028話 難攻不落のカメリア教団

港街スノウスの前に広がるスノウス海流は、沈み始めた太陽の光を、いつまでもキラキラと反射している。


その海流の向こう側にうっすらと見える島国 オリゴをかくすかのように…。


私達は個々に分かれ、ここ数週間スノウスで、ある情報を収集、調査していた。


それがある程度の情報量となったので、海の見えるカフェに集合し、情報のまとめと共有をしようとしている……。



―― カフェ《アプリコット》


私は目眩めまいを覚えつつ、一応聞いてみた。

「……あんた達、なんで浴衣なの?」


赤い生地に白い金魚が描かれた浴衣を着たナルが、びっくりしたように答えた。

「いやいやいや!ショコラ!

今日、花火大会だよ!久しぶりだよぉ」


「……花火大会は、はじめて」

黒い生地に白い金魚が描かれた浴衣を着たイマリも、そわそわしている。


私は集合する日時の設定をどうやら間違えたようだ。

「と、とりあえず、あなた達から預かった情報と私の情報をまとめたから、異論とかあったら、すぐに教えて!」


「「 了解 」」


二人は窓から見える夕空を見ながら返事した。


二人には、空に咲く大輪がもう見えているようだ。


私はなかあきらめ、たんたんと読み上げた。


「西海岸の港街スノウスが、大陸で一位二位を争うほどまでに栄華えいがを極めた理由として、一番に挙げられるのが、スノウス海流を挟んだ対岸の島国 オリゴとの独占交易である」


「オリゴは島の、その特異な形状からよく

"難攻不落のオリゴ"

と呼ばれている」


「島の全周を高い山々が囲い、唯一、北海岸に島内部へ進入できる航路がある」


「しかし、その航路は大型船が、やっとすれ違い出来る幅しかなく、しかも両岸は高い岸壁がそびえ立ち、それが島中央の港街 ラクトまで延々と続いている」


「綿あめとたこ焼きとぉ…」

「……金魚すくい?」


「コホンッ! えーっと、武装した船舶せんぱくなどが、こうした

"終わらない入国審査" や

"24時間監視体制" と

呼ばれる航路を突破し

攻め入ることは不可能に近い」


「一方で、北海岸の狭き航路しか持たないオリゴは大陸との交易をスノウスに限定せざる終えない状況が長らく続いていた」


「これは、オリゴにとって深刻な問題である」


「りんごあめ、かき氷にぃ…」

「……水風船?」


「コホン!…オリゴは、貿易を止められるだけで滅びる弱小国家の筆頭として世界に認知されており

"難攻不落"とは皮肉めいた

ものの言い回しとなっていた」


「そんなオリゴだったが近年、島内のカメリア教団が突然、暴徒化しわずか数年で、オリゴはカメリア教団に占領された、と噂されている」


「カメリア教団による内乱の影響で、島内部への立ち入りは厳しく制限されており、それが単なる噂なのか、または真実なのか、確かめる手段は今のところ存在しない」


「スノウス原住民は言う

スノウスにカメリア教徒が増えていると」


「そして最後、数年前に

カメリア教団、教皇の座に着いたのは当時、よわい16の少女、大和出身の巫女ではないかと……」


「クレープにフランクフルトォ…」

「……スターマイン?」



私はテーブルの下に隠してある花火大会のパンフレットを見ている二人に言った。


「……ナル、じゃがバターは外せないし、

イマリ……ナイアガラも綺麗だぞ」



―― 陽は沈み、街は華やかさを増す。


極寒の地で上がる花火に彼女らは

ひとときの安らぎを得るだろう。

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