無双!!悪役令嬢 短編集

ユニ

無双!!悪役令嬢 セッテイリヤ


がはっはっははー

「束になってかかってこいっ!!でないと汗一つかかんわっ!!」


相対する騎士っぽい装束の若者達が顔が変わるほど睨みつける、が、睨んで強くなれるわけではない。日頃の行いの結晶が、今の状態なのだ。


怒声の主。真っ白な絹のシンプルなデザインのドレスは、動きやすさを基調としている。汚れ一つついていない、汗も滲んでもいない、そのドレスを着ている若い女性。女性?

その小柄な身長ほどもある大剣を右手のみで肩に乗せ、周囲の若者たちを睥睨している。

女性としては美形だったかも、、筋肉隆々。


周囲に、甲冑を着込んだ者たちが20人はのびている。


死んではない。切られてさえもいない。白いドレスに血しぶきを浴びせたくないからだろうか?

力の差が歴然としすぎているからであろうか?


残った同数ほどの者たちは腰が引け、誰一人と向かっていこうとしなかった。







発端は、1年ほど前の夜会。

王太子ジョンスミス・ドッカーノクニが、セッテイリヤ・レイジョスキー・アクヤクノーレム公爵令嬢を罵倒したところからだ。

この国、ヌケマ王国は、アクヤクノーレム家の始祖によって起こされた。いつの間にか傍流であるドッカーノクニが王を据えていた。

アクヤクノーレム家一族はそれについては特になんとも思っていなかったが、ドッカーノクニ家一族は心のどこかで常に卑屈になっていた。更に、ドッカーノクニ一族は能力がないのが資質の特長と言われているほど能力がなく、奸智だけでここまでやってきていた。だから政権周囲もそういった輩ばかりがのさばっていた。そういった奴らは、能力がある者たちを目の敵にする。その筆頭にされていたのがアクヤクノーレム家。

しかしドッカーノクニは「正当性」を今一度欲して、セッテイリヤを次期王妃に選んだのだった。


が、セッテイリヤの箸の上げ下ろしさえ気に喰わない王太子。なんとか難癖をつけて負かしてやりたかった。

ソレに目をつけたのが、宰相アーソ・ベアシン。アーソは自分の娘タマダーを貴族ではない商会主に養子に出し、その後セッテイリヤと王太子が通う王都の学園に入り込ませた。


タマダーは何の取り柄もないが、ひとつだけ「魅了」という特技を持っている。生まれたときは何の能力もなかったが、物心着く前から父であるアーソが、高級魔術師を抱え込んでその特技を仕込ませたのだ。だがもともと能力が何もないので、魅了を複数にかけるほどはできない、今回は王太子だけたらしこめばいい、ちょどこのように使うためにアーソは仕込んだのだ。やっと使いどころができた。


宰相は王を傀儡にしているため、この宰相に逆らえる者はいなかった。だから王族周辺の魔術師たちも、その魅了に関して絶対に言わないのだ。「見えない」「知らない」「感じない」ことになっている。



王宮の夜会で

「おまえのような奴との婚約は破棄する、今後俺の目の前に現れるな。現れたら、斬るっ!!」

ものすごい形相でセッテイリヤを睨みつけ、そう吐いた。

箱入りお嬢様で何一つ瑕疵が無かったセッテイリヤは、いきなりのそれに気を失った。


その後、何日も目が覚めなかった。




目が覚めたのは、五郎左衛門だった。五郎左衛門が最後に見た光景は、自分が切られて倒れ、澄んだ秋の空を見たのがその最後の光景だった。

なので、なんでこんな寝具の上なのかわけがわからなかった。しかも体が重いのか軽いのか?

腕細っそいのぉ、白魚のような指?食ったらうまそうだな。で、胸がある?何だコレ?

長い髪の毛が金色なんだが??ふわふわでこれもうまそう?腹減っているようだが?

