052話 おかえりなさい
赤い着物の裾で、涙を拭いたナルは
何かを決意したのか、右拳を握りしめ…。
―― 二人は、また同時に動き出した。
ナルは素早く身体を回転させ《赤い
それを視界に納めていたイマリは、足下の雪をふわりと舞い上げて、姿を消す。
"ガキィン"
振り下ろされた両手のカタルを、ナルは《赤い
「うおおぉお!!」
イマリは、再び後方に跳ねて距離を取ろうとしていた。
しかし、ナルがそれを許さなかった。
ナルの叫びと共に、イマリは力任せに振り払われる。
イマリは、吹き飛ばされながらも、ナルを視界に納めようとナルの方へと顔を向けた。
無表情のイマリが、驚愕に目を見開いた気がした。
ナルは、イマリを追い、すでにイマリの上にいた。
ナルの身体はすでに旋回している。
思い切り、叩き付けるように《赤い
"ガキィン、ドガッ"
無表情なイマリは何とか、両手のカタルで《赤い
そこからの、イマリは速い。
石畳に、背中を打ち付ける姿が不意に消える。
追撃を避けるため、地を蹴り疾走したのだろうか?
しかし
私は、次の光景に自身を疑った。
ナルは、イマリより速かった。
地を蹴り疾走していたイマリを
ナルは、
ナルの潰れた左手が、イマリの右手首をがっしりと掴んでいる。
超至近距離で対峙する二人。
「…イマリ……もう離さない」
ナルは呟き、左手に力を込めた。
「……」
イマリは無表情に、自分の右手に視線を落とし、それから右手を引き離そうとしたが、ナルの左手に阻止される。
遠くから見れば
仲の良い二人が
手を繋いでいる
そう、見えなくもなかった
"ガキィン!!キィンキィンガキィン!"
それは、不意に始まる。
二人は手を繋いだまま、超至近距離でカタルを、赤い釵を…振り回していた。
交錯するカタルと
交錯する赤と黒
二人の間に響く金属音。
二人の間に舞う血飛沫。
二人の間でぶつかる視線。
二人の間に落ちる白い雪。
―― 私の目では、何が起きたのか見えなかった。
決着を知らせてくれたのは
止んだ金属音と血飛沫。
二人の間に落ちた一筋の涙。
そして抱き合うように
その場に座り込んだ二人。
それと……
その二人を中心に広がる
おびただしい量の、生温かい血。
「……ごめん…なさい」
「なんでこんなこと!…」
「……孤独だった…」
「……私は、ずっと独りだった……」
「私がいるじゃんっ!!」
「ショコラだっているじゃんっ!!」
「イマリは独りじゃないでしょっ!!」
「…ナル……違うの…」
「なにがよ…!」
「ナルありがとう…でも……親友と…家族じゃ…違うの……」
「……お姉ちゃんに…逢いたかった」
「…お父さん、お母さんは…どんな人……だったのかな……甘えて…みたかった……」
「……ナル…ごめんなさい……こんな弱いところに…私は付け込まれたみたい……」
イマリの顔色が、青ざめていく。
「ショコラッ早く!」
言われなくても、解ってるわよ
私はイマリと姉妹なんだから!!
―― 私は
赤い
―― 間に合う、はずだった。
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