039話 どこまでも速く

《アマテラス》は確実に、バロックを両断していた…。


避けられてなど、いなかった…。


その証拠にバロックの全身鎧は、腰回りが綺麗に破壊されている。


何が…起きている…?


ナルの背後にいるバロックは、ナルの腹部に突き刺した片手剣を、思い切りグリグリとひねり回した。


ナルの腹部と腰部で、血飛沫が舞う。


ひねられるたびに、音を立てて血が吹き出す。


刃貫通時に傷付けられていた小腸は、片手剣に巻き取られ、ブチブチと音を立てながら、引き千切ちぎられた。


「いっ……たぁ…ぅぅぐっぁぁあ!」

ナルはうめき声を上げる。


バロックは片手剣の回転を止めた…その刃は外を向いている。


ここから水平に刃を走らせ、ナルの腹を裂き開くつもりらしい。



…バロックは、ナルを甘く見たようだ。


ナルは内臓を巻き取られ、うめきを上げながらも、強烈な肘打ちをバロックの顔面に繰り出していた。


"ドゴンッ"


肘が顔面にめり込む。


肉は潰れ、骨が砕けた鈍い音が響いた。


「ぐはっ」

思わぬ反撃にバロックは数歩、後退あとずさりした。


その手に片手剣は握られていない。


ナルは肘打ちの反動を上手く使い、身体を反転…腰から腹部に抜けていた片手剣は、自ら引き抜いた。


再び、対峙した二人のその後は…

あまりに対照的だった。


"ガランッ…ガラン、カラカラン……"


腹部から大量に、血を撒き散らしながらも、ナルは疾走した。


地に落ちていた《ガラハド》は、疾走ついでに蹴り飛ばされたようだ。


バロックは《ガラハド》と片手剣、どちらも失っている。


バロックへ迫るナルは二刀流だ。

その右手に、《アマテラス》。

左手には、自ら引き抜いた片手剣。


バロックは優しく笑い、目を閉じた。


「うぉおりゃぁあああ!」

ナルの叫び声だけが響いた。


二つの刃は嵐のように、バロックへと襲い掛かった。


刃は、脚を斬り、左手の指を四本斬り、肩を斬った。


全身鎧がガランガランと剥がれ落ち

辺りには、バロックの血が舞い散る。


ナルは腹部の血を撒き散らしながらも

二刀を振り回して、止まらない。


二人の血が舞い散る中で、ナルは死の舞踏ダンスを踊り続けた。


……ナルも、気付いたようだ。


刃は確かに、バロックの肉体を斬っている。

バロックの血も宙に舞っている。


しかし刃が肉体を抜けたその刹那せつな、斬り傷が驚異的な速度で修復されているのだ。


刃は脚を斬ったが、脚は地に落ちない。

左手の指を四本斬ったが、指は全て左手にある。

肩を斬ったが腕は胴から離れなかった。


おそらく…最初から、常時バロックの全身を包んでいた、ぼんやりとした白い光。


あれが超回復をなし得ているのではないだろうか…。


あまりに強大な能力過ぎて、思考が追い付かない。


そうだとしたら、枢機卿すうききょうバロックは……

殺すまで止まらない狂気の戦士だ。


それは、場合によっては

……すごく残酷な最後になる。


かなりの苦痛がバロックを襲っているはずだが、バロックは安らかな笑顔のまま、目を閉じて動かない。


「うぉおりゃぁあああ!」

ナルは、さらに速度を上げた。


アマテラスは、肺と心臓を……

片手剣は、脳を……


同じ急所を、ひたすら斬りまくる。


「おおりゃゃああ!!」

更に速くなる刃……。



ついに、超回復の速さを

ナルの刃が上回った。


……あり…がとう…?

バロックの口が、そう動いた気がした。


《アマテラス》は肺と心臓を斬り飛ばし

片手剣は脳髄を撒き散らした。


ナルの舞踏ダンスが止まる。


訪れた静寂。


ゆっくりと、仰向けに倒れるバロック。


ナルは呟いた。

「…はぁはぁ、時間掛かって、ごめん

…長い時間、苦痛だったね…ごめん…」


ナルも相当、疲れたようだ。


《アマテラス》と片手剣を床に突き刺し

その場に、崩れ落ちた。


私は、ナルの元へ急ぐ。

出血が多過ぎて危険な状態だ。



「……動かないで」

ナルの首筋には、カタルが…あった。

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