グー!!減っているようだな。


本名五郎。武士になりたかったんで左衛門を後ろにつけて格好を付けたのだ。なので姓は無い。

五郎はベットを降り立った。細い足、数日何も食べていなかったのだろう、腰砕けになりかけたが、そこは五郎の根性でどうにかこの弱々しい体を倒れさせずに済んだ。


廊下に出て、メイドたちに助けられ、ベッドに戻り、すぐに持ってきてくれた粥をお代わりした。セッティリヤの口調その他全く変わり果てた様子に皆口を押さえ目に涙を溜める。泣くのは廊下に下がってからだ。

五郎は頓着など一切せず、いや、できず、好きに振る舞った。







さて、、この体は華奢すぎる。俺の体としてあるのだから鍛えねばならない。そういう使命感を持った五郎は、即時動く。病み上がりだろうと五郎には「なにそれ?」であった。


とにかくまず棒振り。軽いのから始める。それでも体がバテるまでやめない。だれが止めようとしても、やめない。

ただ、セッテイリヤの父であるアクヤクノーレム公爵は、その棒振りの姿勢が本物だとわかった。

「今まで誰もそんなことを教えたことは無かったはず、、」


セッテイリヤの父は、娘の体が心配なので、安全なアドバイスをした。

「セッティ、体力を付けるのであれば、走るのが良い。それも、全力疾走はしないで、なるべく長時間走れるような速度で走る。しかし、体力が尽きるまで走るのも逆効果になる、半分くらいの体力を残して止めるのが良い。」

だが、五郎は知っていた。体力がギリギリまで使ってこそ、増えていくものだと。

なので、翌日から、棒振りをそこそこにして、走ることを始めた。


江戸時代の人間が走る、その走法は”なんば”である。飛脚の走り方。

歩き方がそのまま回転数アップ、だけな見た目がなんば走り。

なんば歩きは、なんつーか、腰で足を放り出す?そのまま半身をついづいさせ、出した足が地面に着いたが、付いてきた上半身がついている勢いのまま逆の足を放り出す、という、極端に言うと、右左右左に体全体が回っている?感じ。歩きの場合、ほとんど上半身はそのまま水平移動している、みたいな感じだが。腕もほぼ動かない。一般的な左右逆に動かすと逆に違和感ある。速度を上げた場合、上半身の勢いにのって、足と手が一緒にでるようになる。

これだと足(ふともも、ふくらはぎなど)の筋肉はほとんど使わない。つかうのは腰の筋肉。使い慣れていないととっても見たことのない変わった筋肉痛?になる。更に、エネルギー消費が半端ない。疲れない分が全部エネルギー消費に変換されていると思えばいい。

で、この歩き、走り、の大きな特徴は、

荷物を持っても、

向かい風でも、

上り坂でも、

あまり速度は変わらない。

体力さえつければ、途中の飯さえがばがば食べられれば、限度無くいけるんじゃないか?くらい思える。

ということ。


なので歩法からはじめ、徐々に前傾姿勢になって、いつの間にかかなりカサカサ早く走っているのだが、、勿論Gとは全く違う走りだ。

なんか「走っているのか?」と思えるほど動きが小さいように見える。

公爵も最初見たときは目が点になってしまっていた。


慣れてくると、朝食前に棒振りと型をいくつか。

朝食後、シャワー、軽く寝て、起きたら書写。こちらの文字を書こうとすると、体は文字を覚えているのだが、五郎の頭が邪魔をしてうまくかけない。なので、なれるためにこちらの文字の書写をしている。

昼食後、一休みしたらランニング。夕方まで走りっぱなし。

弓を手に入れてもらったので、走った直後に弓を引き、強制クールダウン。

シャワー浴びて夕食。

という日課になっていた。

当然にして、使っている筋肉は鍛えられていく、女性でも。


あら不思議、半年も建てば、五郎の喋り方に似合うほどのまっちょな女性になりおおせていた?

父上にお願いし、大きめの重い剣を手に入れてもらい、弓もかなり強いものを。

なにやら特殊鋼を使い、特殊な製法で叩きあげた剣らしく、大きな岩も真っ二つに切れた。割ったのではなく、切った。これには五郎もびっくりどころか驚愕した。「父上はなんという剣を手に入れてくれたのだろうか!!」

感激ですぐに父のもとに向かい、土下座して感謝を表した。が、公爵の世界に土下座という習慣は無いので意味不明だったが。



「父上殿、拙者は学院とやらに通わなくてよいのだろうか?今まで通っていたのだろう?」

なぜそんなことを知っているのか?

