無双!!悪役令嬢2 マティルデ



「貴様のようなゴリマッチョと、イケメン優男の王太子様とは、絶対的に似合わん!!殿下もそう申しておるわ!!」


いや、全く言っていない。けど、とってもとっても気が弱い王子は、彼にくっつくコバンザメ共に何も言えなかった。

コバンザメ共は、そういう殿下を利用し、自分の好き勝手をしているのだ。


「あ?、貴様、モブのクセに言うに事欠いて、、、、」


真っ白な絹のシンプルな動きやすそうなドレスの、どこから出したのかわからんが、メリケンサックを左手にはめたとおもったら、もうそのモブは目の前から消え、夜会の行われている広間の開け放たれているベランダ部から、空高く消えていた。


「ふん、山犬のほうがよほど、、、」

その、美しいほど引き締まった体躯、この世界の男性平均より少々高い身長、別世界であれば「トップクラスの美女」になったであろう女性は、

マティルデ(Matilde)・ゴローブナ・キターノヘンキョ公爵令嬢だ。


領地は北部国境辺境。冬は雪深く、狼も多い。子供の頃から討伐に加わっていた。

北部の子どもたちはアクティブな子ばかりだった。

「領主こそが、領地の中で最も強くなければいけない」、と長生きした曽祖父は言っていた。マティは曽祖父を尊敬していた。いや、一族全て、領民全てが、曽祖父を今でも尊敬しているくらいだろう。だから父もマティもミドルネームは曽祖父からもらっている。誇りなのだ。



マティは王子の腕を取って、場所を変えた。


「助かったよマティ、、」

「今はまぁ、私がいるからまだいいが、そろそろ言うべきことくらい言えるようにしないと、不味いぞ?」

「うん、、マティがそのままお嫁に来てくれれば良いんだけど」

「あ・ま・え・た・こ・と・ぬ・か・す・な。 私が四六時中おまえにべったり付いていられると思うのか?子供の頃とは違うのだぞ?」

「・・・まぁ、、そうだけど、、」

・・・・

マティ思案中。・・・なんか渋いもの食べた?・・あ、ひらめいた顔!


「よし、我が領地へ来い。私自身がお前を鍛える。体がそこそこになれば自信もつくというものだ」


王子は、必要がなければあまり深く考えない性格だ。必要があればとても思慮深いのだが、それを口に出せないので、マティ以外はそれを知らない。


ーー


キターノヘンキョ公爵領、北部辺境。

北部辺境領都、キタ。


その昔、キタ一!族という辺境族がここら一帯まで支配していたそうだ。今は更に北部に巨大帝国を築き、大農業&資源国になっている。

北帝国との交易で、キターノヘンキョは潤っている。



「すごいね!王都より活気がある!これが辺境?」

「うむ、我が領は、北帝国との交易が盛んだからな。縁戚だしな。」

「そうだね、北帝国と我が国ドッカーノ王国は、マティの家があるおかげで血族でいられる。・・・本来ならマティの家が王家を継いでたんだよね、、、」

「今更何を言ったって始まらん。これから、だ」

「ありがとうマティ」



王子は、たった一人の跡継ぎということで、それはそれは過保護に育てられた。

今まで王都の外はもとより、王宮の外に出たこともさほど多くはない。

王妃が王子の為に貴族学院を王宮に隣接移転させたため、学院も「家の中」感覚だ。実際王宮の一部と化している。学院警備は王宮側が受け持っている。


今の王家は、本来無能の血筋ではなかった。ここ数代、世継ぎが少ないため、母親やバァさん達にあまやかされ続け、今ココ状態になっている。

それを端から見ていたマティ父は危惧もしていた。

だからこそ、嫌々ながらもマティを王妃候補とすることを容認した。

よって、だからこそ、今回の鍛錬話は王妃も容認せざるを得なかった。



王子到着直後でもマティは容赦しない。曽祖父譲りの「ぶーときゃんぷ」の始まりだ。

荷物は使用人達に全て任せ、マティは王子に運動しやすい軽装に着替えさせた。


北部辺境の領主の館は、大本は大昔の砦であった。曽祖父がキター!族と和解するまでは戦乱に明け暮れていた。なので今見ても王城よりも巨大な砦、を、改築し、見た目城みたいにしてあるとわかる。

