032話 消失

"ガシャーン!"


ナルは、目を見開き大声で叫んだ。

「うーわわわわ!!ちょ、ちょっと!?ストップ!ストーーップ!!」


「ちょっと!ナルっ!?やばいやばい!止めてぇ!」

大木を目の前に、私も叫ぶしかなかった。


"ガシャーン!"


猛スピードで駆けるクリューソス・リュコスは、そりを次々と大木にぶつけながらも、その足を緩めることはない。


その暴走っぷりは、手綱を握るナルの指示を、金狼が完全無視しているかのようにも思えた。



名も無き村で、何の手掛かりも掴めなかった私達は、西へと進路を取り、スノウスへの一刻も早い帰還を目指していた。


……イマリ…。


そうイマリが、おかしいのだ。


あれから一言も喋らず、瞳は虚ろにただ一点を見つめている。


スノウスほどの街なら、イマリを診れる医者が、居るはず。


いや、居てくれないと困るっ!


イマリの笑顔を取り戻すため、私達はひたすら西を目指した。



陽が沈み、白銀は闇へと変貌する。


暴走しつつも、ある程度、西へと進んだ私達は、慣れた手付きで野営を張った。


野営も、もう何日目だろうか…。


漆黒の闇と、吹き荒む風の音のみが支配する豪雪地帯の夜は、ただそれだけで、心を恐怖が支配する。


こういう時は、速やかに寝るに限る!!

「ナル、イマリ…おやすみっ!!」


「もう…食べれにゃぃ…ムニャムニャ」

「……スゥ……ハァ……スゥ……」


「……」

二人はすでに、寝ていたようだ。



―― 深夜 野営テント内


"……ガサッ……ゴト……"

…雪が…テントに落ち…た音……?


"……ジジーーー…パサッ…"

…ちょっと寒いよ?……誰?…

ん?……イマリ……?…

早く閉めて……寒いよ……


"……ジジーーー……"


"……ザギュッ……ザギュッ

……ザギュッ……ザギュッ

……サギュ……サギュ…

……サク……サク………

……サ……サ……サ…… "

……ん~?……夢……?……



―― 朝 野営テント内


…夢なんかじゃ…なかった……。


「……ナル…起きてっ!!」


「…んにゃんにゃ…うーん?」

まだ、目が開かないナル。


私は怒鳴った。

「大変なの!!早くっ!!」


「ん~?朝から何~?」

ナルは身体を起こし、目を開けた。


私は現実のみを、伝えた。


「イマリがどこにも、居ないわ……それと、五つのオーブも…全部無くなってる…」


テントの外、白銀の世界は、イマリの痕跡を全て消し去っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る