五郎はざっくばらんな性格なので、その性格を少しづつわかってきた使用人達にも受け入れられたのだ。五郎は「こちらのことは何も知らん、さっぱりだ、教えてほしい」と事あるごとに、使用人たちに頼んでいた。気になることを質問すれば、聞いたこと以上の回答をえられた。その1つが学園のことだ。

五郎のいた世界には学院という名のついたものがあったが、学園というものは無かったので、学院だと思いこんでいる。どーでもいいことだが。


「うむ、クズ一族のバカ王子がろくでもないことをしたおかげで、我が娘は、、こんなマッチョになってしまった、、ゴミみたいな貴族子弟ばかりの学園なんぞに、もう意味はないのではなかろうか?と思っているのだよ、我が娘よ、、、」

「ふむ、そろそろ力も付いてきたので、そのクズ一族とやらの一族郎党、全滅してやってもよいが、いかがであろうお父上殿。」

「まだ、その時期には早すぎるな、我が娘よ。今少したてば、あのおろか極まりないゴミどもが、己の首をしめるろくでもないことを始めるだろう。それを待つとしよう、なに、それほど待たないで済むはずだ。」

「承知した、お父上殿。その際には、一族郎党の始末は我におまかせあれ」


「・・・・その体であまり無理しないでくれないかな?お願いする」

「何を仰る。もう充分に出来上がっておりますれば、はける言葉を申したのみ。お父上殿はご自身の娘御を信用してくだされ。がははっはっはっは!!」


がははって言われてもなぁ、、、美しい年頃の娘が、腹筋は割れ、腕の筋肉も隆々に、、、言葉は歴戦の将軍のよう、、ああ、かわいいセッティは帰ってこないのか?!!神よっ!!!




その頃、神はショタコンアニメをげへへーと笑い見ながらポテチ食って炭酸飲料飲んでへーこいてケツかいていた、ぼりぼり、と。

種類は一応女神です、笑い声の「げーははははがはがはがはがはがはっ!!」とかは仕様です。

部屋とかではないが、そこいら中が菓子やら飲み物のごみだらけ。指一本動かさずにすぐ消せるのにそれさえしないこの駄女神。




一応公爵に断ってから、顔を出すだけだしてみようと学園に行ってみた。

で、冒頭になるのだが、そこに至るまでは、、、


「セッテイリヤ、よくもはずかしくなくこの門をくぐれるな!、お前のような者が再び入っていいような場所ではない!とっとと消え失せろ!」

と、威勢の良いことを言う、ガタイはいいけど頭悪そうな顔なモブ1。


名前は、セッティなら覚えているかもしれんが、わしは知らん。周囲にモブが幾匹もいる。

多勢に力を頼っているモブなどゴミでしかない。

わしは馬車を降りると、一瞬考え、槍の長い方を馬車の後ろから取り外した。


「お、お前の体、なんだそれはっつ!!」モブ

ドレスの上からさえ明確にわかるまっちょ体!

モブに向かう。歩きから徐々に小走りになり、槍をぶんまわした、槍でなくともよかったのだが、長さが一番あったから。


「「「「わー」」」」「「「わー」」」「「「「わー」」」」

一回ぶん回す毎に3−4にんが吹っ飛んでいく、モブらしい悲鳴を残し。

5,6回振り回しただけで、全て消え去った。

「なんじゃ?全く何もしとらんのに、、、山犬でさえまだ手応えがある」

馬車に乗り込み、学園を進んだ。


ほどなく校舎前に着いた。

「「セッテイリヤ、よくもはずかしくなくこの学園に入れたな!、お前のような者が再び入っていいような場所ではない!とっとと消え失せろ!」コピー&ペーストではありません。

と、威勢の良いことを言う、スマートで締まったいかにも鍛えられた体はいいけど頭硬そうな顔なモブA。名前は、セッティなら覚えているかもしれんが、わしは知らん。周囲にモブが幾匹もいる。


わしは馬車を降りると、一瞬考え、幅広大剣の長い方を馬車の後ろから取り外した。セッティの身長くらいの長さで今の、ガタイが良くなったセッティ並の幅がある剣だ。

「お、お前の体、なんだそれはっつ!!」モブA

ドレスの上からさえ明確にわかるまっちょ体再度!!


「まとめてかかってこい!」そう怒鳴ると、大剣を肩に担ぎモブに向かう。歩きから徐々に小走りになり、大剣をぶんまわした、校舎の入り口で振り回すには少々大きすぎたかな?と柱を破壊しなから五郎は思った。

「「「「わー」」」」「「「わー」」」「「「「わー」」」」

吹き飛ばされ分離されるモブ達や破壊される建物に埋まるモブ達。モブAもいつの間にか、メガネをかけた頭と体があっちとこっちになっていた。


さて、、この入り口は駄目だな、中に入れないほど瓦礫に埋まってしまった。

離れた少し小さめの入り口に大剣を肩に担ぎながら歩いて向かう。


はて?セッティリヤのクラスはどこであろう?

