結末
マスクと帽子を取り、露わになった顔は、幼い頃よく遊んでいた幼馴染の幸人だった。
「一体、なんで…?」
「知り合いなのか?」
武琉が聞いてくるが、僕にそんな余裕はない。
ただ、幼馴染が僕を襲っていたことに驚いていた。
幸人は、僕の顔をじっと眺めながら言った。その目つきは、憎々しげだった。
「何でって、自分がしたことを忘れたのかよ。これはその報いだ」
「む、くい…?
…ああ、そっか。じゃあ、あのゲームは僕の勝ちってことか」
彼の言葉によって、僕の記憶は呼び起こされた。
昔、と言っても十五年前にあった、未解決事件について。
________
十五年前、ある民家にて殺人事件が起こった。
夫婦二人が、刃物で刺され死亡したのだ。
亡くなった夫婦の間には、七歳の子供がいた。
彼はしきりに、友達がやったんだと、警察に話していたが、誰も聞く耳を持たず、
結局その事件はかくして迷宮入りとなった。
その子供の名前は、幸人。そして、彼が話していた友達とは、優也のことだ。
彼らはその頃、隣同士という縁もあり、よく遊ぶ仲だった。
だが、時折不思議な話をすることがあった。
人を殺めてみたい、という話だ。
これは、二人だけの時にしか話さない、内緒話だった。
そして、運命の日はやってくる。
夜の十一時。幸人は両親とともに眠っていた。
そこに、夏で暑いからと開けていた窓を静かに通って、優也が入ってきた。
優也は何度も遊びに来た幸人の家を、自分の家のように歩き、すんなりと寝室に入ってきた。
この時予想外だったのは、幸人が起きてしまったことだ。
だが、寝ぼけていた彼は優也の存在に気付かぬまま、また眠りに落ちた。
優也は安堵し、自分の欲を形に出来ることに喜んだ。
そして、幸人の両親を殺めたのだ。
________
「…その後、俺はまた起きた。優也はまだそこにいて、俺にこう伝えてきた。
『僕の欲は満たされた。ありがとう。もし、君が僕を恨むなら、十五年後にまた会おうよ。僕の友達を絶望させてみなよ。それが、一番だ』…ってな」
「そうそう。あの時のことを思い出したよ。とてもいい夜だったなぁ」
「え…?は?」
武琉は、一気に押し寄せてきた情報に驚いていた。
僕はそれをみながら、とても満たされた気持ちになった。
十五年前の約束を、ちゃんと覚えて、人生の大半をそれに費やしてしまった哀れな幼馴染を可愛く思いながら、僕は嗤ったんだ。
「それで、このことを知った武琉はどうする?
今襲われかけた、殺人者を助ける?それとも、昔絶望した、犯罪者予備軍を助ける?さあ、どっちを選ぶ?」
「俺、は…こいつを止めて、お前を警察に渡す…かな」
「へえ?証拠も何も残っていなくて、しかも時効をとっくのとうに迎えた殺人事件をどうやって解決するって言うの?」
「まさかお前、そんなことまで考えて、十五年って言ったのかよ!?」
すでに幸人の拘束は解かれている。だが、彼はまだ立ち上がっていない。
馬鹿だな、と思いながら僕はちゃんと質問に答えてあげる。
「もちろん。君はとても素直な奴だったから、僕が言った十五年をちゃんと守ってくれると思ってたんだよ。少し調べればすぐわかる事だったのに、残念だね」
「そんな…」
幸人はまた絶望して、地面にストンと膝を落とした。
「ちなみに、君が十五年よりも前に僕のところに来ていれば、君の勝ちだったんだよ。だって、まだ時効が成立してなかったんだからね」
僕の声は聞こえているのだろうか。まあ、聞こえてなくても問題ないけど。
僕は、二人の横を通っていく。その時、
「…お前は、もう二度と人を殺めたりしないとこの場で断言できるか?」
そう、幸人が問いかけてきた。僕は少し考えてから、
「そうだね、もうしないよ。この国の警察は優秀になったし、あの時みたいに他人の家に簡単には入れなくなったからね」
「…そうか」
それだけ言って、幸人は立ち上がって去っていった。
僕と武琉は取り残されたけど、武琉が何もいってこないので、
「じゃあ、僕はこれで消えるよ。みんなには、適当に言っておいて」
と言い残し、そのまま歩いていった。
_____
その後、武琉は大学生活を続けた。彼のすぐ近くに殺人鬼がいた事に少しは驚いたが、当の本人が大学を辞めて本当に消えてしまった為、忘れる事にした。
幸人は、地方に行って道場を開いた。今までに身につけた能力を、己を守る事に使って欲しいと思ったから。
優也は、アメリカに行き、就職した。彼の素業を知ってなお、彼を雇ったのだ。
それぞれがしっかりと歩き出した。それで、いいのだろう。
気持ちが晴れずとも、明日は容赦無くくるのだから。
繰り返す、振り返る 浜村いろり @hamairo614
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます