045話 全てを知る巫女

赤い光が地面から立ち上がり、円と五芒星ごぼうせいを描く。


その赤い光のおりに捕らわれたのは、光の巫女ヒュウガだ。


ヒュウガは、人形のようにピクリとも動かない。


「…イマリッ!」

ナルが天井を見上げ叫んだ。


私も、ステンドグラスが割れた天井を見上げる。


割れた天井からは、二つの影が、ゆっくりと舞い降りた。


一つは、イマリだ。

その瞳はまだ、虚空を見つめ、生気が宿っていなかった。


もう一つの影は…。

三日月の中心に太陽を模した飾りが付いた、金属製の大きな杖を持っていた。

青く、真っ直ぐ伸びた長い髪は、肩口からミックスカールに変わり大人らしさを演出する。

紫紺の瞳は、全てを知っているかのようなクールさだ。

黒色のロングドレスを着た彼女の髪の隙間からは、後ろへととがった耳が見える。

彼女はダークエルフと呼ばれる種族だろう。


二人は、宙に停止する。


ダークエルフは宙から、私たちとヒュウガに紫紺の瞳を巡らせた。

「生き残っている全ての巫女が、お揃いですね。はじめまして、私は魔の巫女ローズ=マリーです」


落ち着きのある声は、続ける。

「光のオーブは、剣の巫女と血の巫女の手中に渡りましたか…私たちは遅かったようですね」

ローズ=マリーはイマリに視線を送り、瞳を閉じた。


再び開いた瞳は、私たちを捉える。

「まぁ良いでしょう…七つのオーブは、聖杯が無ければ意味を持ちません」


「私たちは、待ちましょう

世界が終わり、世界が始まる地で…」

ローズ=マリーは天へ、向かい始めた。


「うおぉぉお!!」

ナルが叫び、ローズ=マリーにせまる。


「イマリを…返せっ!!」

《赤いかんざし》がローズ=マリーに振り下ろされた。


"ガキンッ!"


「……なんでよっ…」

弾き返されたナルは、やるせない表情で見上げている。


ローズ=マリーの前には、《漆黒しっこくのカタル》を振り下ろしたイマリの姿があった。



ローズ=マリーが言う。

「あなた方も、お越しになられたでしょう……雪に包まれたいにしえの街、あの地で待っています」


ローズ=マリーは天井のすみに視線を送る。

「あなた様も、それでよろしいでしょうか?」


そこにいた蝙蝠こうもりは、ヒラヒラと舞い、天井から外へと飛び立った。




―― 割れた天井から、いつか見た蝙蝠こうもりと、二人の巫女が去っていった。


血の巫女とは……

聖杯とは……

あの蝙蝠こうもりは……


謎だけを、たくさん残して。

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