049話 殺人マシン

二つの金属音と、二つの打撃音を残した攻防は、あまりに一方的だった。


鋭い旋回から放たれた右手カタルの刃は、ナルの細い首筋に喰らい付かんと、閃光の如き速さで放たれたが、それは、ナルの持つ《赤いかんざし》にしっかりと受け止められた。


続いて、遠心力を極限まで蓄えた左手カタルの刃が、ハンマーの如く空気を押し潰す音を上げながら、ナルの胴へ送り込まれた。

ナルは利き腕に持ったもう一つの《赤いかんざし》を身体に密着させ、ハンマーの如きカタルの刃を、しっかりと受け止める。


凄まじい衝撃に、ナルの身体がブレる。


だが、《漆黒しっこくのカタル》の刃を二つとも防いだナルの表情は、反撃の好機チャンスランと輝いた。


しかし、ナルがそれを視界に捉えたころには、恐らく何も出来なかったことだろう。


二つの刃に続いていた凶器は、イマリの左足によるハイキックだ。


ハイキックは、まともにナルの側頭部を捉えた。


その衝撃に、ナルの黒髪が宙にパッと開いた。


身体をけ反らせたナルに四つ目の凶器が迫る。


イマリの右踵みぎかかとは容赦なく、がら空きになったナルの鳩尾みぞおちに叩き込まれた。


足下の雪を撒き散らし、吐血しながら吹き飛ぶナルを、感情の無い黒瞳はしっかりと捉えていた。


その場に着地したイマリには、やはり感情の起伏が見られない。

それはまるで、ただ無機質に闘う殺人マシン。


その冷徹な黒瞳は、舞い上がった雪煙の中で、しっかりと立ち上がっているナルの影を映していた。



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