「領主の住処に金などかけるな」 これも曽祖父の教えだ。領地の将来のために金を使え、と。


なので、砦の設備多くがそのまま利用され、領軍は領城を本拠地としている。勿論広大な訓練場も敷地内にある。

昔は砦内に町があったのだから。

今では親戚付き合いも頻繁な北帝国と事あるわけがないので、町は砦外にし、どんどん広かっている。


その訓練場の一部に、曽祖父が、どっから仕入れた知識か自分で考えたのか誰も知らないが、へんなものがいっぱいある。

が、まだそれは使わない。

王子は広大な訓練場の周囲を走らされた。


「そんなんで国を守れるか!お前が守らないで誰が守るんだ!王の器とは、誰かに守って貰うんじゃなく、誰かを守るためのものだ!血反吐を吐いて、器をでかくしろ!泣くな!泣く体力あるなら、走れ!お前の走る先に守るべき者がいる!危機に晒されている!お前が立ち止まったらその者は死ぬ!いいのか?そんまま殺されて!!クズになるのか?!!頑張るんだ!!」


到着初日は、マティは一緒に走らず、軽い訓練で終わった。↑、軽い訓練。

王子は夕食もろくに食べられないようだったので、それを見越して王都を出る前に南から取り寄せておいたマンゴーやパパイヤ等食べやすく栄養のあるものを与えた。


翌日はマティが速度を調整しながら一緒に走り、昨日の筋肉痛の慣らしのみで終わり。

その後戦闘などの座学を行う。


王子はびっくりを通り越して驚愕した。

なんなのだ?この思考は!

いくつもの可能性を先読みし、一つ一つの攻撃によって、敵を自分の目論見の中に囲い込み、蹂躙する。

ここの領軍をマティが指揮するだけで、ドッカーノ国全軍を容易に木端微塵にできるだろう、と、王子は内心で結論を出した。

北帝国王室が、血筋たるキターノヘンキョ公爵家と必要以上に懇意にしているのは、この恐ろしさを知っているのではないか?とも思った。


夕食後のお茶の時間。

「マティ、あの座学のことだけど、、、」

「ん?質問か?良い傾向だ」

「根本のとこだけど、、あれもひいおじいさんからなの?」

「そうだと聞く。私も曽祖父から直々に教えを受けた」

「最初は何がなんだか全く理解できなかったよ」

「だろう?私もそうだった。曽祖父がぼけて、その意識がいきなりどっかにとんでいったのか?とさえ思ったほどだ」

「そこまで失礼なことは思わなかったけど、、、」


「曽祖父の話はおもしろいぞ?何を聞いてもおもしろいものばかりだったな。理解できないことばかりだったが、それでもどうにかわかるように話してくれた。」

「救国の英雄は、ただの英雄ではなかったんだね」

「私にはとてつもなく変なジィさんだったな、でもとっても尊敬できる人だ。今でも私の、いや、私達家族どころか、領民まで含め、みなの心の指針になっているだろう。」


「ぶーときゃんぷ、を受けた時は”このじじぃ気が触れたか!!”と思った。でも、きっと意味があるんだろう、と信じ、血反吐を吐きながらやりきった。

私は初日に血反吐をはいたぞ?吐くものがなくなると、胃壁が傷ついて血が出るのだそうだ。」

「・・・・・・・」


「私は甘い。だから曽祖父みたいにできない。そうすることが本当に相手のためなのだ、とわかっていても。」

「・・・・・・・」


「なので、すまん、どこまで鍛えてあげられるか、わからん。だが、できる限り、鬼になることに徹することを誓おう」

・・・・どっちがいいのか、、、


「ありがとうマティ、、、」

「フン、まだ早いわ。きゃんぷを卒業してから言ってくれ」

「そのときはそのときで、ね」




数日後、ランニングのみから、障害物を利用した走行に移行した。

それもさほど苦にならないように見え始めたら、格闘訓練。

受け身、組んで投げる、固める。

組まずに受け流す、投げる、固める。

手と腕を使っての防御、攻撃。

これらを段階的にこなし、

やっと

武器を持っての訓練に入った。






王子の訓練がランニングから障害物走行に変わった頃、王都では


「何?王子の姿が見えないと思ったら、あの悪女が北部に連れて行っただと?!!!」モブ1


「えー!!俺、出入りの商会から利権を渡せと脅すのに王子を利用しようと思ってるのに!いつ帰ってくるのさ!!」モブ2


「知るか!!俺だって、俺の兄を騎士団にコネでいれさせようと王子が必要なのにっ!!」モブ3


「ふざけんな!!王子の嫁は、時期王妃は俺の妹だっつ!あんな悪女に取られてたまるかっ!!」モブ4


「おまえんち、妹いないじゃん、可愛い系美男子だろ?おまえの弟」モブ1


「ふざけんな、俺には弟は居ない。いもうとだけだ」低い声ではっきり強く言うモブ4

ビビるモブ連中

(((おもうと、か、、、)))


