パリピであり続けるための人体改造

ちびまるフォイ

最大級に疲れる作業

「はぁ……疲れた……」


6時間もの授業を終えて体はヘトヘトだった。


「よお、学校帰りにカラオケでもいかね?」


「あ、ああ……」


本当はさっさと休みたかったものの、

大学生における友達付き合いは留年しないためにも大事な要素。


エナジードリンクをがぶ飲みして必死に元気を出そうとする。


「ぜんぜん効かない……」


この手のドーピングはずっと繰り返していたが、

今となってはなんの効果もない。


疲れた顔でカラオケに行こうものなら心象を悪くする。

なんとかならないものか。


「あれは……?」


ふと、道の片隅に「充電スポット」があった。

近づいてよく見ると大きな接続端子がぶら下がっている。


「人間……充電スポット!?」


端子の使い方説明を読みながら声を出した。

この端子を背中につなげて充電するらしい。


試しに端子を背中につなげてみると、

みるみる体のなかに電気のようなエネルギーが満ちていくのがわかる。


「おお……おおおおおお!!!」


充電完了したときには、12時間寝たあとくらい元気いっぱい。

さっきまでの疲れはすっかりなくなっていた。


「充電完了だ!! うおおお!!」


その日のカラオケ会は大いに盛り上がった。

盛り上げ要員として爪痕を残したことで、一気に人脈も広がった。

これまで話したこともない人にも声をかけられる。


「こいつ超楽しいやつなんだよ」

「めっちゃテンション高いから」

「一緒にいるとこっちも元気になれる」


友達のお墨付きは俺に自信を与えてくれる。


「ようし、今日も充電だ!!」


充電スポットはもう毎日行くようになった。

ことあるごとに充電していくうちにそれすらも面倒になる。


そこで大きな決断をした。


「母さん、俺、自分の体に電動アシストつけたい!!」


「……はい?」


「電動アシストがあれば充電したエネルギーを

 いつでもキープして、使いたいときに使えるんだ!」


「???」


「この夏がライバルに差をつけられるチャンスなんだよ!」


「わかったわ……そんなに言うならやってみるといい。

 でも途中で放り出したら許さないから」


最終的には催眠術師の力も借りて母へ了解を取り付けた。

電動アシスト手術はすぐに終わった。


「これでエネルギーが必要なときに

 いちいち充電スポットを探さなくて済む!」


電動アシストのおかげで俺の体力貯蔵量は常人以上となった。

徹夜を繰り返しても電動アシストぶんのパワーで元気いっぱい。


「お……お前、よくそんなに元気でいられるよな」


「なに疲れた顔してるんだよ! 人生は短いんだ。

 ましてこの楽しい時間は限られているんだから楽しまなくっちゃ!」


エネルギッシュの化身となった俺は連日連夜にさまざまな場所へ顔を出した。

色んな人から重宝されるようになって忙しくなっていったある日。


「あ、しまった!! 体充電してない!!」


その日はたまたま電動アシストの充電をし忘れていた。

今日に限っては電動アシストに頼ることができない。


「まあ、俺自身もエネルギーもあるわけだし、1日くらいなんとかなるだろう」


そのときの自分はまだ電動アシストにどれだけ頼っていたのかを知る由もなかった。

限りある自分本体のエネルギーを有効活用するために抑えていたが、


「どうしたんだよ、なんか今日テンション低いじゃん」


「え? そ、そうかな」


「いつももっと元気に全力で答えてくれたのに、

 なんか今日は雑っていうか、省エネって感じがする」


「そんなことないぜぇぇぇ! さっきまでは演技だったのさ!!」


「そうそう! そうこないと!!」


電動アシストありきの自分が標準だと思ってしまっている周りの人間に合わせて、必死に自分を奮い立たせた。

当初考えていたエネルギー配分の計画なんてあっという間に崩れさる。


まだ1日のエネルギー山場を迎える前にすっかりエネルギーの抜け殻になってしまった。


「つ……疲れた……どうしよう……。

 このあと、オールでカラオケをしたあと旅行するのに……」


電動アシストぶんのエネルギーが足りない。

なんとか時間をつくって以前に訪れた充電スポットを探す。


「な、ない! 充電スポットがない!!」


充電スポットは撤去され、分譲住宅が出来ていた。

自分を充電すればなんとかなると思っていた作戦も水の泡となった。


「まずいぞ……このままじゃ俺はつまらないやつに思われて

 これまで作りあげた期待と信頼の人間関係が壊れてしまう!