小さめの入り口を入った所の柱の影で腰を抜かして泣いている娘に寄る。

「しょうしょうものをたずねたいのだが?」

「たすけて、おねがいします、たすけて、」傷の付いたレコードのように繰り返すだけのその娘にぷち切れし、左手で軽くチョップをし、昏倒させた。

見回すと、多くの柱の陰に似たような連中がいた


、、、、逃げることすらまともにできないのかここの連中は、、、、

一番ガタイのよさそうな男の襟首を掴んで持ち上げたら、いきなり脱糞し白目になったので遠くに投げ捨てた。


・・・で、目線のあった小柄な娘にちかよらずに、少し離れた位置から中腰になって

「ちっちっちっ、、セッティリヤのクラスを教えてもらいたい。」と問うた。

びびりながらも「二階のこちらから3つ目の部屋です、、、、にゃん」。

この娘、この中では最も胆力があるのではないか?センスも良い。など思いながら階段を上り、部屋に。


その豪華な扉の中はざわついていた。大きな両開きの重い扉を軽々と開けると、中を睥睨した。

五郎・セッティリヤを見た者達の目は、限界まで見開いていた。静寂。

「お、男に、なった、の、か?」

更に静寂。 皆の視線は、肩に載った大剣に向いていた。


五郎は片手でそれをひょいと振るい、厚く重い大きな扉の一枚を、紙を切るようにすっと斬った。

バターン、と扉の下部が大きな音を立てて倒れても、なお静寂は続き、更に深まった。

皆瞬きでもしたらその瞬間に死ぬかのように五郎・セッティリヤを凝視している、能面のような全く思考の感じられない顔になって。


「これ、皆殺して良いのかな?・・・」五郎

・・・・

「「「「「「「ぎゃーー!!うわーー!!殺されるーー!!だれかー!!!助けろっ!!ゼバス!!セバスはどこだっつ!!」」」」」」

阿鼻叫喚でも五郎の周囲だけ空間が確保され、それ以外では乱闘騒ぎにすらなっている。本人たちには自分が何をしているのか全く自覚はないのだろうが。


小一時眺め回していたが、まともな者が一人もいなくなったのを確認し、五郎は戻った。


階段を降りきり、出口に向かうと、出口に少女が立っていた。

五郎はその少女が大量の瘴気を発生させているのに気がついた。こちらでは今まで見たことも無いほどの大量の瘴気を発生させる、ひと?ありえない、、


「貴様のような腐った魂と比べれば、貧民窟の中で最も捻くれた者の魂さえ神聖に思えるほどだ、なぜそこまで腐れる?、、、お主、、ひとではないな?」


「げぇへへへへぇ

ひとのくせによくわかったのぉ、、小奴の魂は最初からひと種の中で最もくさっておったわ。だからこそ、我がおいしく食えたのじゃ。きゃつが生まれてすぐに食うてやったわ!

しかも、こやつの親たちも、かなりうまい腐り具合だったぞ?母親は何年も前に食い終わったが、父親はまだ半分残しておるわ。じゃが、今朝少々食いすぎたので、もうひとではなくなっておるかもなぁ、我がこのように乗り移れば良いのじゃが、小奴を優先したいのでのう。」


アーソは自宅で糞小便を漏らしながら、思考能力はゼロになっていた。脳は全く機能せず、魂も生きる力はぎりぎりしか残されていなかった。これから体のはしから徐々に腐ってくちていくだろう。


五郎は丹田に気を練り上げ、九字を唱えた。

「破っつ!!!」


「うっぎゃぁああああああーーー!!なぜっつ!なぜじゃー!!!一瞬でぇえええ・・・」

消えていった。


「ふむ、向こう以上に使えるようになっておるんだなぁ、、なかなか良い体じゃ」

セッティリヤが魔法を使えたからであろうか?