王子取り巻き4モブの背後には、王子取り巻き二軍モブが20人ほど控えて沈黙していた。一軍が居るところでは質問されたことを答える時、用事を言いつけられた時以外声を発してはいけない暗黙のルールがあるようだった。バカみたいだが、バカにはそれがいい感じなのだろう。


「なんにせよ、本気でまともな次期王妃候補を、我々が用意しなければならないようだな」

と、モブ1がモブ4に聞こえないように言った。

「あの怯えたうさぎのようなアホの子をいいように利用して良いのは、我々だけなのだ。我々こそが、ドッカーノ王国を支える礎なのだから!!」



ーー



格闘訓練もそこそここなせるようになった頃には、もう王子は食事を以前の倍も食べるようになっていた。

武器の訓練に入る頃には、初日から2ヶ月が過ぎようとしていた。


「ふむ、思った以上の速度で育っているな」マティ

「おまえの指導と、彼のお前への信頼、による成果だな」父

マティ父はよく見ていた。曽祖父に訓練されたマティも今の王子と似たようなものだったのだ。自分はそこまでなれなかった、とその気持に少々後悔もまじっていた。


王子に槍と剣の基本が身につき始めた頃、領都は冬に入る支度を始める頃になっていた。

そろそろ実践を始めてもよかろう。と、マティと父は相談していた。



「タカ、明日、狩りにいく」 マティは王子に告げた。

王子の名は、タカーノブ・イゴールビッチ・ドッカーノ。タカーノブはマティの曽祖父が名付け親だ。

タカは鳥の鷹で、大空から広く大地を俯瞰し、しかし小虫一匹をも見逃さず、必要あれば強力な爪と嘴で戦う戦士だ。ノブは信頼という意味で、国民を信頼し国民から信頼される国を造り維持することができるように、という意味らしい。

ミドルネームのイゴールは平和の戦士という意味があるそうだ。ドッカーノ国始祖の名前だ。王直系になるとそのミドルネームになる。

マティの家は直系から外れたので、ゴローをミドルネームにした。




森の入り口に粗末な幌馬車を止め、皆降り、マティ、父、王子以外の5名は整列していた。


「今日は特に座学の実践という意味が強い」

え?!実技の実践だと思ってた!!と、ちょっとショックの王子。


「戦闘チームを組んでの行動だ。その実践を行う。軍曹、来い。」

「イエッマム!」

なんかわからない返事の言葉をとりあえず置いておく王子。


「彼がお前の補佐をする、タカ。お前が隊長だ。補佐の助言をよく聞いて、座学の”小隊の行動”をよく思い出し、戦果を上げてきてくれ。くれぐれも無茶はせず、負傷者を出さない努力をしてみろ。軍曹、良い隊長に仕上げてくれ。」

「イエッスマムッ!!」


6人は王子の「警戒しながら進む」の命令で、その体勢を取りながら森に入っていった。


待つこと半日。

その間ほげっとしていたわけではない。

実践は、実は日帰りではないのだ。一応5−6日の予定だが、臨機応変で行こうと決めている。


今日はここで野営する。

その準備をマティと父で行った。

今回は「通常野営」。火を使っても良い。安全確保されば場所での野営。という最も容易な状況下想定。

当然馬車は無いものとするので、寝るのは地べた。支給されるのは防水の敷物と毛布のみ。この気温下ではマントだけの狩人達よりはかなりマシだろう。防水の敷物は、雨天時にはポンチョに、降雪時には防寒具にもなる。



