067話 私はショコラ

さながら、アニメか何か…の主人公のようなアイリーンに、リヴァイの首をかっ切って来るように、ビシッと言われたのだが…。


まぁ、そうだろう。

リヴァイにしてみれば、そんな茶番を待つ必要も無ければ、付き合う必要も無いの だから。


目の前に居たリヴァイが、動いた気配だけを残して消えた。

「…どこっ!?気を付けて!」

私は言いながら、左右に素早く視線を巡らせる。


「逃ぃげないでよねぇ~」

勝ち誇ったかのような口振りで呟くアイリーンは、差すモノが無くなった人差し指をクルクルと回しながら、黒い海上に視線を飛ばしている。


…リヴァイは、三貴竜なのだ。


逃げるわけがない。



何故、気付かなかったのだろう。

頭上に迫り来る、この圧倒的な存在感に。


物凄い重圧が、頭上にある。

背筋が、シンと、冷えた。


ヒュウガの声が、やっと届いた。


「…!上ですっ!!」


そう…ヒュウガは、言っていた。



私は視線をそらに上げる間も無く、何か…硬く黒い大きな何かに、衝突され、吹き飛ばされていた。

……いや、この場合

身体全体をハエ叩きにされた

と、表現するのが正しいのだろうか?


そう、私達三人は、それこそコバエかのように、頭上にいたリヴァイの竜尾に、いとも簡単に叩き落とされていたのだ。


潮が引いた丘は、泥がドロドロだ。

……ドロがドロドロなのだ。

その丘の上に、無様に突っ込んだ私達三人。



ヒュウガは、泥がまとわり付いた可愛らしい桃色の髪を気にも止めず、そらを、リヴァイを、キッと睨み付けていた。

その姿は、やはり凛としていてカッコいい。


一方、髪質が細くフワフワした金髪のアイリーンは、泥にまみれた髪に触れながら、何やらキーキーと、騒ぎ、地団駄を踏んでいる。


ふふ、私は左右の翼を思い切り広げ、何とか身体がドロに沈むのを防いでいる。


私は、泥にまみれた両翼を優しく羽ばたき宙に舞った。

「…さてと」

ナル、イマリ…力を貸して!


…そして、力強く羽ばたく。


全力前進だ。


右手に、しっくりと馴染む《アマテラス》を横手に私はリヴァイに突っ込んだ。


見える。

左上方。

リヴァイの右髭が、しなりがら迫っている。

加速して、それをかわす。


見える。

次は水平だ。

リヴァイの左髭が、水平に走っている。

スッと翼を閉じ、下降して髭をやり過ごし、そのまま再加速。


見える。

私はナルやイマリと一緒に居たのだ。

私はいつも、あなた達を見ていたのだ。


この程度の攻撃など、見るのに造作も無い。


『グァォォォォオオ!』

リヴァイが、大きく口を開けた。


ズラリと並んだ牙が目の前に広がった。


ナル、あなたならどうする?


わたしは……。


ズラリと並んだ牙が、一斉に私に襲い掛かる。

全力前進から急旋回。

私はその回転力を《アマテラス》に乗せ、リヴァイの顔に刃を叩き付けた。


"バキボキ"

"ズシャリ"


それは、無数の牙が私の右翼を咬み砕いた音。

それは、《アマテラス》の刃がリヴァイの鱗を斬り破り、顔の右側に傷を付けた音。


そらに赤い血が、パッと咲いた。


リヴァイは、咬んだ右翼を離さなかった。

そのまま、巨体ごと黒い海へ潜り、私を引きり込む。


海面を打つ間際、ヒュウガとアイリーンが私の名前を呼んでいた。

大丈夫、私は黒い海から返ってくる。


リヴァイの潜水は止まらない。

深海まで、私を引き摺り込むつもりだろうか。



イマリ、あなたならどうする?


わたしは……。


"ブチッブチチッ"

水中だと、音が身体の内部に響く。

そう、そんなに右翼を喰いたいならあげるわ。


私は咬まれた右翼を、引き千切りながらも、リヴァイの右眼球に、すり寄った。



そんな眼で、見ないでよ。


その眼に《アマテラス》の切っ先をズブリと、思い切り突き刺した。


地鳴りのような叫び声だ。

『ウゴゴオオォォオオガァアア!!』


リヴァイが、何やら叫びながら、海中をのたうち回る。


私は、リヴァイのその姿と、ボロボロの右翼が、《ノアの杖》の力によってすぐさま回復していくさまを交互に見やりながら浮上していた。



海上に帰還した私に、宙で待っていたヒュウガ、アイリーンが声を掛けてくる


「良かったです!窒息系は《ノアの杖》でも護れませんので!」

「次、私に心配させたら、ケーキ奢りの罰だからね!」



先に言ってて欲しかったり、

ツンデレかとツッコミたかったり、

したけれど…


ありがとう。

私は、大丈夫だよ。


だってナルやイマリと共に冒険していた…

私は……

「私はショコラ」だから。


私はそう言って笑い

ブイサインを二人に向けた。





―― 真っ暗だ。


今思えば、あんな悠長に、時代遅れも甚だしいブイサインなんてしている場合ではなかったのだ。


私達三人は…… 真っ暗闇にいる。


……たぶん、ここは、

状況から察するに、


リヴァイの、お腹の中だろう。

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