064話 黒い海
自然の波を前にしては…やはり、《ノアの杖》による保護は意味を成さなかったようだ。
黒い波は私達の身体を、いとも簡単に押し流した。
目を開けて見れば、潮が目に染みた。
口を開ければ、潮が肺の空気を奪いに来た。
そんな事を考えながら、濁流の中で私は、もがいていた。
しかし
手に掴むのは、潮だけだ。
足が蹴るのも、また潮だ。
荒れ狂う濁流の中では、上下左右が目まぐるしく、入れ替わる。
……息が…。
"バキバキバキィ"
息苦しさで洩らした肺の空気に加えて、翼が何かに引っ掛かった衝撃で、更に洩れた肺の空気。
その、気泡が私の顔を撫でて行く。
私は、反射的にそれを掴んでいた。
私の翼を引っ掛かけた…それは、山の斜面に生えていた大木の枝葉だ。
さっきまで海岸にいたのに、あっという間に、ここまで流されてしまった。
私は濁流の中で、大木を上へと登る。
ようやく見えてきた青い空…
残った力を振り絞る。
思い切り、両翼で海面を打ち、私はやっと海上へと飛び出した。
……。
空は青い……しかし…
辺り一面は、黒い海だ。
白い砂浜、青く煌めく海、緑が映えた丘。
それは、全て黒い海に塗り替えられていた。
"ザザァーー……"
地獄のような黒い海が、全てを飲み込み満足したかのように、音を立てて引いていく。
私は上空にいたアイリーンとヒュウガの傍まで上昇し、眼下のそれを眺めた。
引き潮に流される
大和の住民達…家畜も…ペットも……
魚や、木々、お花だって…
一瞬にして奪われた
黒い濁流に流される、うみねこを見ていたアイリーンが肩を震わせながら呟いた。
「…許さない……」
アイリーンは、海へと翔ぶ……。
そう、そこには、恐らく、この津波を引き起こした張本人…。
巨大な竜が…いる。
それは翼を持たない、長く太い体躯をしていた。
四つ足の
しかし、
その強靭な
見たものの背筋を凍らせる鋭い眼光
鋼鉄をも貫く、天に伸びた角
頭部から竜尾までズラリと並んだ刺
口元からは、獲物を狙ってユラユラと宙を舞う強靭でしなやかな髭
全身を纏う、分厚く、どす黒い鱗
それらは、
そう、やはりこれは
巨大な竜なのだ。
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