068話 懐かしき声
―― そうあれは、私が時代錯誤も甚だしいブイサインを、二人に向かって決めた後だった。
ブイサイン越しに見えるアイリーンのダークグリーンの瞳と、ヒュウガの桃色をした瞳が、突然、大きく見開かれる。
二人の視線は、揃って、私の背後に注がれていた。
「…後ろ…です」
ヒュウガのたどたどしい声。
「……あわわわ」
アイリーンは、更に視線を上に向けた。
私は恐る恐る、背後を振り返り、それを見て言葉を失う。
「…………あ」
"パクッッ!!"
……そう、私達三人は、いつの間にか現れたリヴァイに、パクっと一飲みにされたのだ。
―― 真っ暗闇の中に甲高い声が聞こえた。
「ちょっと~、生温かいヌルヌルが……全身にっ……気持ち悪いんだけど!どこなのよっ!ここぉ?」
しばしの、沈黙。
そして、自問自答で、終わる。
「……っもう!リヴァイのお腹ん中ねぇ!私を食べるなんて許さないんだから!」
「暗闇で、何も見えませんが、早く脱出しないと、胃酸で溶けてしまいます。衣服や武具が。……あ、身体は私が護りますので大丈夫です」
この声は、ヒュウガだ。近くにいる。
私は、足元に溜まっている胃酸を、ピチャピチャと音を立てながら、立ち上がる。
私は、ここに居る、と言う合図でも無いのだが。
そして、胃壁と思われる、生温かい肉壁に手を付きながら名案を…叩き出す。
「体内から攻撃したら、安全にリヴァイ……倒せたりして……?」
「…ショコラって、実は、天才なのぉ?」
聞き流したが、何かが引っ掛かるのは気のせいか。
「名案ですが、早くしないと脱出時、私達は丸裸です」
人間大の大きさになったら、さすがに丸裸はイヤだなぁと考えていたときだった。
「「キャァ!!」」
"ドゴゴゴゴォォ…"
轟音とともに可愛らしい二人の叫び声 (私は叫んでなど、いないぞ)がしたと思ったら、足元がグラリと歪んだ。
胃酸が溜まっていた床が、壁になり、天井になる。
そうして、しばらくの間、重力のベクトルは、目まぐるしく入れ替わり続けた。
……しばらくして、暗闇重力のシャッフルが、落ち着いた。
私は、どちらかの豊満な胸の柔らかさを顔に感じながら一息付いた。
「……ふう」
「ちょっと、そんなとこ……触ったらダメです」
甘い吐息を漏らしながら、ヒュウガが呟いた。
「痛いよ!ちょっと動かないで!」
私の下からアイリーンの声がする。
私達は暗闇シャッフルで、絡まってしまっているようだ。
暗闇な為、どういうふうに絡まっているのかは、誰にも解らない。
そうやって、ヌルヌルの中、私達、美女三人が絡まり合っている時だった……。
何やら声が聞こえた。
『……ほうおぬし、コバエどもの仲間か……』
「…………三人…………妖精…………」
『……知らんな……だが……お前も消しておこう……』
「…………わよ!……だから!」
―― それは、リヴァイが、外の誰かと会話している音だった。
外から聞こえた、あの声に
私は、懐かしさと安心感を感じずには
居られなかった。
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