 もう試験前にレポート見せてもらえない!!」


それは世界が破滅するよりも恐ろしいシナリオだった。

もう絞りカスしか残っていないなけなしのエネルギーで考えた。


「なにか……なにかないか……! あ! あれは!!」


まるで神のお告げでもあったように救いの手は近くに用意されていた。


「おじさん、この人間モバイルバッテリーをください!」


「はいよ。充電済みだからすぐ使えるよ」


「こんな便利なものがあったんなんて!!

 おじさん、あなたはヒゲだらけの天使だ!」


リュックを背負うようにして人間モバイルバッテリーをしょった。

背中にふれる部分からみるみるエネルギーが満ちてゆく。


「おおお……! きたきたきた!!」


さっきまでのゾンビ状態から一転して元気が湧いてくる。

待ち合わせ場所には走りで向かった。


「ふはははは!! モバイルバッテリー最高だーー!!」


一度この便利さを味わったらもう手放せない。

俺は常にモバイルバッテリーを背負い続けるようになった。


朝起きて真っ先に行うのはモバイルバッテリーを探すことからはじまる。


「母さん、俺のモバイルバッテリー知らない?」


「いつも寝る前にテキトーな場所にほっぽるからでしょう」


「ああーーもうだめだ。動けない。動く気になれない」


「あんたね体力なさすぎでしょ。普段はもっと元気じゃない」


「電動アシストないと動けないんだよ……はぁ……」


最近、ますます自分の体力が落ちてきた。

這うようにしてモバイルバッテリーを見つけて背負ってやっと立ち上がれる。

エネルギーを充電されていなければ何もできやしない。


それなのにモバイルバッテリーからのエネルギーをあっという間に吸い付くしてしまう。


「あ、あれ!? もう充電切れ!? 早いよ!」


これではなにもできない。

ちょっぴりエネルギーを充電しただけじゃないか。


「ああもう! なんでこんなに少ないんだよ!

 もっとモバイルバッテリーが必要だ!!」


あらゆる予定をキャンセルしてモバイルおじさんのところへ、

すべてのエネルギーを使って向かった。


「おじさん! モバイルバッテリーをくれ!!」


「あんたはこないだの……。そりゃかまわないが前に買っただろう?」


「前のが充電吸い付くしちゃったんだよ!

 あんなちょびっとの用量のが1個で足りるわけ無いだろう!?」


「なんども体に充電し続けていると用量も減っていくんだよ。

 お前さん、ずっとモバイルバッテリーを背負い続けてないかい?」


「うるさいな!! いいからさっさとよこせよ!

 あんたと言葉を交わすエネルギーすらこっちは惜しいんだ!!!」


「はいはい……」


あるだけのモバイルバッテリーを手に入れた。

さっそく体につなげでエネルギーを充電していく。


「ようし! きたきたきたーー! エネルギーが満ちていくぞ!!」


後ろ姿は大量の木材を背負った二宮金次郎。

でも見た目なんてどうでもいい。

大事なのはエネルギーがどれだけ充電し続けられるかが大事なんだ。


「モバイルバッテリーを抱え込めば、

 もう途中で息切れすることなんてないぞ!

 今日のカラオケパーティはテンションぶちアゲだぜ!!」


ずしん、と重くなった1歩を踏みしめながら待ち合わせへと急いだ。



待ち合わせ場所に到着する頃には汗だくになっていた。

友達はいつものノリでテンション高めだった。


「っしゃーー! 今日は飲みまくりのアゲみざわでいくぞーー!!」


俺は青い顔で答えた。



「俺はパス……。ここまで来るのにエネルギー全部使っちゃった……。

 なんでこんなに疲れちゃったんだろ……帰るわ」


俺はバカ重い大量のバッテリーを背負いながら、来た道を引き返していった。

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