048話 白銀と、赤と黒

ナルの背後で宙に舞うイマリが、《漆黒しっこくのカタル》を振り抜いた姿が視界に映った。


カタルの刃の軌道は、迷いが一切なく美しく速かった。


"キィィィン"

遅れて届いた金属音が、寒さで鈍りそうになっている脳を震わせる。


それを奏でたのは、ナルが両手に持っている《赤いかんざし》だ。


ナルは、雪を払った《アマテラス》を手放すと、すかさず髪を結っていた《赤いかんざし》に武器を持ち替え、それを背中でクロスさせ、背後からの急襲きゅうしゅうに対応した。


かん高い金属音が鳴り止むより早く、純白のフィールドを、赤と黒が衝突しながら並走する。


"ガキィン、カン、キィン"


"ガキィィィン!"


一際ひときわ大きい金属音の後、赤と黒は大きく反発し、離れた。


両足を地に付けたまま、雪の上を滑るように私の目の前まで吹き飛ばされたナルは、視線を宙に向けている。


"ヒュンッヒュンッ"


冷たい空気を切り裂きながらやってきたのは《漆黒しっこく手裏剣しゅりけん》だ。


それは、的確にナルの頭と心臓に向かって投擲されていた。


宙からは二つの手裏剣が、それに呼応するかのように地を這う黒い影が、一斉に赤へと進攻する。


ナルの決断は、静止だ。


大きく振りかぶった《赤いかんざし》二本を目前に迫った手裏剣に、思い切り振り下ろした。


"ガキィン、ガキィン"


漆黒しっこく手裏剣しゅりけん》は《赤いかんざし》に、物凄い勢いで打ち払われ、至近距離に迫っていたイマリに矛先を変える。


イマリは進攻の速度を、少しも緩めなかった。


漆黒しっこく手裏剣しゅりけん》が、イマリの右頬を裂いた。

もう一つもイマリの左肩を掠めた。


白銀の世界に鮮やかな赤い血飛沫が舞う。


イマリは、その勢いのまま、右手カタルを突き出した。


ナルは、身体を半身開き直撃は避けたものの、脇腹にカタルの刃が食い付いた。


白銀の世界に三つ目の赤い華が、パッと咲く。


イマリはその場で踏み込み、左手カタルをアッパーの要領で突き上げる。


ナルは、脇腹をえぐられながらも冷静だ。

上半身を反らし、カタルの突き上げをかわしつつ、イマリにローキックをお見舞いした。


雪混じりのローキックは、空気を押し潰しながらイマリの下を通過する。


その場で跳ねたイマリは背をナルに向けていた。

いや、背を向けていたわけではない…イマリは凄まじい速度で旋回している最中さなかだった。


振り返ったイマリの黒髪は、旋回の速さで横に流されている。



"ガキィン!"


"ガキィィン!!"


"ドス!"


"ドゴォ!!"



二つの金属音と、二つの打撃音が

白銀の世界で連続した。


そして、そこに立っていたのは

イマリだけだった。

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