報告

「門前で一度、校舎入り口で一度、仕掛けられたので全て排除し、くらすでは指一本手を出しませんでした。くらすの部屋内にいた者共は自分らで錯乱し自滅しました。

きゃつらは、一体、何を考えて生きているのでしょうか?逃げることすらまともにできない、とは、うさぎにも劣ります。そのような者らに学問を与える意義はいかに?」

悪魔のことなど完全に忘れ去っていた。

「見栄と建前とメンツだけだ。他に何もない」

「なるほど、、得心いたした。 こちらにもそういったところがあるのですな」


それからほどなく、

公爵の屋敷に王城の騎士部隊が来た。100名ほどはいるか?

先頭の者とその周囲の少数からは強い敵意が感じられる。五郎は思わずニヤリとしてしまった。

敵が向こうからわざわざやってきてくれたのだ!

大股で玄関まで行き、脇に立てかけてある槍、これは特注品が今日やっと来ていて、今が使い始めなのだ!100人とは縁起が良い!と心底思った。

更に、大剣を鞘から出した状態で右手に持った。

「開け放しておけ。」使用人に玄関の大きな両開きの扉を開け放しておけ、と言ったのだ。

是非、誰かに見せておきたかった。


門のこちら側から、門の外に居る騎士隊長らしき者に問う。

「何用だ!」

「貴様こそ何者だ!」

「これはいなことを、この屋敷が誰のものか知った上でここに参っているのではないのかなお主らは?見てわからぬのか?無能だのう、これでは強さは全くもって期待できないものだ、、」

「なにおう!、それに、貴様など知らぬわ!!この家に若い男はおらぬ!!」

「目が節穴なのか、頭が空っぽなのか、、始末に負えぬのう、、、」

「ぬっ、こ、このっ!じ、尋常に勝負しろっ!!!」

「ふん、よかろう、貴様ごときでは不足だが、、門番、門を開け放て!、野次馬も遠慮なく入れてやれ!見物させるのだ!!躊躇するな!おーい!そこらの野次馬共、遠慮するな皆門から中に入って勝負を見ていいぞ!!しかし悪さをするなよ?許さぬからな?」


騎士たちは、「こいつ気が狂ったのか?」と、異物でも見るような目で、遠巻きで五郎・セッティリヤをみていた。


「さて! おい、そこの剣を差した者達、こっちゃこう! お前らが見届け人だ。いいな?」

やじうまの冒険者、強制的に任命。


剣を左側の地面にざくっとさして立て、左半身で槍を構える。阿呆そうだから上段でもよかったのだが、とっとと終わらせたい気持ちのほうが強かった。弱者達相手に時間をかけても何もないのだ。


「はじめっ!!」


名乗りも何も無く、一気に始まった。


騎士部隊の半数は、隊長?の後ろから半円に広がって五郎をとり囲んだ。

隊長の後ろ左右に、イチニの子分たち?


鉄棒くらいの硬さの非常に重い柄を持つこの槍、どこを使っても一撃だ!

五郎は体力バカではない。

いくら鍛えたといっても、もともと小柄な女性だ、限度はある。

その小柄さと体重の少なさを利用すべきだろう。この特注槍は非常に重いのだから。


槍を左右にぶんまわし、その勢いで自分をぶん回させ、自分の位置を大きく変える。

頭上でぶんぶん回した槍をその勢いを載せ突き出し、そのまま自分も引っ張られて、素早く前進する。体が軽いと面白いこともできるものだ、とか思った五郎。

「「「「わー」」」」「「「「「わわーーー」」」」」「「「「わわわーーーー」」」」

周囲のモブ騎士どもはまたたく間に蹴散らされた。

残すは3匹のチンピラ騎士のみ。

美味しそうな得物は最後に取っておくのか?五郎。


「あー、そのお前らの表情を見ると、何が起きたのか全く把握できていない様子だが、

そんなこたどーでもいいことだ。余計なゴミを掃き出しただけだ。さて、お前らを掃き出せば、掃除は終わりだ。ゴミどもめ」

「くっ!!いくぞっ!!」「「おう!」」

なんと遅いことよ、歩いているのか?こちらの騎士やらは、走ることを知らないのか?

