063話 帰還

それが起きたのは…


太陽がギラギラと照り付ける、そんな大和の砂浜で、束の間の休息を取っている時だった。



あれ?…疲れたのかな……?


視界がクラリと、歪んだ気がした。


"……サー……"


耳鳴り……?


いや、それは視界に、すぐさま否定される。


海が静かに引いているのだ。


何処からともなく、潮が引く音が聴こえていた。


なぎさが私達から離れていく。



「えっ!ちょっと?」

私は遠くなった海を見ながら立ち上がる。


《ノアの杖》を右手に、同じく立ち上がったヒュウガは、静かに辺りを見回した。


「う~ん…イヤな予感しかしない!」

上空に翔んだアイリーンは海を眺めながら、片手でヒュウガに風の力を付与する。


アイリーンは、どこか楽しそうに続けた。

「なるだけ、高く翔んだ方が良い――

―― "ゴゴゴォォォォォォ"


地鳴りのような轟音に、アイリーンの言葉は、かき消された。


"ゴゴゴゴゴゴォォォォ"


アイリーンが上昇しながらこちらを向いて、何かを叫んでいる…が聴こえない。


私はヒュウガの手を握り、翔んだ。



そして、

私はそれを、海の向こうに見る。


水平線の向こう…

白波を立てながら迫り来る巨大な津波を



陸に近付くに連れ、グングンと津波は高さを増した。


津波に飲み込まれる空と、太陽。

そして、

津波の影は、私達三人を飲み込んだ。


私達の身体が、淡い光に包まれる。

ヒュウガだ。

《ノアの杖》による保護が張られた。



津波と轟音だけが世界を支配する。


津波はついに、私達の目の前に迫った。


"ゴゴゴゴゴゴォォォォォォ"


「…………」

……何か……聴こえた。



"ゴゴゴゴゴゴォォォォォ"


遠くで、誰かが…叫んでいた。

「うーわわわわ!!ちょ、ちょ!?とめて!とめて!!なんなのよぉぉぉ……」



―― 黒い津波は、全てを飲み込んだ。


波に飲まれながら、向こう側に、私は見た。


それは、大蛇…のように長い、巨大な影…。

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