035話 到着、ラクト港
―― オリゴ
ラクト港
私は壁に耳を当て、外の音に集中する。
蒸気機関の音は静まり、代わりに大勢の作業員たちの声が、飛び交い始めた。
「……ナル…着いたみたいよ…」
「いよいよね!…カプリ」
ナルは桐の箱に詰められていた黄桃を食べながら答えた。
私達はスノウス港で、オリゴ行きのコンテナに忍び込んだ。
一刻も早く…オリゴへ…。
ただその一心で手近なコンテナを選んだ。
まぁ、それが運良く、高級フルーツばかりが積み込まれたコンテナだったわけで。
適度な温度と湿度に管理されたコンテナで、お腹が空いたら、バナナにブドウに黄桃にイチゴ!大陸中から集まった極上品が食べ放題!
…と、快適な旅をしていたわけだが…
コンテナを積んだ船は、オリゴ唯一の玄関口、ラクト港に、ついに到着した様だ。
…ここから先は地理情報すら無い、出たとこ勝負。
…まさにコンテナを、開けられたとこ勝負になる。
"ガチャガチャンッ!"
「……!」
ナルは《アマテラス》を構える。
金属音は、上からだろうか。
"ガチャンッ…ブゥゥゥゥゥ…"
次は機械音と共に、床がフワリと揺れだした。
ナルは背を壁に預け、バランスを保っている。
どうやらコンテナは、吊られているようだ。
しばらくして
"ガシャーン!………ガチャガチャ"
体にわずかな重みが一瞬加わった。
コンテナは地面に降ろされた。
作業員たちの声が、コンテナの扉の前に集まる。
"ガチャ、キィィィ……"
コンテナの扉が、開いた。
一気に光が射し込み、目の前が真っ白になる。
「行くわよっ!!」
ナルの声と同時に、私はナルの胸に押し込まれた。
ナルは扉に向かって飛び蹴りをし、その勢いのまま猛ダッシュした。
もはや目的地などない、ただ、ここから去るためだけの疾走だ。
背後では、作業員達が怒号を飛ばしているが、ナルはお構い無し!
楽しそうに駆け抜けたのであった。
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