実際騎士は走っているのだが、五郎にはハエが止まる程度にしかみえない。

全身金属鎧を着ていれば、それなりに遅くなってしまうのだが、この国の兵士は特に弱かった。


剣を使っていないなー、と思い、騎士たちが到着wするまでに槍を後ろに置き、剣を手にとって素振りを何度かした、両手、右手で、左手で。それを見ていた騎士達の足は止まった。


「おい、何止まってるんだ?」

五郎は一瞬にして騎士達の目の前に立った。

????目をむく騎士たち。

「ふざけんなっつ!!」

五郎はひとふりで、3人を門の外までふっとばした。


大歓声が上がった。

この国の騎士たち、兵士たち、などは市民から全く好かれていない、信用など全くされていないのかな?とその歓声を浴びて、五郎は思った。


見届け人達が五郎の元に来て、祝を述べた。礼を言う五郎。

見届け人達によれば、今さっきの騎士団は王室直属騎士団で最も強いと言われている第一騎士団、最後にひとふりで掃き出された3人が、騎士団でも最も強いと言われている3人だそうだ。


それが、ごっついとは言え、若い女一人に一瞬で完敗したのだ。

日頃偉そうな態度、横暴を繰り返しているクズ騎士どもがゴミ同様の扱いをされたことは、人々にとってどんなに爽快痛快だっったことだろう。


その瞬間から、王都では、悪徳騎士団を成敗した「英雄セッティリヤ」と広まった。




翌日、王城からセッティリヤへの呼び出しが掛かった。が、五郎も公爵もそれを無視した。

実際には、王からの使いを門に入れず、内容だけその場で読ませ、「いらんわ、持って帰れ」と追い返した。

二人は書状に指1つ触れてもいない。愚弄にもほどがあるwいや、ほどなど必要なかろう?と、五郎。


騎士団は、第一から第五まである。第二以降の弱さは皆同じ程度だ。五郎の強さを見たら大半その場で逃げ出すので、実際は500人来ても半数も残らないだろう、わしが半分受け持つ、と公爵は言ったが

「はっはっは!あの程度であれば、500が1000いても、わし一人で充分です!」

と、一人で楽しみたい、という気持が顔に出ていた。

「頼むから、わしの娘の体でむちゃしないでくれよな?」と公爵は五郎にすがりついた。




だが、五郎が待ちわびていたにもかかわらず、一向に軍団は姿を現さなかった。

公爵の情報網によれば、第二以降の全団長が出動を断った、と。

バカ王子は自分で責任とれ、と。第一「怖い」。ということだった。


持て余した五郎を見た公爵は

「仕方ない、物足りないだろうけど、わしが少し暇つぶしの相手をしよう」





「わーはははっはっつ!!やるではないか!お父上!!」

「なんのおお!!おぬし、手を抜きすぎではないか?!!」

「あーはっはっは!!バカを言え!充分楽しんでおるわ!!!あーはっはっは!!」


戦闘狂親子にしか見えなかった。


多くの街の者達、冒険者達、が、門にしがみついて、中のその様子を目を輝かせて見ていた。


「英雄親子、2人のみで、この国全ての軍より強し!」

と評判になった。

街では、その姿を詠った歌が流行った。

吟遊詩人も各人、いろいろ詠った。

芝居も始まった。芝居は勿論バカ王子が発端になったところからだ。最後は、現王家が討伐され、開祖血筋の英雄親子がこの国を救う、となっている。

もう、騎士にも王に従う貴族たちにも、王族関係の者達にでさえも、誰も言うことを聞かないし、無視だ。

反王家貴族達は税すら収めない。王家の資金は半減以下になった。

こうなったら、逃げるのは速いもの勝ち、と誰もが思うのは当然だろう。



半年もたったろうか、、、王城には人気が絶え、誰も立ち入ることはなかった。

しかし、王族達が城から出た気配も無かった。街の人々は、そんなことすら全く気にしなかった。


公爵は一応気にしていた。内部に置いた間者も、逃げる従業員たちにまざって逃げねば不自然だったので王宮を出ている。なので侵入が得意な間者数名を放っていた。

王とその家族しかおらず、惨憺たる有様だったそうな、、ゴミ屋敷どころか、、それでもまだ生きているとのこと。

「まだまだ死なないんじゃないですかねぇあれ、、。侵入も門から堂々と中に入れましたよ?もう民家並」とのこと。


国内多くの主だった貴族たちは、公爵に王になってくれと要望した。

もともとそんなのやる気無いし、しかも跡継ぎがコレな公爵が取る手は「他に誰かふさわしいものを、、」と。

でっちあげでも良いや、とさえ考えていた。


が、流石優秀な公爵家の間者達。

アクヤクノーレム家の傍流だが、開国の祖の血筋は確かで、しかも聡明、性格はよく、人望も厚い。なぜそんな出物が今まで潰されずに?と思ったが、貴族になっていなかったのだ。彼の親の代で、貴族の地位を捨てて一般人になったとのこと。腐った世界は子供に良くない、とのことで。少数の一族で農場などをやっているとのこと。