結局、中型熊1頭、鹿2頭、うさぎ3羽の、中の上と言っていい成果だ。軍曹が、隊長の初陣に花を、と頑張ったのだろう。

それについて言及しないが、ねぎらいをするのは上の仕事だ。軍曹に酒1瓶を与えた。軍曹は下の者達にも分けてやるだろう。

王子も流石、基本聡明なだけあって、自分で気づいている。熊の毛皮、鹿の毛皮と角、うさぎの毛皮を軍曹に与えた。

それをマティとマティ父は何も言わず眺めた。



2日目は小移動し、そのまま狩り。


3日目は移動のみ。馬車移動半日、徒歩移動半日。野営は「火を使わない」野営だ。獣でも火があると「人間が居る」と、人間を獲物として見る獣もいるのだ。


なんだかんだで5日目が終わった。

「軍曹、ご苦労だった。お前のおかげで、良い小隊長が育った。」

「イエスマム、ありがとうございます、マム」

「さてタカ、私と父が見ていたが、今お前は入り口に立った。これから数々の実戦を経て、武力、指導力、指揮力などを積み重ねていくことができる。今までだったら、その積み重ね自体がありえなかった。だが、もうお前は全ての経験を活かし、積み重ねることができうる素地が作られた。おめでとう。」


あれ?僕、うれしくって笑っているのに、涙が、、、?

「あはははは、、おかしいね、、なんだろ?あはは」

「それだけ辛かったんだろう、訓練が。よく頑張った!!」マティ父がタカを優しくだしきめてやった。

マティのが男っぽい?



ちなみに、タカはぐいぐいでかくなり、身長がマティより高くなり、体重もマティの1.5倍以上になっていた。

マッチョ美男子王子になっていたのだ。

勿論声もよく通る声になり、意識すればかなり遠くまでとおる。

いつのまにか気弱はほぼ消え、よほどの理由がなければ、無意識に普通に話し、返答し、必要なことばを自分から発するようになっていた。



砦に帰り、慰労パーティーを開いた。


翌日から数日、マティがタカに「気の体内での回し方」を教えた。

気がたまるようになったら練り方をおしえようと思っている。


その数日が過ぎ、ぶーときゃんぷは終了した。

1日だけ領都を楽しみ、翌日、王都に向かって出発した。


馬車の中で

「気を練るようにできる頃にはな、いろいろ使えるようになる。」

「例えば?」

「そうだな、走るのが早くなる、、、、御者!馬車をとめろ!!、いいか?見てろ」

外に出て御者に何か指示するマティ

馬車が走り出す、速度を上げる、

「御者!マティがまだ・・あれ?」

窓の外をマティが走っている、が、それほど早く走ってるようにも見えない?が、馬車、速いよ?

?????

「御者!とまれ!」

止まった馬車にマティが乗り込んできた。

「ふう!。出してくれ!。」馬車が走り始める。

「これが気の成果だ。すごかろう?その一部だぞ?」

「・・・・よくわからなかったが、、、走る速度が尋常じゃなかった、ということだけはわかった、、、

なんか、へんだったよ、走り方、、、」

「まぁ、あれもコツがあるのだ、追々な」


「しかしタカ、よく野宿できたな?でも眠れたんだろう?」

「うん、初めてだったけど、マティや皆と一緒だし。皆がこれで眠れるんなら、僕も眠れておかしくないだろう、と」

「ふむ、さすがだな、そういうとこは合理的に実行させられる。貴族のバカボンどもに爪の垢飲ませたいわ」

「ははは、、でも、あれはー、、課題だねぇ、、、この国の根幹を破壊するからね」

「もう、かなり、な」






その頃のモブ群。


「アホ王子はまだ帰って来んのか!!!」モブ1

傀儡にさせるために、モブ1は王妃候補を用意したのだ。この国最大の商会、ゼニヤ商会の娘である。

商会会頭ゼニー・オタカーラの一人娘である。当然あまやかされすぎて育った。ので、超我儘。

モブ1は、王国利権がらみで、商会とのパイプを誰よりも太め、最も美味しい目をしようと目論んでいたのだ。

会頭は会頭で、娘が王妃になったら、モブ1など即切り捨てるつもりだ。


モブ2はモブ2で、自分の出戻りの姉を押し付けようとしていた。モブ2は王子と同い年なので、当然姉は年上。この世界では姉さん女房はありえないとされている、側室は別だが。ましてや出戻りである、どこまで王太子というものを舐めているのだろうか?自分に置き換えて考えることなど死んでもできないモブ達であった。


コバンザメ派であったモブ3は「自分はうまくいったやつにくっついていればいい」と考えていたが、先日たまたま、

遠縁の男爵がその令嬢と共に邸に来た、領地の経営がうまくいかず無心に来たのだ。幼年期以来で忘れていたが、そこそこ美人に育ってったので、「これは!」と思い、自分の家の養子にして伯爵令嬢になればどうにか?とか思った。参戦である。


