044話 無敗の弱者と盗賊妖精

身体を白く輝かせたヒュウガは《ノアの杖》を片手に、ゆっくりと歩き、ナルへと近づいていく。


殺し合いの最中さなか、あまりに無防備だが、ナルは動かず、ヒュウガを見つめている。


ヒュウガは歩きながら、友達と会話をするかの様に語りだした。


「やはりあなたも、強いのですね…

…私には、他の巫女達のような破壊的な力はありませんが…偉大なる神の加護、絶対治癒力があります」

ヒュウガの足が止まり、《ノアの杖》が掲げられる。

「私は絶対に、負けませんっ!!」


ヒュウガの叫びと同時に、振り下ろされた《ノアの杖》は再び床を消滅消しさった。


バックステップでかわしていたナルは、着地した瞬間、急突進する。


《ノアの杖》を振り下ろしたヒュウガの胴体を《アマテラス》の刃が、すり抜けた。


ヒュウガは何事も無く、振り返る。


遅れて《ノアの杖》が水平に襲う。


しかし、ナルは下だ。


ナルは《ノアの杖》の下を疾走、ヒュウガの両足を斬り、駆け抜けた。


ヒュウガは、その足で宙にジャンプし、空中から《ノアの杖》をナルに振り下ろす。


ナルは低い姿勢から思い切り地を跳ね、ヒュウガに体当たりした。


二人は空中で激突し、弾け飛んだ。


ナルは、私の前に着地する。

「…はぁはぁ」

さすがに疲労の色は隠せないようだ。


ヒュウガは地を数回転がり、ゆっくりと立ち上がっている。


決定打が無い戦いに、終わりはあるのだろうか…?



「…ショコラ……私が、あの化け物の相手してる間に…赤い十字架の奥にある黄色いオーブ………って来て……」

ナルが小声でささやいた。


「…りょ、了解…」

神聖なる教会で…私は盗みをやるようです…。



「おりゃあぁぁぁああ!!」

ナルは叫び、《アマテラス》を天井に投げつけた。


パラパラと、大小に割れたステンドグラスが部屋中に舞う。


ナルは赤いかんざしの二刀流で、ヒュウガに迫っている。


私は静かに、移動を開始する…。



ヒュウガは割れた天井を見上げていたが、身体を突いたかんざしに、視線を落とした。


ナルは付かず離れず、かんざしの二刀流でヒュウガを翻弄ほんろうする。


ヒュウガは《ノアの杖》を振り回しているが、ナルをとらえる事が出来ない。



色とりどりのステンドグラスが舞う部屋の中、金属音も打撃音も無い、静かだが激しい二人の舞踏ダンスは終わり無く続いていた。


その舞踏ダンスを観賞するのは、天井に投げつけられ、天井を破壊し、落ちて地に刺さった《アマテラス》と、そのつかに止まっているオーブ泥棒の妖精だ。


私は任務完了を報告する

「ナル!!…オッケーよ!!」


ナルは、こちらを見て叫んだ。

「よしっ!逃げるよ!!」


ナルは、ヒュウガが下から振り上げた《ノアの杖》を、身体を反らしかわし、そのままバク転、《アマテラス》のそばに着地する。


《アマテラス》をつかみ、ナルは言った。

「ヒュウちゃん!またねっ!」


ヒュウガは、高速で地を這い迫ってくる。



……その時だった。



"ドス、トスッ、サク、トスッ、ドス"


「……封殺陣フウサツジン


懐かしい…イマリの声がした。

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