リバース

雨世界

1 青空と、君の思い出と、夏と、……。

 リバース


 登場人物


 県内屈指の名門進学校。高校二年。


 小林若葉 本当は音楽が大好きな少年


 森山春 音楽に憧れている少女


 風間薫 ぼんやりとしている背の高い少年


 谷口蕾 嘘つきの少年 声がすごく綺麗


 プロローグ


 青空と、君の思い出と、夏と、……。


 本編


 想像力。無限大。


 八月 夏 モノローグ


 まるで、本当にアスファルトの道路も溶けてしまいそうな気がする、連年よりもずっと、ずっと暑かった、……夏の日。蝉の鳴き声と、かげろうと、遊び疲れた、土と、風と、それから全身びっしょりになった、気持ちのいい汗の匂いの中で、……僕は、君と出会った。


 ……ねえ、覚えている? 小さいころ、私とあなたが初めて出会った日のこと?


 ある夏の日の夜に、君そう聞かれて、僕は久しぶりに君と出会った日のことを、はっきりと、鮮明に思い出していた。

 

 人生において誰かに憧れるという経験は誰にでもあることだと思う。

 私にとって、あなたはそういう人物だった。

 私は確かに、あなたに憧れた。

 今も、憧れているのかもしれない。


 ……あの奇跡のような素敵な夜に、あなたと出会ったときから、……ずっと、ずっと私は、あなたのことだけを追いかけている。


 森山春


「ねえ、小林くんって、中学生のころ、音楽やってたんでしょ?」


 高校二年生のとき、放課後のチャイムが鳴っている、先生にさようならの挨拶をしたあと、みんなが一斉にいろんな会話や帰り支度をしている騒がしい教室の中で、森山春は同級生のクラスメートである男の子、小林若葉にそう言った。


「やってないよ」

 ちらっとだけ春の顔を見てから、自分のカバンの中に、机の上に出しっぱなしにしていた今日、最後の授業だった数学の教科書やノートをしまって帰り支度を終えた若葉は、そんな嘘を春に言う。


「嘘だね、だって私、小林くんと同じ中学出身の友達に話、聞いてるもん」

 にっこりと笑って、前の席から、後ろを向いて、若葉を見ている春はにっこりと笑った。

「どうして嘘つくの?」

 春は言う。

「音楽、嫌いだから」

 若葉はカバンを持つと、席を立って、歩き出して、教室の外に出て行こうとする。

「待ってよ。まだ話、終わってないよ」

 そう言って春は自分のカバンを持つと、もう歩き始めている若葉の背中を追いかけた。

 若葉は男子生徒としては背が低いほうで、春は女子生徒としては背が高いほうだったので、教室の椅子から立ち上がって、一緒に歩き出した二人の背は、だいたい同じくらいだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

リバース 雨世界 @amesekai

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