モブ4は、いわずもがな。おもうとを本気で押し付けようと思っている様子。

実はモブ4は弟に心底嫌われている。幼児期、おとうとのちんちんを「こんなのおまえにあっちゃだめだ!!」と切ろうとしたのが弟のトラウマになっている。








「貴様のようなゴリマッチョと、イケメン優男の王太子様とは、絶対的に似合わん!!殿下もそう申しておるわ!!」


マティの馬車が学院の通り抜けようとした時、馬車の前に立ちはだかったモブ一群。モブ2が率いている。


先に馬車から降り立ったのは服の上からでもそのたくましい筋骨がよくわかる大柄な青年だった。

「ふむ、王太子はそんなこと言っては居ないが?」


「な、なにをっ!!き、貴様は誰だっつ!!あの悪女を出せ!!」

マティが馬車から降り立った。

「またせたな、名も無きモブたちよ。お前らの出番はもうしまいだ。さっさと引き上げろ。」


「くっつ!!たわけたことを!!お前らがしまいになるんだっつ!!かかれっつ!!!」

と、叫べど、命令した自分は全く動こうとしない、それを見越した二軍共は、自分たちだけ犯罪同様のことをするのはいやだったので、動かない。

「何をやってるのだ?かかれと言っているだろう!!かかれっつ!!!」

うごかない。なぜかもじもじしている奴もいる。

 

モブ2がヒステリーを昂じさせて泡を吹き始めると、もじもししていたモブ二軍の数名が剣を放り出して王子に駆け寄ってくる。

「「「あ、あのっ、、、お兄様と呼ばせてもらっても、いいでしょうか?」」」


他のモブ達は、やはり剣をぼいっと投げ捨て、フン、と鼻を鳴らしながら三々五々離れていった。

泡を吹いて倒れ、ひくついているモブ2は、放置されたまま。



王子とマティを乗せた馬車は、校舎正面玄関に向かう。歩行に合わせてゆっくり歩いている馬車に向かって、付いてきたモブが

「校舎前にモブ1が、今度は自領の騎士達を連れて待ち構えています。お気をつけください!!」

「ありがとう。でも大丈夫、彼女がいれば、王国軍の半数くらいは片付けるんじゃないかな?」

「タカ、それはないだろう。でも今のお前となら、全軍を撃破できるかもしれんな。父上が入れば、3人ならば、確実にいけるな」

モブ3人はあっけにとられた。



「貴様のようなゴリマッチョと、イケメン優男の王太子様とは、絶対的に似合わん!!殿下もそう申しておるわ!!」

モブ1も一語も違わず、全く同じセリフを吐いた。王都では流行っているのか?


んなことを思いながら、今度はマティが先に降り、無言で馬車の後ろから最も長く重い槍、曽祖父が使っていた槍を取り出した。

ブンブン振り回しながら感触を確かめた。よし、いける。


歩行から小走りに走りながら槍を振り回した。

ぶん!! 「「「「「わーーーー」」」」」

ぶん!! 「「「「「「わわわーーーー」」」」」」

ぶん!! 「「「「「「わわぁーーーー」」」」」


金属鎧を着た騎士たちが動く間もなく飛ばされていく。

一度に5−6人の鎧騎士達を吹き飛ばしても、みし、とさえ言わない、物凄い槍だ!とマティは感心した。

王子は、マティはガタイが良いと言えどもうら若き乙女、それが槍ひとふりに何人もの鎧騎士達をふきとばしていくのだから感心した。早く自分もあの領域に到達しなければ!と。


「さて、モブ1よ、貴様だけになったが、、その顔、今何が起こったのか全く理解できていない顔だな?愚か者だからこそ、事実を見ようとしないわけだ。 だが心配ないぞ?あとは最後のゴミ、お前を掃き出せば掃除は終いだ。」



