040話 全世界 西部管轄 枢機卿

ナルは項垂うなだれたまま、首もとにあるカタルの刃を横目に納めた。


この状況、私は下手に動けない。


「…まさかバロックがられるなんてね」

バロックの遺体を見ていた瞳は、ナルへと視線を戻す。


「…はぁ…はぁ…」

ナルは下を向き、肩で呼吸をしていた。


ナルの腹部からは血が流れ続け、床に作った血溜まりを更に大きくしている。


不意に、カタルは円を描いた。

"カキンッ!ガキンッ!"


ナルが床に刺していた《アマテラス》と、片手剣はカタルに払われ、床を滑る。


銀色に輝く左手カタルを、再びナルの首もとに下ろし、女は言った。

「私はカレリア、最強の忍であり…そして、西部管轄 枢機卿でもあるわ」


カレリアと名乗った女の身体も、白くぼんやりと光っている。


カレリアは、ナルを見下ろしたまま続ける。

「私はバロックのように甘くはないわ…あなた方には、ここで死んで頂きます」


カレリアの右腕が静かに後ろに引かれ、カタルはナルの背中へ一気に突き出された。



刹那せつな、ナルの姿がブレる。


"ガギャンッ!"

不快な擦過音さっかおんに続き、カレリアの両手のカタルが弾かれた。


ナルは独楽コマのように高速回転しながらも、私の方へ跳ねていた。


宙に、フワリと舞っていた綺麗な黒髪は、ナルの着地に合わせて、綺麗に一つにまとまる。


ナルは二刀流のように持った赤いかんざしでカタルを弾いたようだ。


「ショコラ!下がってて…

…すぐ終わらせる!!」


満身創痍まんしんそういなナルは、そう言って笑顔を残し、カレリアへと疾走した。


カレリアもまた、ナルへと疾走している。


二人は正面から衝突した。


カレリアが叩くように振り下ろした右カタルは、ナルの左手 かんざしに払われた。


同時に、ナルの右手 かんざしが跳ね上がっていたが、カレリアは左カタルをかんざしうようにわせ、それを華麗に受け流した。


カレリアは、払われた右カタルの勢いを利用し、その場で回転、二つの刃をナルの首へ送り込む。


ナルはしゃがみつつ、カレリアの軸足へ、かんざしを突き立てる。


空気を切り裂きながら進んだ二つのカタルは、黒髪だけを斬りながら頭上を通過。

かんざしは足の甲から侵入し、肉を裂きながら床に抜けた。


「おぉりゃぁああぁ!」

カレリアを床に縫い付けたナルは、叫び、かんざしを振るう速度を上げる。


カレリアも負けてはいない。

縫い付けられた右足は気にせず、更に一歩前へ進み応戦した。



二人は、頭がぶつかり合いそうな

超至近距離。


二人の間に、刃が舞う。

二人の間に、赤と銀の残像が飛び交う。



いつしか大聖堂は

二人が織り成す音に支配された。


金属音と、擦過音さっかおん

くうを裂く音と、打撃音。

気合いの怒声と、苦痛にあえぐ息。

汗が床を跳ねた音と、血が飛沫しぶく音。



そして、ついに……



振り下ろされたカタルに、ナルは更に一歩踏み込む。


カタルはナルの左肩へ食い付き、肉を切り裂き、鎖骨を叩き割った。


血飛沫ちしぶきが高く舞う。


だが、捨て身の前進に、遠心力を殺されたカタルの刃は、そこで停まる。


ナルの前進は、カレリアを抱擁ほうようした形になった。


ナルの左手が、カレリアの後頭部をつかみ更に抱き寄せる。


ナルは、カレリアの耳元でつぶやいた。


「あなたより強い忍を、私は知っているわ」


カレリアの身体が痙攣けいれんする。


ナルの右手に握られた赤いかんざし

カレリアの喉から侵入

頚椎けいついを粉々に砕き

頭蓋を割り脳を潰しながら天に抜けていた。


ナルは、カレリアを縫い付けていたかんざしと、髄液ずいえきにまみれたかんざしを、一気に引き抜き、身をひるがえした。


遅れてひるがえる黒髪の向こう…ナルの背後でカレリアはくずれ落ちた。



"……カランッ…カラン……"


ナルは、かんざしを落とした。


そして、気を失うように倒れた。

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