060話 風が吹いた

強力な風の陣が、全ての弾丸を跳ね返すさまを目の前にしたマリーは、笑っている。


マリーの魔法は、止まらない。

「裁き」


天から大地に、大きな光の柱が落ちる。

その光の柱は、風の陣ごと私達を飲み込んだ。


私は危機に顔を歪める。

雷系の魔法だろう…。

これは、避けれない…。


光が辺りを包み込む。

空間が裂け、大地が唸る。

そして、轟音だけが世界を支配した。



しばらくして

脳を揺るがした轟音と

脳を焦がした光が止んでいく。


だんだんと、視界がひらけていく。


焼けた大地と、辺りから立ち上がる黒煙が視界に入ってきた。


続いて、白く淡い光に包まれた、自身の身体が視界に入る。



私達三人……

私と、ヒュウガ、それと

風の巫女アイリーン


私達三人の身体は、ヒュウガの《ノアの杖》の能力によって、白く淡い光に包まれ、如何いかなる魔法からも護られていた。



光の巫女ヒュウガは、私達を護ってくれていた。



「…はい、終わりにしましょう」

マリーは、金属製の杖を腰のあたりまで下げながら、悪気もなく言った。


「光の巫女様が、そちら側に居るのでは、さすがに分が悪すぎます」

マリーは、光に包まれた私達三人に視線を巡らせながら、申し訳なさそうにしゃべっている。


「ちょっと!あんな攻撃をいきなり仕掛けといて、ふざけないでよ!なんなのよ!あんたは!?」

アイリーンが、煌めく金髪をなびかせながら、マリーをめつけ…


「あ…魔の巫女か!敵さんか!」

自問自答で終わる。


そして、躊躇ちゅうちょなく

《アルテミス》の矢を…放った。


光の矢は、銀の閃光となり、そらに居るマリーの心臓部を、貫通する。


「……あれ?」

「…へ?」

当然、避けられると思っていた私とアイリーンから、へんな声が漏れた。


マリーは心臓部にあなを空けながらも、微動だにせず、喋りだす。

「風の巫女様、あなたは、そちら側に付くのですね?」

感情が読めない表情で、マリーはアイリーンに視線を向けた。


「あなたちの会話は、全て風が教えてくれたわ……、私は三貴竜を倒す!そして、今度こそ、全ての種族が平和に暮らせる世界を創るの!……邪魔しないでくれる?…おばさん!」

両手を、絞られたウエストに当て、豊満な胸を反らしながらアイリーンは応えた。


「……」

どの単語に反応したのか不明だが、珍しくマリーが無言になった。



「ま…、まぁ、良いでしょう。私も貴女方あなたがたに対抗するためには、物理系の巫女の力が必要ですし……」

マリーは、少しだけショックを受けたような表情で喋り出す。


空を見上げて、マリーは続ける。

「私は大和の……オロチ封印の地『三王山さんのうざん』で待っています。そこで、またお逢いしましょう」

言い終え、マリーは深々と頭を下げた。



凛とした声が響く。

「逃がさん!!」


大地でヒュウガが叫んだのだ…しかし…ヒュウガの攻撃手段では、マリーに何も出来ないだろう…。


なんとなく空気を読んだ私とアイリーン。

私は《アマテラス》を引き、マリーに滑空する。

一方、アイリーンは《アルテミス》から次々と銀の閃光を放ち出した。


《アマテラス》の刃は、黒いドレスに包まれたマリーの胴体を、簡単にいだ。

私は、左翼を折り綺麗に旋回、再びマリーに《アマテラス》の刃を叩き込んだ。


《アルテミス》が放つ銀の閃光は、次々とマリーの身体にあなを空けている。

止まない銀の閃光は、時折ときおり私の翼をもかすめていく。


《アマテラス》と《アルテミス》による攻撃に、ピクリともしなかったマリー。


そのマリーの映像ビジョン

何も言わず

ゆっくりと消えて、いきました。



「……」

ヒュウガは無言。


「……どさくさに紛れて、私を何回か狙った…よね?」

私は、アイリーンを横目に睨みつける。


「……映像じゃん!あのおばさん映像じゃん!」

アイリーンは、大袈裟に悔しがっている。



私のにらみなど、どこ吹く『風』だ。

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