「くっ!なにをう!!女のくせに!!」

「ぷ、そのおんなのひと振りに何人者騎士が倒れた?お前の騎士などその程度。つまり、主のお前もその程度でしかない、どうした?、かかってこないのか?」

「クソっつ!!!ばかにするなあああああああ・・」

どがっ

「あーーーーーーれーーーーーー」 きらりん* 傷一つ無い=使ったことのない鎧を輝かせて、モブ1は大空に消えていった。



「では、クラスに行こうか」 王子がマティの腕をとって一緒に建物に入っていく。



クラスにはゼニヤ商会会頭まで来ていた。当然娘もいる。今日編入したということなっている。

「これはこれは、王太子殿下、

言いながら歩み寄ろうとした会頭と王子の間にマティがすっと入り、会頭が近づくのを阻止した。

会頭は腕でマティを払いのけようと、、

「あれ?なんで壁があるのかな?」と思ったら、それは床だった。


頭上から声が聞こえる。

「お前は誰に向かって何をした?ここにおわすのは、時期国王と決まっている王太子だ。ただの王子ではない。

この国の礼儀作法だと、まず跪き、顔を伏せるのではなかったかな?貴様はこの国の王よりも格上なのか?ん?」


「そこの衛士、こやつを牢にぶち込んでおけ。不敬罪だ。私か王太子が許可をするまで絶対に出すな」


マティがクラス内を睥睨した。

眼力の威圧感に、全員が跪き、面を下げた。小便の臭いが教室に立ち込めた、、、

少々やりすぎたか?マティは一瞬思ったが、いや、丁度よいと思い直した。


「誰が、部外者をここに連れ込んだのか?」

マティの問いに答える者はいない。怖くて口がうごかないのが第一の理由、第二の理由はモブ1に逆らうことになるだろうから。第三の理由はゼニヤ商会を敵に回したくないから。


「おい、おまえ、お前が答えろ。それとも、王太子直々に命令されないとだめか?」

王太子に命令された日にゃ、少しでも間違えたことを言ったら、下手すりゃお取り潰しだ。

「お、お待ちください、い、今、、、、、先程のゼニヤ商会会頭の令嬢が本日編入され、その付き添いで学院に入ってきました。」

「うん?質問の意味がわからなかったのか?お前は。お前の名はなんだっけ?」

「も、もうしわけございませんっ!モブ1が連れてきました!!令嬢は王太子殿下の后候補にするんだとか!!」

「何バラしてんのよっ!!お前!おまえの領地の経済をめちゃくちゃにしてやるからっ!!」


ほう、

「おまえが、その令嬢とやらか。自ら名乗り出るとは、、」

「あんたこそ何よ!えっらそうに!!あたし以上に時期王妃にふさわしい者はいないのよ!!この国の経済を牛耳っているのはうちなのよっ!!あんたんとこなんかすぐ滅亡させてやるわ!!」

「ほう、言うではないか、やってみせよ。北部辺境領だ。ゼニヤ商会、今より我が領地での活動を一切禁じる」


真っ青になる娘。バカでも知っている。北部辺境領はこの国の経済の半分を担っている。北帝国への輸出、北帝国からの輸入、全てが北部辺境領経由なのだ。


この「禁止命令」が外に漏れた瞬間、ゼニヤ商会と取引する者は、この国には存在しなくなる。


北部辺境領自体も、ゼニヤ商会をどうにかしたかった。せこく悪どいのだ。

本当の悪党ならば成敗すればいいが、中途半端の悪党ほど人々に迷惑な奴らは居ない。

この国の殆どの者は、同様に思っていた。が、悪党同士が手を組むというのも世のならい。

悪徳領主とのタッグが国内の大半で行われていた。




学院から生徒達が自分の邸に帰る頃、もう町にはその話が行き渡っていた。

ゼニヤ商会のビルには、使用人さえいなくなっていた。勿論会頭は牢獄の中。

娘はメイドさえ居ない、ひと気の全く無い商会の中で立ちすくんでいた。


国内各領地の王都邸では、大騒ぎである。大半がゼニヤと組んで悪事を働いていたからだ。

そのような領地は、この瞬間から経済が大混乱、中には崩壊、まで。



ゼニヤ会頭は処刑された。王妃が会頭の無礼極まりない行為、なによりマティでない、しかもろくに躾もされていないゴミのような娘を我が子に押し付けようとしたのだ。それを許すわけがない。

王妃はモブ1の一族郎党をも処刑しろと主張し、会議にかけさせた。

出席した各領主は真っ青。自分の家の息子たちが関わっていないか?不安でたまらない。

なので「ココは穏便に」と、実は自分のために、主張した。で、多くのものが同調した。


しかし、その主張の真の理由を知る王妃は、その者達をその場で捕縛させた。

捕縛した者達は全て改易。その一族全て一般人に身分を落とされた。

勿論領軍を出すという強硬派領主もいたようだが、その領軍自体が、「出兵か?」と聞いた時点で皆逃げ散った。コネで自分の見栄のために領の騎士になった者たちばかりなので、当然だろう。


