065話 覇海竜と覇空竜

青き空に、白い翼を広げ、《アマテラス》を抜き払う。


太陽の光が、《アマテラス》の刃にキラリとねる。


私は空を駆け、アイリーンを追った。


あの竜はヤバい。


直感が、そう警鐘けいしょうを鳴らして止まない。


あの竜が恐らく……三貴竜と呼ばれているモノなのだろう…。


それが、そこに、存在しているだけなのに、物凄い威圧感を放っている。



アイリーンがそらに停まって、《アルテミス》の弦を引いていた。


竜は…その鋭い眼光を、真っ直ぐ私達に向けている。


「…何か悪い事…したの!?」

《アルテミス》から銀の閃光が走る。


「何で?…生命いのちを奪うの?」

《アルテミス》から立て続けに銀の閃光が走った。


「何様なのよ…許さないから」

《アルテミス》の速射砲が、止まらない。


「アイリーン!…落ち着いて!」

怒りの為か、金髪が逆立ち始めているアイリーンに向かって私は声を掛けた。


アイリーンの手が止まる。

そのダークグリーンの瞳には、悔し涙が、溢れんばかりに溜まっていた。



沢山の生命いのちが無差別に奪われた悔しさ。

仲良くなったうみねこを殺された悔しさ。

自然を無下に破壊された悔しさ。


それらを、織り込んだ銀の閃光は、しかし、あの竜に、かすりすらしていなかった。


その巨体に似合わず、流れるように身体をくねらせて《アルテミス》の閃光を全てけた竜は、もう終わりかと言わんばかりに、口腔内の禍々しい牙を覗かせている。


アイリーンは一度下を向いてから、再び視線を上げた。


ダークグリーンの瞳が無言で何かを訴える。

「……」


アイリーンの視線が私から、後を翔んできたヒュウガに流れた。


そして、こう叫ぶ。

「ショコラ!ヒュウガ!…お願い!力を貸して!」


……ふふ、あたりまえ、じゃないの!


アイリーンが、初めて私を名前で呼んだ。


それに、なんだか……くすぐったい何かを感じながら私は応えた。

「アイリーン!ヒュウガ!協力してあいつをるわよ!」


「好きなだけ暴れなさい!貴女あなたたちは私が全力で護ります!」

ヒュウガが《ノアの杖》を掲げて見せる。


「……二人とも、ありがとう!」

アイリーンは、嬉しそうにそう言うと矢先を再び竜へと向ける。


そうして、私達三人があの竜に視線を送った時だった。



突然、空が曇る……。


そして辺りに響く、重低音の声。

―― 『リヴァイよ……』


それは、空を翔んでいた。

私達の遥か上空……。


その巨大な両翼は、大地にも、巨大な影を生み出し、その影に私達は、飲み込まれていたのだ。


目の前にいる竜が視線を上空へと向けた。

続く、重低音の声

―― 『バハムートか……』

先ほどより近い……リヴァイと呼ばれた、目の前の竜が喋ったのだろう。


バハムートと呼ばれた上空の翼竜よくりゅうは、逆光のせいで、その姿は影だけしか見えないが、その巨体はリヴァイと呼ばれた竜に引けを取らない。


その、空を支配したかのような巨体が、大きく旋回しながら喋る。

―― 『遊んでいる場合ではないぞ』


―― 『コバエが、居たのでな』

リヴァイは私達に眼光を移して答えた。

その顔は、ニヤリと嘲笑しているようにも見えた。


―― 『オロチ様の復活が始まったのだ……急ぐが良い』

バハムートは、そう言うと大和内陸部に向かって翔び去ろうとしていた。



「…なんなのよ!あんたは!」

アイリーンは《アルテミス》の矢先を、リヴァイからバハムートに変えながら叫ぶ。


「竜!仲間か!ゆるさない!」

そう言うのと同時に、いくつかの銀の閃光が天空の影に向かって走った。


バハムートは翼を畳んだのだろうか……。

さえぎられていた太陽光が、一斉に地表を射した。


太陽光に一瞬、視界を奪われた。


そして、再び、視界が戻ったとき、その青い空にバハムートは、もう、居なかった。


"ゴゴゴォォ……"

そして、この轟音に、視線はリヴァイに戻される。


巨体をくねらせながらリヴァイは言う。


―― 『我が名は、覇海竜はかいりゅうリヴァイアサン…残念だが時間がないようだ…コバエは死ね』




それは、それを言い終えたと、同時だっただろうか?


いきなり、リヴァイアサンが目の前に現れた。


続いて、空間全体が、何かに斬り裂かれる音が響く。

"ズォンッ!!"



…………。


私は辛うじて、見えていた。


リヴァイアサンの二本の髭が

鞭のように、しなりながら走り


アイリーンと、ヒュウガの身体を


一閃していたのを……。

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