄って洗っている暇などない。
すぐに会社から脱出しなければ。
意図しない形ではあったが、俺は会社に永遠の別れを告げる。
車に戻り、さてこれからどうするかと思った時、車の窓にべたんと何かが張り付いた。
感染者が顔を窓に貼り付けながら、白く濁った眼を俺に向けている。
窓を平手で何度も叩いている。
人間の力では車の窓は破壊されないはずだが、あまりの勢いに壊されそうな気がしてきた。
とっととこの場所から離れよう。
車を発進させ、渋滞を迂回し遠回りしながらひとまず都市から逃れた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます