027話 ……雪?

―― オーザリア大陸、北西部

西海岸 最大級の港街 スノウス


「ん~ふふ~ふ~ふ~ん♪」


分厚い暗雲あんうんが月と星を覆い、そらは更に闇色を濃くする。


どこまでも続く、吸い込まれそうな空の闇は、肌を差す極寒ごっかんさに拍車はくしゃを掛ける。


闇から落ちてくる雪は止むことがなく、ふわり、ふわりと、この街を白く染め上げていた。


空の闇、大地の白銀というモノクロの世界に、港街スノウスは、灯台、客船、漁船、お店、そして民家のあかりを色とりどりに広げ、大陸一とうたわれる夜景を見事に演出している。


「ん~ふふ~ふ~ふ~ん♪」


さっきから鼻歌を歌っているのはナルだ。

何の歌かは解らないが、ご機嫌なのは解る。


私は、落ちてくる雪をゲーム感覚で避けながら、しばらく自由に飛び回り、イマリを探す。



イマリは、素っ裸だ……


イマリは素っ裸で、左手を身体の前へ出し夜空を見上げていた。


長時間、ここに居たせいで、イマリがおかしくなってしまった。

私はイマリの前に回り込んだ。


「イマリ?」

イマリは私を視界に納め、再び夜空を見上げ、呟いた。


「……雪…」

そう言いながら左手のひらで

雪をキャッチしはかなく溶ける雪を見つめる。


イマリは、また左手を差し出し夜空を見上げた。


南国に位置する大和では、雪は降らない。イマリは初めて雪を見たのかも知れない…。


いつも冷静沈着で、的確な判断を下し

もの凄く頼りになって…

そんなイマリはまだ

雪に、はしゃぐ17歳の少女であることを

私は思い知らされた……。


っと、17歳の少女に、ちゃんと注意しておくべきことがあった!

「イマリ…まず温泉に浸かってないと風邪引くわよ。それと…足元に落ちてるタオル、身体にちゃんーと、巻きなさいっ!」


イマリは、タオルを巻き直し、私を見た。


「……」


そして、温泉に浸かり

再び、私を見た。


「…わ、私は良いのよ!妖精なんだから裸でも!!」

イマリの頭の上を飛び回り、妖精であることをアピールする。



そして、それは突然だった。


イマリの顔に、直径7cmほどの雪玉が直撃した。

雪玉は砕けて散り、大半が温泉に落ちて溶けた。


イマリは鼻の頭に雪を残したまま、投球フォームを終えたであろう格好をしているナルを見つめた。


「ふっふっふ~♪イマリ!雪合戦よ!!」

ナルは、卑怯な先制攻撃に勝ちほこった顔をして雪合戦を申し出た。


「……」

イマリは無言で、温泉を出る。

そして、そばに積もっている雪を、まるめだした。


「くらえぇ!」

ナルがタオルを、はだけさせながら叫んだ。

卑怯なナルは、なんと雪玉を作り置きしていたようだ。

次々にイマリへ、たまに私へも、雪玉を投げている。

作り置きしていた雪玉が残り少なくなった時だった。

ナルが、投球フォームの途中で動きを止めた。

ナルの目と口が、あんぐり開いている。

私もナルの視線の先、イマリを見る。


「…許さない」

デカイ雪玉が、イマリの声でつぶやいた。


直径2mくらいの雪玉の後ろから、イマリは顔を出した。

そして、ナルの位置を確認後、再び雪玉の後ろへ消える。


「「 ちょ、ちょっと待ったぁぁ!! 」」



―― デカイ雪玉は、ナル、私、

そして何故かイマリをも巻き込んで

温泉へ落ち…消えていった。


温泉からは、素っ裸の少女二人と、妖精の

笑い声が、いつまでも闇夜に響いていた。

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