053話 壊滅
一面に広がる、白銀の世界。
誰もいなくなったような、そんな世界。
そこに…
抱き合うように寄り添う
赤と黒がいました。
―― まだ、間に合うっ!
私は、全力でイマリのもとへ向かっていた。
青白くなっていくイマリに向かって、ナルが一生懸命呼び掛けている。
イマリ、意識はまだあるのだろうか…?
血に染まった地面に
雪はいつまでも降り続いていた。
雪が止むことは無かった…
そんな一日でした。
―― それは、私の目の前で、起きた。
ナルが、"えっ"という表情を浮かべている。
イマリが、ナルを突き飛ばしたのだ。
おそらく、最期の力を振り絞って。
イマリは、可愛い笑顔をナルに向けて
何かをしゃべっていた。
聞こえなかったけど、たぶん
「ありがとう」
それから
イマリに影ができた。
それは、天から降ってきた。
《ノアの杖》
天から地に向かって
それは、振り下ろされた。
それは
イマリの頭を
イマリの身体を
……すり抜ける。
静かに着地する、光の巫女ヒュウガ
頭と胴体を失った、イマリの手足
ナルの両手も、消えて無くなっている。
それらが、静止画のように
私の目の前に、広がっていた。
私は、止まっていた。
現実を、止めたかったのかも、しれない。
止まっていた雪が、ヒラリと舞う。
―― 動き出す
バラバラになったイマリの四肢から、次々と血飛沫が吹き出した。
ナルは、消失した両腕から血を吹き出しながら、地面をのたうち回っている。
ヒュウガは、ゆっくりと辺りを一瞥した後、もがき苦しむナルに向かって歩み始めた。
ヒュウガの足下では、イマリの四肢が、仄暗い光の
「感動シーンが台無しじゃ」
どこからとなく聴こえた少女の声に、ヒュウガの足が止まる。
いや、声で止めたわけではないようだ。
ヒュウガの首元には、大きな鎌…死神が持っていそうな鎌の刃が当てられていた。
死神のような大鎌を振るうのは、白髪ショートの少女だ。
宙に浮かんでいる少女は、所々に赤い線が入った真っ白い着物姿をしていた。
少女は、透き通るような真っ白い肌に、一度見たら忘れることができないような深紅の瞳と、深紅の唇をしている。
少女のかん高い声は、その深紅のかわいらしい唇から漏れた。
「…終わりじゃの」
少女は、鎌を持つ指を、少し動かした。
ただ、それだけの動作で、大鎌はグルリと一周の弧を描く。
ヒュウガは動けなかったのだろうか?
または、超治癒能力による怠慢だろうか?
動かなかったヒュウガの頭は、いま落ちて離れていく。
《ノアの杖》による超治癒能力を無視して、少女が振るう死神の鎌は、綺麗にヒュウガの首を刈り取った。
ヒュウガの頭が、地面を転がり止まる。
遅れて、崩れ落ちるヒュウガの身体。
この地に何度目かの血飛沫が舞う。
仄暗い光の
薄い黄色の光の
私は、一連の出来事を理解できずに動けないでいた。
え?イマリは…?
ヒュウガ…?
白い少女は何…?
ナル…
ナルの両手が無い……苦しんで、のたうち回っている……。
ナルを治癒しなきゃ!
私は、動き出した。
そう、こんな現実を認めず
こんな現実から、いち早く
逃げ出す、みたいに……。
「…終わりみたいですね」
また、
今度はクールな声色だ。
そこに居たのは、黒色のロングドレスを着た女…ダークエルフ…魔の巫女ローズ=マリー
落ち着きのある声は、続ける。
「剣の巫女様、血の巫女様、お疲れ様でした」
ローズ=マリーは事務的に言うと、手にしていた鉄製の杖を天に掲げた。
そして、私が"見る"ことが出来た
この世界の物語は
ここで、終わりました。
「
ローズ=マリーが放った言葉を最後に、世界は白い輝きに包まれる。
空から、幾つもの光りが一斉に落ちた。
辺りを白い雷光が包み、そして、私の身体を、感じたことの無い衝撃が突き抜けた。
大地が唸り、空気が
身体の感覚が無い。
あるのは、冷たいという感覚だけ。
身体が、在るのかどうかも解らない。
これが"死"なのだろうか…。
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