059話 幹部会談

《ノアの杖》を構え、マリーから視線を離さないヒュウガは、おとぎ話のような…にわかには信じがたい話の内容を吟味しているようで、言葉を発することは無かった。


「ソル軍も何も……

この世界に来たばかりで

何が何だか、よく解らないわ」

私は、率直な意見をマリーに告げた。


マリーは、現状を理解出来ない私達に、でしょうね、と言わんばかりにゆっくりと頷き、簡潔に、諭すように、話を続ける。



「…数日前、この辺りの上空に、三貴竜のひとつ、覇空竜はくうりゅうバハムートの雄姿を見ました。バハムートは竜王ヤマタノオロチが封印されし地、大和に向かって翔び去っていきました」


マリー自身も、この世界を理解しようと思案しているかのように、ゆっくりと話は続いた。


「……そうです。討伐したはずのバハムートが、この世界では生きていました。ならば、恐らく…覇海竜はかいりゅうリヴァイアサンも…生きているのでしょう…」


「話は変わりますが…私が、この世界に足を踏み入れた瞬間、ソルの呪い…いえ、オロチ封印の代償が……綺麗に解けました。そして、剣の巫女様、あなたも代償が完全に、解けています。」

マリーは、私の背中…天使の翼にチラリと視線を送った。


「オロチ封印の代償が解け……

覇空竜バハムートが居て、大和へ向かった……

あの蝙蝠女…ヴァンパイアも、代償が解けた私達に、まったく興味を示さず、いち早く大和へと向かいました」


「…普通に考えるならば、竜王ヤマタノオロチは……復活しようとしている?……いえ!…すでに、復活していてもおかしくありません」


マリーが、不敵な笑みを浮かべる。

「そこで、先ほどの質問に戻ります。復活した三貴竜に対して…ソル軍はどうしますか?」


マリーが持つ金属製の杖が紫色に輝き出した。


私はそれを視界に納めながら、ある可能性を提案しようとした。

「オロチは…三貴竜は…この世界でも」

「破壊の限りを尽くし、統治しようとするでしょうね……それが、竜の宿命さだめ

しかしそれは、マリーに、すぐさま否定される。



私は一度、死んだ。


"……おねぇちゃん、早く元気になりますように……"



私の脳裏に、あの子の笑顔が浮かんだ。


私は、幸せな家族に救われた。


素敵な街の人々に救われた。


私はこの世界の人々に、命を一つ与えられた。


私は世界を護りたい。



「私は、災難から人々を護り、弱きものを救う…カメリア教団の教皇である!……正義の名の下に…かつて光の神が、そうしたように、私は三貴竜を討つ!」

《ノアの杖》を天に掲げ

教皇、ヒュウガが凛として応えた。


「三貴竜が世界を破壊しようとするならば……私がその前に、三貴竜を破壊しよう」

……ナルやイマリなら

こう言うだろう……。


私は…世界を護ろう。



マリーが笑った。

マリーは金属製の杖を掲げながら言った。

「そうですね。…今回、私は三貴竜側に付きましょう。ソル不在のソル軍では三貴竜に、到底、太刀打ち出来ませんから」


マリーが、更に上空へと飛び上がる。

「…と言うことですので、現時点より私達は……敵対関係です」


マリーが金属製の杖を振るいながら

叫んだ。

氷槍ひょうそう!」


ユラリと降っていた雪が、一斉にマリーの杖の上に集まった…かと思った瞬間、それは、巨大な氷の槍となりながら、私に光のごとき速さで迫る。


「……しまった!」

それは、予想以上に速く鋭い…。


私は身体を捻り、翼を思い切り、羽ばたかせながら、何とか避けようとしていた。



その時――


私に迫る氷の槍は、視界の外から現れた光の矢に撃ち消された。


「…へぇ、あなたですか」

マリーは、彼方に視線を送っている。


私も、そちらに視線を送ろうとしたが、マリーの杖が再び、振るわれたのを確認し中断する。


マリーが叫ぶ。

氷弾ひょうだん!」


辺り一面の雪が、合わさり、無数の氷の粒となった。

それらは、弾丸の速度で、一斉に私達に降り掛かってくる。


上下左右、空間全ての雪が、弾丸だ……。


逃げ場が、無い!



風陣ふうじん!」


上空から、聴いたことのある声が響いた。


その声に続いて、急激な下降気流が私達を包みこむ。


下降気流は、大地にぶつかり、四方八方に拡散している。


無数の氷の弾丸は、全て

その『風』に跳ね返されていた。

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