はからずも、王国の膿を出し切れた、ということだった。


残念なのが、王も一応信用していた宰相までもが、その一人だったということ。


だが、ここはこれ、マティが発端、ということで、マティ父を中央に呼び戻すことができるだろう。彼を宰相にできたらこれほどのことはない。王は自分の全ての財産を出しても惜しくないくらいに彼をかっていた。


また、王都騎士団員も8割方いなくなった。いなくなったのはコネでねじ込まれた「全く使えないゴミ」ばかりだったのでよかったのだが、立て直しをどうするか?

宰相就任したマティ父は、、

「すまない、、だが、、ここはおまえに頼る他無く、、、」


マティは自領の騎士団の半数を呼び出し、

王都の騎士団を

”王太子直属騎士団”とした。王太子が王になれば、王直属に格上げだ。


マティが騎士団長に就任したその日から、ぶーときゃんぷは始まった。

国内全土から騎士候補を募集した。きゃんぷの最後まで残れば騎士になれる、とした。身分年齢性別は問わない。

次から次へと入ってきては脱落し、、自分で鍛えて再度挑戦、というものまで出てきた。


「どうだ?マティ、騎士団は?」

「そうですね、お父様はどの程度の規模があればよいと?」

「3000以下に抑えてほしい。うちの領地はいざ知らず、大半の領地はひどい状態だ。これらを一応今は王直轄地にしているが、、出費がものすごくなる。幸い、我が国に手を出す阿呆な国は周囲にはない。我が国に攻撃、すなわち北帝国に攻撃、ということになるからな。助かっている。」

「まぁ、いざとなったらうちの領軍のみで充分でしょうが。」

「それだと格好がつかないだろう?一応王国だここは」


マティのメガネに叶う者達をよりすぐったら2000名程度になった。

半数を工兵として疲弊した地方のインフラ整備の手伝いに回した。

残り半数が、まだ鍛錬が全然足りないので、毎日しごかれている。


タカ王太子は、宰相であるマティ父にくっつき、国の様相を知ること、仕事の内容など学んでいる。

その後、王にくっついて王の仕事を少しづつ受けていくことになる。





王城の夕餉のあと、ソファでくつろぐマティとタカ。


「マティ、僕が情けない頃、君はさんざん悪女扱いされていた。僕のせいだ。ごめん、、」

「ん?そうだったか? はっはっはっ 悪党に悪党呼ばわりされるって、なんか悪くないもんだぞ?」

「・・・・・・・・」

「ほれ、中には少数のまともな者達もいたろう?彼ら彼女らは私を悪女呼ばわりしたか?」

「、、、していなかったような、、普通に君に接していたよね」

「だろう?ならば問題なかろうが」


「ただ、おまえが見下され、いいように利用されていた、ということだけは、忘れてはいけないぞ?」

「うん、、、」

「許されるのと、忘れられるのは、全く別のことだ。今は昔のこと、と許さえるだろう。しかし、あの頃のタカを忘れる者はいない。いつそれを思い出してお前を見くびるか?、ごく小さな亀裂だが、それは存在しているんだ。教訓としていけばいいだけだ、とも言えるがな」



それら一連は、後年、ゼニヤの改易、と呼ばれる歴史上最大の改易事件であった。



マティが槍の手入れをしているときに、ふと思い出した。

幼い頃のことだ。曽祖父の膝の上で、曽祖父がマティ以外には秘密にしている本を見せていてくれた。

それは「しゃしん」と呼ばれるとても精巧な絵で、実物と同じであった。

それは他の世界の他の時間の人々。その背景にはきれいな色の家があったり、なにか乗り物があったり、わけわからないものばかりであった。

曽祖父がそれをどこから持ってきたのか?

「おおじいちゃん、これ、どこから持ってきたの?」


「うむ、神が面倒くさがり屋このうえなくてな、

わしが使い勝手良いらしく、何度も何度も使い回しするのだ

だから、このくらい持って行かせろ、とダダをこねたのだ。違う世界の、随分先の時代から持ってきた。」


今も意味はよくわからない。が、

あの本は、曽祖父が持っていってしまったのだろうか?

今度領地に帰ったら探してみよう。と思った。

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