029話 花火の陰でカメリア教団

―― スノウス海流 南西


"ひゅ~~~~…どぉん!"


雪が舞う、漆黒の寒空に咲いた大輪は

スノウスの街全体を色とりどりに染め上げ

人々を魅了して止まない。


赤や黄、青に輝き、そして散っていく大輪に

イマリは、手に持った苺クレープを忘れ

ほうけて夜空を見上げていた。


一方、ナルは大輪が咲く度に

歓声をあげ、そして

右手に持ったチョコクレープを、かぷり。

左手に持ったチョコバナナを、かぷり。


私はそんな二人の顔に映る色を見たり、

夜空を見上げたり…。


空に響く轟音ごうおんと、街に響く歓声は

ナイアガラ、スターマインと続く

クライマックスで最高潮に達した。


ナルは花火が上がる反対方向、スノウスの北を指差し、不思議な顔で言った。

「…あの光!…なに!?」


私とイマリも、視線を送る。


見たことが無い光の列に私も疑問符で返す。

「なんだろうねぇ?」


「…UFO?」

イマリは、その光をジーっと見つめたあと…眼前に広がる花火に視線を戻した。


10~15個の白い光の球が、等間隔で東へ進んでいた。


光自体は小さく、場所的に…海上…かな。


それは暫くして、山の陰に入り消えていった。


私も視線を、美しいナイアガラに戻す。



大盛況のまま、花火大会は終了した。


私達は、人混みに飲まれながらも

帰路についている。


「…スターマイン…まぶしかった」

目をぱちくりさせながらイマリは感想を述べた。


「最後は、いっぱい花火が上がりすぎて、どれを見ていいか解らなかったよ!」

ナルがスターマインの凄さに同調しているようだが、ナルはその時、溶け出したアイスクリームの処理に必死だったことを私は知っている。


「寒空に上がる花火も綺麗だったね」

私は二人の間を飛び回り、続けた。

「また、三人で見に来ようね………」


「……」

ナルは無言。


「……次、…左に」

イマリが小声で指示を出した。


「やっぱり花火はスノウスだよね~」

私は、感づかれないよう花火の話題を続けた。


イマリは前を見つめたまま、つぶや

「……しばらく、まっすぐ」


「あ、イカ焼きぃ食べてないよぉ!」

ナルの、わざとらしい演技も発動した。


「……ゴール」

イマリが立ち止まる。


私達は、人気が無い暗い路地を振り返った。


そこには、スノウスや花火大会には居ないであろう、異様な服装で統一した男女四人が、道を塞ぐように立ち止まり、私達を見ていた。


彼らが着用しているのは、法衣ガウンだろうか…。


そのデザインは白い生地に、左胸で縦横にクロスする太めの赤いラインが入っている、割とシンプルなものだ。


「あなた方が剣の巫女、闇の巫女、それから妖精で、間違いありませんな?」

初老の男性が一歩前へ出て、軽く会釈した後、丁寧に問いかけてきた。


ナルは問いを無視して、いきどおりをぶつける。

「あなた達は何なのよ!?人を着けるようなマネをして!」


人当たりの良さそうな若い女が答える。

「これは、これは、失礼致しました。私達はカメリア教の信者です。…最近、教団のことを嗅ぎ回っている犬が、スノウスに現れたそうで…私達のことはすでに、ご存知かと思いました」


「それでカメリア教団が私達に、何か?」

私は、彼らから、わざわざ接触してきた意味を問う。


「ただの、事実確認だよ。こんな街中で何も出来やしねぇだろ!」

言葉の荒い男が、ぶっきらぼうに答えた。


「……私は闇の巫女…教団とか関係なく……邪魔するなら排除する」

イマリは、ただ彼らを見据えた。


そのイマリの瞳に、物怖じせず若い女が喋った。

「…私達、教団はいくさを望んではいません!……今日のところは帰りましょう。また、話し合いに参ります。平和的な解決を」


女が一礼し、四人は大通りに消えていった。


「あらら…ホントに帰っちゃった」

ナルは拍子抜けした顔をしている。


カメリア教団が私達に接触してきた。


これは、大きな意味を持つ。



カメリア教団と巫女…

点と点が、線で繋がった……

カメリア教の教皇に巫女が着いた

という噂は、一気に真実味を増した。

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