公爵とセッティリヤ・五郎は彼と両親を訪ねた。

「人材がまったく無い!!」

このことを徹底的にプッシュし続け、折れるまでおもいっきり押し続けた。

「嫌になったらやめますよ?」当人

を容認し、

「貴族相手の実務は全部やってくださいね?」

も容認し、

「週に3日は実家に居ますよ?」

も容認し、

やっと承諾を得た。


開祖の血筋、ダン・ジャルバン・アクヤクノーレム新王誕生。


王城でまだ生きていたゴミ達は、ズタ袋に入れられ、最も危険な魔獣が多い森の魔獣の巣の近くに捨てられた。


新王は若くイケメン。

公爵は後見人としてバックアップ。

セッティリヤ・五郎は新騎士団を創設。セッティリヤ・五郎・ブートキャンプで「死んだほうがマシ」なくらい鍛え上げていた。身分を問わず募集したので、母数が大量な分、優秀な者達が生き残った。前騎士団ひと部隊を一人で全滅させられるくらいにまでは育った。それでも五郎の左手以下だが。公爵の右手以下だが。


ダンは五郎と結構相性が良かった。酒を飲み合うことも少なくなかった。


国が安定しだした頃


「お、、父上殿、もうそろそろ我が身はお暇の時期になりそうです。」

「いきなり、何を言い出すんだ?!!」わけわからないっ!!と言い出しそうな顔の公爵。泣きそうだ。


「むう、、多分、そう遠くない先に、生まれ変わりになる、とのことらしい、、、そう感じる。だからもどらねばならないのだ。まぁ、次に生まれた世界でも、無双を決めてやるわ、わっはっはっはっは!!!」

「お主ならそうであろうな、、、」

「父上殿、ご心配めさるな、娘御の魂は傷を癒やしきり、わしと入れ替えに帰ってくる。また数日寝たきりになるだろうが、、、」

「・・・そ、それでも、、さびしいのう、、、、息子ができたように思っていたのだよ、、、」

「父上、ありがとう。楽しい人生だった。」

「行ってしまうのか?・・・・・」

「さらばだ」


セッテイリヤはふらりと倒れかけ、公爵が支えた。







半月程寝ていたセッテイリアの体はやせ細っていた。

目を覚ましたセッテイリヤは、五郎が自分の体に宿っていたときのことを知っていた。

「私の体を生かすために私に代わって生きていてくれたのです」


セッティリアは体調回復のため、よく食べ、軽く動き、寝て、を繰り返した。

五郎のときほど、とは言わないが、よく筋肉の締まったスポーツマン女性系の体つきに収まった。

騎士団を指揮し、ダンの仕事を手伝った。

数年後、ダンとセッテイリヤは結婚した。



「公爵様、お産まれです!男の子です!!」

「おう!!王の世継ぎだ!!めでたい!!、、、我が孫だ、、、男の子だ、、、」泣き出す、、五郎を思い出しているのだろうか?


「立派な騎士王に育てようぞ!!」、やっぱり五郎みたいにしたい公爵であった。







数年後。


歩き始めた孫にプレゼントを持ってきた公爵


「ほうら!お前にプレゼントだ。強い剣士になれよーぉ?」名剣だ。


「ほう、これは、、、」


「・・・・・・・・・・・、、そ、、その、その物言い、、」


「久方ぶりでござる父上殿、いや、今は祖父殿ですな」


「い、いつから、、」


「産まれた時から。生まれ変わる、と申したでしょう?」


「はっ、ははは、、こ、これで、ほ、本当に我が、、我が家族に、なったんだな、、はは、はっはっは、あーはっはっはっはっは!あーはっはっはっはっは、今日は最高じゃ!!!

どうだ五郎?一本行くか?!」

「まだ幼児なので無理でござる」

「あーははっはっはっはっは!そうだったな!はっはっはっははー!!」


王の世継ぎの名前に、名が1つ加わり、

グロリオ・ダンノビッチ・ゴロウ・アクヤクノーレム






五郎が王になったかどうかは定かではない。が、公爵一家が生涯幸せに暮らせたことだけは確かだ。

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