036話 全世界 中央部管轄 枢機卿

―― ラクト市街


「あら、そうなの~」

「大変ねぇ」

「今度、やったら承知しないわ」

井戸端会議をしている女性が三人居た。


「!…… ヒソヒソ」

「…!…ヒソ?」

「……!ヒソヒソ」

「…じゃ、じゃあまたね」

「…私も時間だわ」

「…は、はい、また~」


…私たちは明らかに避けられていた。


港を突っ切った私たちは、ラクト市街の大通りに出た。


その時からすでに、奇異の目に晒され続けている。


私たちが、進む先は自然と人混みが解消され、その背後では、ヒソヒソと何やら噂をされる。


だからといって何か行動を起こすわけでもなく…奇妙な疎外感を感じていた。


そんな大通りを避け、住宅街に入ったのだが、ここでも、やはり何やら噂され、避けられていたのである。


ラクトの街は予測より大規模で整然とした美しさがあった。


大きな港を中心に放射線状に商業施設や娯楽施設が軒を並べ、その合間を縫うように蒸気機関車が走り回っている。


ずっと奥の方には民家がずらりとどこまでも並んでいた。


なにより、一番目を引いたのは、港から南側の小高い丘、そこにかまえている巨大な教会だ。


港から教会までは、一本の主幹道路がまっすぐ伸びており、港から見上げた教会は、まるで宮殿や、お城などを思わせる壮観をしていた。


奇異の目に晒されながらも、私たちが目指す先は、その教会しかなかった。



丘の上に構える教会が近付き、私たちは再び大通りへと足を運んだ。


高台から不意に港を振り返る。


あの時見た、華美かびな船が停まっていた。


他にも、大型船がちらほらと停泊し、小型船はずらりと並んでいる。


船舶は、全て白色基調になっており、海の青と相まって絵画の様な美しさを演出していた。


「良い眺め~!」

ナルは手のひらを目の上にかざして、海を見渡している。


しかし、すぐに真面目な顔に戻り、ナルは教会へと振り返った。


高くそびえ立つ教会は、私たちを迎え入れているかの様にも見える。


「さぁ行きましょうか!」

ナルは堂々と歩み出す。


私たちは、ついに教会の敷地へと足を踏み入れた。


"ギィィィィィィィ……"

ナルは、教会の大きな扉を開いた。


私たちを待っていたのは、巨大な空間だ。


天井は、見上げるほど高い。


両サイド一面に張られたステンドグラスは、その天井に迫る高さまであり、圧巻の一言。


一番奥にかまえる祭壇は、それに負けじと両脇に天井まで延びるパイプオルガンを従えている。


純白と黄金のツートーンカラーからなる祭壇と、その奥の壁に掲げられた大きな赤い十字架は、圧倒的な美と、近づき難い神聖さを醸し出していた。


その祭壇から私たちが立つ入り口までは、幅五mほどの純白な絨毯じゅうたんが一直線に延び、その絨毯じゅうたんを挟んで、木製の長椅子が左右にずらりと並ぶ。


信者達が祈りを行う場所…大聖堂とでも、呼ぶべき場所なのだろう。


「お、お邪魔しま~す……」

あまりにも神聖な雰囲気に、ナルは誰も居ない大聖堂に、挨拶しながら足を踏み入れた。


神への挨拶だろうか?


そんなことを思っていた時だった。


祭壇から返事があった。


「ようこそ!カメリア教団へ!!」

若さの中にも威厳を含んだ、男の声だ。


ナルは、この大聖堂で場違いな格好をしている男へ、いきなり直球すぎる要求を投げ掛けた。

「教皇と、お逢いしたいのですが…」


鋼鉄の鎧で、その巨体を包み隠し、腰には片手剣を携え、そして右手に巨大な盾を持った男は、軽く笑いつつも、丁重に返事を返した。

「残念ながら、教皇様は、いのりのでお忙しい…用件なら私が聞きましょう?……」

男は続ける。


「全世界中央部管轄 枢機卿すうききょうバロックが」

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