062話 正義のベクトル
"…ザクッ"
「…ふぅぅ」
白い砂浜に足を着けたヒュウガは、ホッとしたように、胸を撫で下ろしながら、ゆっくりと息を吐いた。
私も両翼を畳み、砂浜に着地する。
時代が違うとは言え、久々の大和だ。
…なのに、何故だろう…?
古里へ帰って来た喜びは皆無だ…。
…答えは、解っては、いるけれど……。
「にゃぁ、にゃぁ、にゃ?」
……アイリーンが、道中、従えたうみねこの大群に向かって、何やら話し掛けている。
「…にゃぁ~……にゃ!!」
何かの号令を合図に、うみねこの大群が砂浜の海岸から一斉に解散した。
空を翔ぶのに相当疲れたのか、ヒュウガは砂浜に腰を下ろし、そんなアイリーンに笑顔を向けている。
アイリーンは、こちらに振り返り、笑顔でこう言った。
「この時代は、空も海も綺麗!鳥たちも魚たちも幸せだね」
アイリーンの笑顔に、不安と寂しさが混ざる。
「……ねぇ、この世界、護りたいよ」
それは、切なく儚い…願いのようだった。
「私は護ります!…私には、私を信じてくれている人々がいます…私は彼らを裏切れない」
ヒュウガの瞳に、力が宿る。
「一緒に悪を倒して…帰りましょう!平和な世界へ!」
そう言うヒュウガを見て……
アイリーンは、笑った。
それは、屈託の無い少女のような微笑みだ。
アイリーンは、強大な悪を前に、精神的な支えが欲しかったのかも知れない…。
そして、そこには圧倒的カリスマ性を持ったヒュウガがいた。
ヒュウガの発する言葉には、力がある。
本当にそうなるのでは無いかと思わせてくれる、力がある。
私は彼らを微笑んで見ていた。
優しい言葉が勝手に漏れた。
「うん……護ろう、そして帰ろう」
アイリーンの、真っ直ぐで純粋な自然に対する愛情は深い。
アイリーンは、悪ではない……。
むしろ、正義とさえ……。
ヒュウガは、教団の人々を平和に導くために一生懸命だ。
人々を救い、護る…その愛もまた、本物だ。
彼女らと、また違う出逢い方をしていたら、私達は素敵な『仲間』になれていたのかも知れない。
なぜ戦った……?
いや、戦わされた……か……。
……あーもうっ!!
ウジウジごちゃごちゃ!めんどくさい!
「二人とも!改めてよろしくね!!」
私は、二人に少し…心を許した。
でも、この二人は
こういう顔するんだ。
ずるいよ。
私だけ味方とか敵とか考えていたみたい。
二人は、今さら何言ってんの?
って表情で、私を見て微笑んでいる。
―― このとき、すでに
青い海は、黒い海に飲み込まれていた
…のかも知れない
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